水素・燃料電池実証プロジェクト(JHFC)事務局は27日、東京・芝大門の日本自動車会館で、今年度より新体制となったJHFCプロジェクトの事業説明会を実施。これまでの実証試験成果をはじめ、燃料電池自動車(以下、FCV)の動向、水素インフラの動向などについて報告した。

会場では各自動車メーカーのFCVの試乗会も行なわれた

まず、FCV(Fuel Cell Vehicle)開発の背景について短く触れておこう。日本のFCV実証試験は、欧米諸国に次いで2002年から準備期間を設け、現在は技術実証と社会実証を併せ持つ第2フェーズへと入っている。また、2008年7月の北海道洞爺湖サミットでG8・主要8カ国は、2050年までに二酸化炭素排出量の半減を目標(Cool Earth 50)に採択することに合意。この目標に対し日本の経済産業省などは、効率の向上と低炭素化の両面から、二酸化炭素の大幅削減を可能にする21の革新技術を提唱。そのなかに「燃料電池自動車」と「水素製造・輸送・貯蔵」の2つの技術が含まれた。

重点的に取り組むべきエネルギー革新技術(出典:経済産業省)

そして現在、トヨタや日産などの民間の自動車メーカーと、石油産業活性化センターや日本自動車研究所などの実施者団体らが共同で、FCVおよび水素インフラの開発を進め、2015年以降を第3フェーズと定めて「一般ユーザーへの普及開始を目指す」(燃料電池実用化推進協議会)としている。

FCVと水素ステーションの普及に向けたシナリオ(出典:燃料電池実用化推進協議会)

こうした背景のなか、今回の説明会で幾度となく出てきたキーワードが、「コスト」だ。今、FCVを取り巻く各動向の最大の課題は、コスト低減だ。FCV自体にしても、水素ステーションなどのインフラにしても、ビジネスモデルとして成立するまでに至っていない。日産自動車のFCV担当者は「コスト高はFCVの最大の欠点。コストというといわゆるプライスと製造原価という2つの意味があるが、例えば製造原価については、その桁をひとつ下げるような変化がなければ普及することは極めて難しいだろう」と話すほどだ。

水素ステーション建設費の概略(出典:水素・燃料電池実証プロジェクト)

しかし、コストという大きな壁が立ちはだかるFCVにも明るい話題もある。日本自動車研究所が発表したFCVの「シャシダイナモ燃費測定(燃費結果)」によれば、2008年の調査でFCVの燃費の平均値は108.5km/kg-H2。ガソリン等価燃費で29.7km/Lとなり、対2004年度比で17.4%の向上を達成させている。また、最新(2008年)のFCV燃費データ(トップランナー)のWell to Wheel分析によると、1km走行あたりの一時エネルギー投入量(単位はMJ/km)はガソリン車の約半分ほどという結果も出ている。

シャシダイナモ燃費測定(燃費結果)(出典:出典:JHFC記者会配布資料)

FCVを開発する自動車メーカーたちは、こうした現状をどうとらえているのか。各社のFCV担当者がそれぞれのFCVに対するスタンスを語っていた。

トヨタ自動車

FCHV-adv(トヨタ自動車)

電気自動車(以下、EV)、燃料電池車(FCV)、プラグインハイブリッド車(以下、PHEV)、そして現在販売されているハイブリッド車(HV)と、それぞれに固有のメリットや特徴がある。例えばEVはたくさんバッテリーを積まないと、走れる距離が稼げないから、小さなコミューター的な役割を担い、山手線内の街乗り用などとなるだろう。そして東京から大阪まで行くとなると航続距離に長けたFCV、その中間的な位置として、平日の通勤で往復20km程度使い、土日は家族でドライブするなどと考えている場合はPHEVという住み分けができるかもしれない。ただ、現段階では、量産化のメドが立つのが早いのはEVかもしれない。

日産自動車

X-TRAIL FCV(日産自動車)

まず環境ビジネスというのは、HV、PHEV、EV、FCVと切り札がひとつではないということ。一つの技術で全部をまかなうことはできなくて、結局全部の技術開発を行なっているというのが自動車メーカーの現状です。500kmや600kmを走ることができるEVとなると、巨大なバッテリーを積むことになるので技術的には本末転倒になる。航続距離が長い電気自動車はありえないだろう。いっぽうでFCVはコスト高だが、充填時間は5分程度である程度長く走れる。仮にコストが安いFCVが出ればガソリン車にとってかわる存在になるだろう。そこで我々のスタンスは、『商売に結びつくかどうか』です。EVは商売になると読んだので開発している。だから、ビジネスモデルとしてすぐに結びつかないFCVについては、こうした事業とともに技術開発に取り組んでいくという考えだ。

本田技研工業

FCX Clarity(本田技研工業)

ゼロエミッションという考えからいうと、最終的には電気自動車とFCVが残るだろう。FCVは燃料電池ばかり強調されるが、実は立派な電気自動車。水素を燃料としているのでコスト高となるが、将来的には究極のエコカーとしてのポテンシャルが高いのも確か。ガソリン車と同じ価格帯になれば、ガソリン車のほぼすべてを置き換えることができるだろうと考えている。そうした将来に向けて、これからは世界で戦える材料技術などの基礎研究にいち早く着手し、コアな技術を確立させることが重要だと考えている。

マツダ

プレマシーHydrogen RE ハイブリッド(マツダ)

自動車の環境対応技術の開発は、内燃機関のほかに、EVやRHEV、FCVと、多様性をもって進むはず。マツダは内燃機関を使った環境対応技術ということで、水素内燃機関と電気モーターを組み合わせたハイブリッド車を開発したが、今後も内燃機関は動力と切っても切れない関係であると考えている。来月にアイドリングストップ技術を取り入れた新車を発表するが、内燃機関の技術によってまだまだ環境に対応できる部分があるのではないかと思っている。今後、水素インフラが過渡期にさしかかったころには水素内燃機関というのも重要な技術選択のひとつになりうると考えている。

メルセデス・ベンツ日本

メルセデス・ベンツAクラス F-Cell(メルセデス・ベンツ日本)

クルマがタイヤを使って走る以上は、最終的に電気で走ることになると考える。が、実際に燃料電池自動車の普及はまだ時間がかかるだろうから、内燃機関の改善や電気モーターとの組み合わせによってどう走らせるかなどについて考えているというのが現状だ。ただ、ストップ・アンド・ゴーを中心としたハイブリッド車に力を入れている国産メーカーと異なるのは、メルセデスのような欧州メーカーは、ヨーロッパにおける高速巡航ドライブの機会が多いということから、ディーゼル・エンジンでの高速巡航時の効率化などに向けて先行して開発しているという現実がある。

このように各自動車メーカーがFCVへの見解を示すいっぽうで、インフラとなる水素ステーションの動向も厳しい。エンジニアリング振興協会によれば、都市ガス改質ステーションの水素供給原価を試算すると、現段階で70MPa(大型)サイズのステーションを建設するのに約7億円(土地代を含まない)がかかる。この建設費について、天然ガスステーションの約1億円、ガソリンステーションの数千万円と比べるとはるかに高い額であることがわかる。さらに水素供給原価は1kgあたり1300円から1850円。この価格幅は経済産業省の2020年目標価格に対して2倍以上という状況だ。

Well to Wheel分析(出典:出典:JHFC記者会配布資料)

FCV普及までは、まだまだ長く険しい道が続くと思われる。が、石油の生産量がピークを迎えるのが2030年とされている中、国は2020年までにFCVを500万台、2030年までに1500万台を走らせることを目標としている。これは2030年には日本のクルマの5台に1台がFCVになる計算だ。今後のFCVを取り巻く環境には、2015年からの市場への初期導入、2020年からの本格普及へ向けて、コストダウン化・量産化を可能とさせる大胆な施策が必要だといわれている。