ここ近年、大手企業だけでなく中堅・中小企業の間でも、「クラウドコンピューティング」というITの新しい利用形態が注目を集めるようになってきた。そこで今回は、クラウドコンピューティングのサービスを提供する先駆的企業として、世界初となる10億ドル超の年間売上を達成したセールスフォース・ドットコムに、中堅・中小企業を取り巻く現状や具体的な活用例などを聞いた。

セールスフォース・ドットコム 執行役員 コーポレートセールス本部長 福田康隆氏

「お客様がクラウド型のサービスに乗り換える大きな理由としては"低コスト""低リスク""スピード"の3つが挙げられますが、最近は経済環境の変化から"生産性の向上"も経営者のテーマとして取り上げられるようになってきました」と語るのは、セールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)の執行役員 コーポレートセールス本部長を務める福田康隆氏だ。

世界的な経済不況の影響を受け、近年では少人数でより多くの業務を行うことが求められている。確かに自社でシステムを保有すると、どんなに小規模でもサーバやデータベースの運用・保守などを行うためには、IT関連のスキルを持った人材が必要となるだろう。しかし、中堅・中小の企業ではIT部門がごく少数の人員で賄われていたり、場合によってはパソコンに詳しいというレベルの人材が、他の業務と掛け持ちでシステム管理を担当しているケースも多い。

福田氏は「セールスフォースのサービスはこうした状況下でも運用・保守の手間を一切考えることなく、たとえ高いITスキルを持つ人材がいなくても登録から運用まで簡単、かつ迅速にご利用いただけます」と、中堅・中小企業に対するメリットを語る。

クラウドコンピューティングの世界では運用面での負荷を軽減し、その分の社内リソースを注力したいビジネスに集中できるため、生産性が向上するというわけだ。

また、セールスフォースは利用に応じた課金モデルを採用しているので、コストが計算しやすく、予算化しやすいというメリットもある。同時に企業の拡大・縮小に合わせて最小限のコストで運営できるのも大きな特徴といえる。自社システムでは構築時にある程度の規模を想定する必要があるほか、変更にも多くの手間やコストを要することから、ここまで企業経営に即した柔軟な対応は不可能なのである。

こうした意味でクラウド型のサービスはインターネットに接続すれば利用できるのはもちろん、企業として重視されるセキュリティ対策や災害対策も万全で、現在、世界で5万5400社以上が活用していることで実証されている。しかも他システムとの連携まで行えるため、現存のシステムを無駄にすることなく、中小企業にとってもまさに理想的なサービス形態といえるだろう。

顧客の要望に応える「カスタマーサクセス」を実践

セールスフォースでは、業務をスムーズに立ち上げるためのメニューを用意している。まずは導入時の支援として、同社およびパートナー企業によるコンサルティングサービスを提供。また、導入後はいかに活用できるかが大きな鍵となるため、課題解決につながる無料のワークショップや、「Success Clinic」も定期的に開催している。その内容は機能面を重視した現場レベルに近いものから経営者層向けまで多岐にわたる。福田氏は「特に中堅・中小企業は技術的な視点ではなく、経営者がビジネス視点で導入を決めるケースが圧倒的に多くなっています。実際にツールの使い勝手よりもKPI(Key Performance Indicators)設定などビジネス戦略自体に課題を持つお客様が多いため、同じような悩みを抱える方々が意見交換できる場所を提供しています」と語る。

こうした取り組みは、同社の基本精神「カスタマーサクセス」を象徴している。「セールスフォースは利用に応じた課金制のサービス形態なので、お客様が本当に満足していなければ解約されてしまうリスクがあります。そこで継続利用していただくため、現在のお客様に最大限満足してもらえるサポートを行っています。直接販売でもパートナー経由の販売でも分け隔てなく、常にお客様の考えを把握するべく、コミュニケーションを絶やさないように心がけています」と福田氏。