東京ビックサイトで開催中のエコプロダクツ2008では、数多くの環境に優しいエネルギー技術が紹介されている。ここでは、それらの中から、水素と酸素の化学反応で電気と熱を生産し、排出物は水だけというクリーンエネルギーシステム「燃料電池」に関連する展示をまとめてお伝えする。

エネファームの実物が見られる新日石、東京ガス、パナソニック、JOMOブース

パナソニックやENEOSセルテックなどが機器を製造し、09年度より東京ガスなどのエネルギー供給会社が設置・販売を開始するエネファーム(家庭用燃料電池コージェネレーションシステム)。パナソニックやENEOSセルテックの親会社にあたる新日本石油のブースでは、発電と貯湯ユニットからなるエネファームの実物を展示し、注目を集めていた。東京ガスは、ブース全面を使ってエネファームをPR。同社は10月31日に導入世帯向けの特別料金プランを発表済みで、ユーザー向けのカタログも揃い、販売開始に向け準備万端といった様子だった。また、アイシン精機も、トヨタと共同開発したエネファームを小規模ながら展示。気になる機器の本体価格については、各社が口をそろえて「政府の補助金額決定を待って決定する」としていた。なお、担当省庁である経済産業省からは、現在70億円規模の概算要求が出されている。

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新日石は、大規模分譲住宅地にエネファームを順次導入中。150戸という世界最大規模の集中的な導入で、09年省エネ効果などを4年間にわたり検証する。この「福岡水素タウン」は福岡県/西部ガスとの共同事業だ

東京ガスブースは、ほとんどがエネファーム関連の展示(左)。右写真は、水を電気分解(水電解)し、取り出した水素で燃料電池による発電をするデモンストレーション模型。現在のエネファームは、都市ガスなどの化石燃料を改質して水素を取り出すため、改質の際にCO2を排出する。このモデルのような水電解を利用し、それに必要な電力を太陽光などでまかなうと、究極のクリーンエネルギー供給システムとなる

パナソニックは、ブース入り口付近にエネファームを展示。「燃料電池マジックシアター」でエネファームを解説するアニメーション映像を10分おきに上映しており、視聴希望者が列をなしていた

燃料電池車普及のボトルネック「水素の運搬」に取り組むジャパンエナジー

燃料電池を搭載した自動車の普及には、ガソリンスタンドにあたるインフラの整備が不可欠だ。現在、資源エネルギー庁が主体となり、JHFC(水素・燃料電池実証プロジェクト)を推進中。関連各社が全国12カ所の水素ステーションを運営し、2015年の本格普及開始をめざして安全性やエネルギー効率など実績データを積み重ねている。実験段階であることから、水素ステーションによって水素の製造・運搬・供給方法が異なり、現在のところどの方法も一長一短。省資源性、低炭素性、事業化コスト、製造能力などの観点からベストな方法を模索している。

ジャパンエナジーが運用に参加する船橋水素ステーション。ただし、ここには有機ハイドライド技術は採用されていない

東芝燃料電池システムが製造し、ジャパンエナジーが設置を手がけるエネファーム

ジャパンエナジーは、現在の水素ステーションにはない新しい運搬方法として、有機ハイドライド式を提案するパネルを設置。これは、製油所から排出・廃棄される副生水素などを、石油製品の一部であるトルエンを媒介にして運搬するというもので、液体化するため既存の化成品用タンクローリーを使って様々な場所から水素を運べるというメリットがある。このほか、気体のまま圧縮して運ぶ高圧水素式より一度に運べる量が多く、運搬効率がいいという長所も。ジャパンエナジー精製技術センターの梅沢順子さんによると、この有機ハイドライド式と高圧水素式に、水素を冷やして液化し運ぶ液体水素式を加えた3種類を比較すると、以下のようになるとのことだ。

一度に運べる量 高圧ガス<有機ハイドライド<液体水素
運ぶ状態にするために必要なエネルギー 有機ハイドライド<高圧ガス<液体水素
運ぶ状態から車に充填する状態にするために必要なエネルギー 液体水素 = 高圧ガス<有機ハイドライド
ステーションの建設コスト 液体水素 = 高圧ガス<有機ハイドライド

なお、これらはすべて外部から水素を運び込む「オフサイト型供給」に必要な運搬方法で、使用する場所(水素ステーション)で都市ガスなどを改質して水素を製造する「オンサイト型」という方法も存在する。オフサイト型は、製油所などで使用されずに捨てられている水素を活用できるという点で、化石燃料を原料とするオフサイト型よりも省資源性に優れる。ただし、その優位性を生かすためには、効率のよい運搬方法の確立が不可欠というわけだ。

水素を含む産業ガスの製造・販売を行うジャパン・エア・ガシズもブースを出展。同社はガスの圧縮技術を持ち、オンサイトでメタノールから水素を製造、高圧ガス化して車に充填する川崎水素ステーションの運営に関わっている。自動車会社からのニーズで実証実験が開始された高圧水素の70Mpa化については、「産業ガスの圧力は20Mpaが普通。これと比較すると70Mpaはすごい数字です」と実用化へのハードルの高さを語っていた。

バイオマスから水素を取り出す会社も

このほか、注文住宅業界最大手の積水ハウスは、エネファームを設計プランに組み込んだ住宅商品「CO2オフ住宅」(2008年7月発表)を解説するパネルを展示。また、変わったところでは、日本計画機構がバイオマスをガス化し水素を取り出すプラント「BLUEタワーシステム」のパネル展示を行っていた。ドイツDM2社がライセンスを持つ技術とのことで、現在、NEDO(新エネルギー産業技術総合開発機構)共同研究事業となっている1号機(徳島県・阿南市)と、環境省補助事業となっている2号機(島根県・出雲市)が稼動している。燃料電池用水素市場を新規市場として見据えており、2カ所のプラントには諸外国からの視察が絶えないという。