--気候や地理などの条件を考えると、シスタの成功は当然といえないと思います。シスタが欧州のシリコンバレー、世界第2位のベンチャーシティといわれるほどに成功したのはなぜでしょう?

最初に挙げたいのは、スウェーデンの伝統です。気候的条件も関係していますが、スウェーデンはイノベーションを重視する国で、起業を支援しようという風土があります。ノーベル賞が良い例です。

国際的環境も挙げられます。ほとんどのスウェーデン人が英語を話しますが、これはわれわれが自国の言葉だけを話していては生き残れないことを知っているからです。ストックホルムをはじめ、スウェーデンはとてもオープン、国際的で、国外の人を受け入れる気持ちも強い。国外の企業からは、英語を話す高スキルな人材がそろっていると評価されています。

毎年ノーベル賞授賞式が行われるストックホルム市庁舎

ハイテク以外にも、日本に上陸して話題となっているアパレルのH&M、家具チェーンのIKEAなどもスウェーデン出身だ

Ericssonはシスタに複数のビルを持つ

最後に、Ericssonの存在があります。Ericssonに依存しているわけではありませんが、世界最大級の通信企業があることは知名度向上に役立っています。

我々は、常にシスタを魅力的な場所にすることにフォーカスしています。最も重要なことは、インフラの整備です。空港とストックホルムへのアクセス、駐車場の完備など、シスタを働きやすい場所にしています。

それから、企業どうしを結びつけるようなイニシアティブも展開しています。研究機関と企業の連携も重要です。われわれの仲介なしに連携が生まれればと思います。クラスタは構築するものではなく自然発生するものです。これを促進していきたいと思います。

--シリコンバレーや他のベンチャー育成環境との違いは? シスタの魅力は何でしょうか?

他と単純に比較できませんが、質の高さを差別化にしていきたいと考えています。

今後の目標としては、国際関係を強くすることです。欧州、米国だけを見ているのではだめだと思っています。日本、韓国、インドなどもあります。まだ完全に開放されていない中国やロシアもあります。

我々の戦略は、単純な競争ではなく、競争と協力です。我々の最大の目標は成長ですが、成長には競合する企業が協力しあうことが不可欠です。シスタを強くすることは、ストックホルムを、スウェーデンを強くすることにつながります。さらには、欧州を強くすることにもつながります。

我々は、ヘルシンキ、コペンハーゲン、タリンなどのバルト海の都市と協力しており、共同でできる可能性を探っています。ライバルであるはずのヘルシンキの同業者とやり取りしていると話すと米国の人からは驚かれますが、2つの都市が競合と協力により強くなれば、長期的な競争に勝てます。これは、欧州連合の構想そのものです。

たとえば、NokiaとEricssonは激しく戦っていますが、共同の研究開発プロジェクトもあります。

歴史的に見ても、競合があれば強くなれることは実証されています。そういう意味で、自分たちの仕事は終わりのない作業だと思っています。

--今後の計画について教えてください。

現在、4つのプロジェクトが進行しています。1つ目は、イベント会場の建設です。展示会や会議を開く施設と4つ星ホテルを建築します。現在、シスタは通勤する場所ですが、滞在する場所としても開発を進めます。

2つ目は、ショッピングモールKista Galleriaの完成です。Kista Galleriaは、シスタ駅と連結しており、現在スカンジナビア最大のショッピングモールです。昨年の来客数は1,500万人でした(参考: スウェーデンの人口は約900万人)。

Kista Galleriaはシスタ成功の一要因で、ドレスから電気製品、食品、レストラン、書店、おもちゃと何でもそろいます。営業時間は10時から21時で、年中無休。車でもアクセスできます。

3つ目は、道路の整備です。これには、現在地上にあるシスタ駅を地下にするプロジェクトも含まれています。冬や悪天候に備えられます。

4つ目は、居住地としての発展です。現在、シスタで働いている人のうち、シスタに住んでいるのは8%程度ですが、居住地としても魅力的にしていく計画です。一部のアパートは来年にも居住可能となりますが、居住エリアとしても高い知名度を得たいと願っています。