日立システムアンドサービスは11月13日、「企業の人的資源を引き出す社内SNS / Blog活用術」をテーマとした定期セミナー「Prowiseビジネスフォーラム」を開催。 基調講演では、データセクション代表取締役の橋本大也氏が、「ソーシャルネットワークと集合知 - SNS、Blog、Wiki活用の知識経営」と出する講演を行った。

データセクション代表取締役 橋本大也氏

ブログ「情報考学 Passion For The Future」で知られる同氏は、「ソーシャルネットワークのデジタル化によって、人脈が可視化され、研究しやすくなった」とし、ソーシャルネットワークに関する10の知見 / 理論を概観しながら、それらをどう企業活動に活用できるのかについて考察を行った。橋本氏が上げたソーシャルネットワークに関する10の知見 / 理論は、以下の通り。

スモールワールドの理論

郵便物をランダム転送してどのようなネットワークが現れるかを研究した社会学者スタンリー・ミルグラムの理論。171カ国、6万人で試した結果、あらかじめ決めた19人のターゲットに伝わるまでに、国内なら5人、国外では7人経由して到達するという。橋本氏は、それらを踏まえたうえで、現実のネットワークにも、「類は友を呼ぶ」「あなた、私、第三者の3人の関係がランダムよりは近いということ」「地域と職業のつながりが特別に強い意味を持つ」といった特徴があると指摘した。

弱い紐帯の理論

スタンフォード大学の社会学者マーク・グラノヴェッターが提唱する理論で、「私たちは普段から高頻度で接し信頼しあう強い関係を結ぶことが人脈力だと思いがちだが、現実の人間関係において重要な社会資本を生み出しているのは、社外や遠方でときどき会うような人たちとの弱い関係の方だ」というもの。ここから、橋本氏は、ITソーシャルネットワークを積極的に活用し、弱い紐帯の維持と活性化をはかる手段として、インスタント・メッセンジャーがあるとした。

構造的空隙の理論

ロナルド・S・バートが提唱した理論で、知人同士のクラスタ間を結びつける人は、知人の数が少なくても、ネットワーク構造上で重要な役割を果たすというもの。橋本氏は、「皆が知らない人と私だけがつながっている関係(ブリッジ)を持つことが、2つの組織を結びつける仲介力につながる」とし、具体的な活動として、社員が持ち回りで、個人的なつながりを使って、社外から講師を招く勉強会などに役立てることができると説明。

信頼の解き放ちの理論

社会心理学者山岸俊男氏が提唱する理論で、赤の他人を信頼できるかどうかの度合いが高い社会では、離れたコミュニティにいる者同士が、近道を作って情報交換することが容易になるというもの。その例として、信頼関係をベースに知識を蓄積していく地域SNS型レビューサイト「Yelp」「Insiderpages」や蔵書公開SNS「Shelfari」などを紹介した。

・適正規模150人説

イギリスのサル学者ロバート・ダンバーによる調査で、現代の人間が共同生活を営むのには、約150人が最適な規模だとするもの。同氏は、「軍隊や会社、宗教組織などの機能単位も約150人であり、個人的にも、メッセンジャーの登録人数が150人を超えたあたりで急に便利になったことを実感した」と紹介した。

BAモデルの理論

アルバート・ラズロ・バラバシとレカ・アルバートが提唱した、新たな構成員が増え続けて成長していくネットワークのモデルの1つ。「この人は有力だからつながっていこう」という心理によって、新規参加者はすでに知り合いの多い人を優先し、その結果、少数のハブ型人間が一層の影響力を強めるという。このため、早期にネットワークに加入した人が有利とされ、これは、SNSコミュニティによく見られる。

見えざる大学の理論

D. プライスが提唱した、地理的に遠く離れた別々の組織に所属する比較的少数のエリート科学者たちが、個人的でインフォーマルな情報交換を行うことで、最先端領域において、多大な影響力を及ぼす集団になる現象のこと。これは、例えば、企業内でも、自主勉強会、研究サークル、たばこ部屋、ゴルフ、異業種交換会などで見られるという。橋本氏は、このような"大学"を活用するうえでは、トイレの壁新聞や、たばこ部屋など、「秘密の場の共有感が親密さ」を生むとし、公式社内掲示板は閑古鳥でも、勝手コミュニティは発達することの例を挙げた。

日本家屋の仕切りの知

日本家屋の知恵として、襖や障子など、完全に遮断しないことが、風通しのよい組織をつくるとするもの。例えば、外部のASPサービスを利用したり、フリーソフトのインストールを行うことを上司は、「見て見ぬふり」をすることも必要で、内部統制と創造性のバランスをとる経営感覚も必要とする。

パーコレーションの理論

つながり密度が一定の閾値を超えると、系の性質が変わるとする、浸透閾値の理論。例えば、パチンコ玉とガラス玉を混ぜ交わせると、パチンコ玉の割合が全体の31%を超えたところで急に電流が流れ出すもの。ネット上でも、「Flashbobs」とよばれる現象(2ちゃんねるでの、牛丼店舗に大挙して集合し注文した例や広島へ折り鶴を寄付した例など)として見られる。

賢い集団の理論

多様性のある自立した個人の意見を集約した場所に、集団の知恵が生まれるというもの。例えば、ベストセラー『「みんなの意見」は案外正しい』にあるように、子牛の体重を当てる例で、群衆の800人の回答の平均が実際の体重に90%近似していたことなど。

橋本氏は、実際にこうしたソーシャルネットワークに対する知見を企業のSNSやBlog、Wikiなどに活用する例も増えているとし、セールスフォース・ドットコムの「Ideas」、デルの「IdeaStorm」、P&Gの「BeingGirl」、インテル社内のWiki「IntelPedia」などを上げた。また、日立システムが提供するソーシャル・プラットフォーム「InWeave」も、SNS、Blog、Wikiを組み合わせたものとして興味深い製品だとした。