――大河原さんが『機動戦士ガンダム』のメカデザインを担当されることになった、経緯をうかがえますか?

「サンライズさんのアニメは、ずっとそれまで、ぬえさん(スタジオぬえ)がやってたんです。作画監督として参加する安彦さん(安彦良和氏)が、ぬえさんにしようか私にしようか、ずいぶん悩んだらしくて、ぬえさんを立てるとなると、かなりSF考証にうるさいだろうと。エンターテインメントを考えた場合、タツノコから来た人のほうがいいんじゃないかということで、安彦さんは私のほうを選んだみたいですね」

――ロバート・A・ハインラインのSF小説『宇宙の戦士』に掲載された、宮武一貴さんが描かれた装甲強化服「パワードスーツ」の挿し絵をもとにデザインされたとか……。

「初めは安彦さんが、『宇宙の戦士』のイメージから、今でいうガンキャノンのラフ(デザイン画)を描いてきたんですよ。サンライズの作画監督というのは権限がかなりあるので、メカデザイナーがどんなデザインしようが、作画監督がこうしたほうがいいって言うと、そうなっちゃうわけですよね。だから、ぬえさんがやったライディーン(『勇者ライディーン』)なんかでも、ぬえさんの絵をもとに、安彦さんが作ってしまう。そういう会社の特徴っていうのがあるんですね」

――主役メカのラインナップというのは、どのようにして生まれたんでしょう?

「あれもオモチャ主導ですから、商品が売れないと成功したとは言えないんで、ガンキャノンは安彦さんのラフをもとに、ガンダムも私が描いたやつを安彦さんが直したりして。で、2体じゃ商品として寂しいんで、"じゃあ、ガンタンクさっさっと作ってよ"って言われて、ガンタンクができたんですね」

――連邦側の主役メカと敵方であるジオンのモビルスーツとは、どのように描き分けをなさいましたか?

「一応、連邦はアメリカ軍、ジオンはドイツ軍という、自分なりの分け方はしてましたね。特に、マーチャンダイジングの対象は主人公の3体で、敵はどうでもいいわけですよ。だからザクなんかは、富野監督(富野由悠季氏)と私の間で完結しちゃうわけですよね。ですから、商品化されるものに対して、それに負けないような敵を作りたいということで」

――ジオンのメカは、商品化を前提とした主役(連邦)メカと違って、制約が少ないわけですね。

「フラストレーションあるわけですよ。スポンサーの意見も聞かなきゃいけないし。そういうのがなくて、自由になるっていうと敵方なんですよ。だからメカデザイナーは、敵をやってるほうが楽しいでしょうね」

――『ガンダム』の物語の後半は、わりとハイペースで新しいジオンのモビルスーツが登場してきますが、その中で、富野監督がラフをお描きになったりしたものもあったんでしょうか?

「結構、ラフはきってましたよ。私そのころ、4本同時に仕事してましたんで、タツノコでいうと『ゼンダマン』(『タイムボカンシリーズ ゼンダマン』)とか、サンライズの『ザ☆ウルトラマン』とか。物理的な問題で、時間がないんですよね」

――ところで、『装甲騎兵ボトムズ』のアーマードトルーパー(AT)には、足の裏のホイールを回転させて走る"ローラーダッシュ"や回転するレンズ"ターレット式三連カメラ"、火薬が爆発した勢いでパンチを繰り出す"アームパンチ"や脚が変形して胴体が前に降りる"降着ポーズ"といった、おもしろい動きを描写する材料となるギミックが付いてますね。

「初めはそういう設定はなかったんです。ジープ感覚で、人物との対比があのくらいで、っていう漠然としたもので。結局、そういう演出をしたいということで生まれたのがそれらですね。なんか薬きょうでも飛び出して、炸薬の力を借りてとか、そういうのがおもしろいんじゃないっていうとこから」