自動車メーカー各社が10日~12日、首都高速道路が主催した環境イベント「首都高エコ・ロマンティックパーキング」にて、合計9モデルの最先端エコカーを展示、一般向け試乗会を行った。お披露目された各社の取り組みを始め、高速道路では初めて設置されたというEV(電気自動車用)の急速充電器をレポートする。

ロータリーエンジンで異彩を放つマツダ「RX-8 ハイドロジェンRE」

イベントが開催された高速湾岸線 大黒パーキングエリア内(神奈川・横浜)には、電気や燃料電池といった、代替エネルギーで走るクルマが実車展示され、行きかう一般客の注目を集めていた。中でも人気が高かったのは「マツダRX-8 ハイドロジェンRE」だ。大衆向けモデルをベースにしたエコカーが多い中、スポーティなエクステリアが目をひく。

マツダRX-8 ハイドロジェンRE

同モデルは、JHFC(水素・燃料電池実証プロジェクト)にも参加する水素エネルギー車だが、国内他社のモデルが水素を酸素と化学反応させ、電気にしてから使うFCV(燃料電池車)であるのに対し、同モデルは水素をそのまま燃焼させてエンジンを駆動させる水素ロータリーエンジン車だ。ガソリン併用のデュアルフューエルシステムとなっており、イグニッションキー付近のボタンを押してガソリン走行から水素走行に切り替える。

燃料電池車と比較したメリットは、「ベースとなるRX-8に高圧水素タンクとパイプ、水素ガスインジェクターを加えるだけでつくることができるため、比較的低コストでの生産が見込める点」(マツダ広報)。これは、ロータリーエンジンの特性によるもの。水素吸入の行程で着火してしまう「バックファイア現象」を生じずに、ガソリンと同じ経路でエンジンに水素を入れることができるためだ。とはいえ、「現行試作車のままでは1,000万円を下らない」といい、「300万円前後で買えるRX-8よりやや高いぐらいの価格にするためには、コスト高の要因になっている水素タンクの低価格化が必要」という。

ボンネット内部。オレンジ色のパイプが水素をエンジンに供給する

35Mpaの高圧水素タンクはトランクに収納

ワンタッチで燃料のシフトが可能

ボディ左側にガソリン給油口

右側には水素の充填口

インパネのメーターもデュアルフューエルシステムに対応

なお、同社はすでに、電気モーターを搭載し燃費を高めた"水素ロータリーハイブリッド車"「マツダ プレマシー ハイドロジェンRE ハイブリッド」を発表している。インフラ整備などの面で水素に先行する電気に照準を合わせたという。

急速充電器の充電速度は家庭の約30倍

さて、電気で走るEVだが、EVにとってガソリンスタンドの役割を果たすのが、電力会社が自動車メーカーと共同開発研究を進める急速充電器。今回、高速道路としては初めて、首都高速道路が大黒PAに設置した。ただし、他業態も含めると東京電力の管轄エリア内では18台目とのこと。新丸の内ビル(東京・千代田区)の地下駐車場や、10月2日にグランドオープンしたイオンレイクタウン(埼玉・越谷市)駐車場などにも設置されている。

急速充電器とEV「R1e」(富士重工業)

最大400V/80Aでの充電が可能で、富士重工業のR1e(写真)に充電可能な9.6kWhを、約15分でフル充電するという(実際は過充電を防ぐため、7~8kWhに達したところで充電をストップするよう制御されている)。これは、100V/15Aでフル充電に約8時間かかる家庭用電源の約30倍のスピードだ。実演してもらったところ、50%程度の充電量を80%にするのにかかった時間は6分だった。

充電器は、意外にコンパクト。本体右のカバーを開くとコネクタが収納されており、これを取り出してノズル部分をクルマに差し込めば準備完了。本体の液晶パネル下に位置するボタンを押すだけで充電が開始され、自動的に停止する。コネクタを持ってみたが、ガソリンスタンドの給油ノズルよりもはるかに重かった

家庭用コンセントからの充電口はこちら

インパネのメーターは燃料の量ではなく残航続距離を示す

なお、現在の法律では電気の再販が認められていないため、充電器の設置事業者が、ガソリンスタンドと同じような従量課金システムをとることはできない。仮に認められたとしても、昼間の電気料金でフル充電しても約160円、現在余っている深夜電力を使えばこの3分の1という超小口取引だ。そのため、関係者によれば、「駐車場代や施設利用料に含むかたちでの課金になるのではないか」とのこと。設置事業者にとって初期投資費用となる設備の価格目標は300万円+設置工事費といい、低価格化に向け、高岳製作所とハセテックという機器メーカー2社と東京電力との共同研究が進んでいる。

プラグインハイブリッドは家庭充電が前提

ところで、同様に充電が可能なエコカーでも、電気自動車に搭載されているのはリチウムイオン電池で、トヨタのプリウス・プラグインHVはニッケル水素電池搭載。充電口のコンセントの形状も異なっており、プラグインハイブリッドに先述した充電器は使えない。これについてトヨタ広報は、「ガソリンベースのハイブリッド車を始点に"電気シフト"を進めた結果、誕生したのがプラグインハイブリッド。街乗りが前提の電気自動車とはメリットが異なるので、外出先での充電は想定していない」と説明する。

プリウス・プラグインHV

プラグインHVの充電口とノズル。EVとは形状が異なる

家庭の電源(三口コンセント)から充電する

実際、プリウス・プラグインHVの、ニッケル水素電池を電源とするEV走行距離は200V電源でのフル充電時で13km。スーパーへの買い物など、ごく近距離に限ってEV走行が可能なレベルだ。ただし、ベースとなっているプリウスの航続距離は1597.5km(10-15モード)と、遠出にも十分耐えられる性能を擁している。今回展示されていたEV、スバル「R1e」(航続距離80km/市街地モード)と三菱「I MiEV」(航続距離160km/10-15モード)は、街乗りをメインにした小型車。電池だけでなく、そもそものコンセプトが異なるというわけだ。

最もエコなのはどの技術?

他には、トヨタが燃料電池ハイブリッド車である「FCHV-adv」やハイブリッド車である「レクサスLS600h」を、日産は燃料電池車「X-TRAIL FCV」と、「X-TRAIL 20GTクリーンディーゼル」、ホンダが「CIVICハイブリッド」を展示していた。展示車両の主要諸源は以下のとおり

名称 メーカー 動力 出力 充電時間 航続距離 市販
FCHV-adv トヨタ自動車 水素燃料電池+モーター 90kW - 830km 月額84万円で限定リース
プリウス・プラグインHV トヨタ自動車 ガソリンエンジン+モーター 56kW(エンジン)+50kW(モーター) 200Vで約1~1.5H EV走行で13km 2009年中に日米欧にてリチウムイオン搭載モデルをフリートユーザ限定で導入予定
レクサスLS600h トヨタ自動車 ガソリンエンジン+モーター 290kW(エンジン)+165kW(モーター) - 1024.8km 970万円~で市販中
X-TRAIL FCV 日産自動車 水素燃料電池+モーター 90kW(モーター) - 500km 月額84万円で限定リース
X-TRAIL 20GTクリーンディーゼル(MTのみ) 日産自動車 ディーゼルエンジン 127kW(エンジン) - 988km 299万9,850円で市販中
CIVICハイブリッド ホンダ ガソリンエンジン+モーター 69kW(エンジン)+15kW(モーター) - 1550km 228万9,000円~で市販中
RX-8 ハイドロジェンRE マツダ 水素/ガソリンエンジン 80kW(水素)/154kW(ガソリン) - 100km(水素)+549km(ガソリン) 月額42万円で限定リース
iMiEV 三菱自動車 電気モーター 47kW(モーター) 100V/15Aで約14時間 160km 2009年以降に市販化
R1e スバル 電気モーター 40kW(モーター) 100V/15Aで8時間 80km 開発はプラグイン ステラ コンセプトに移行

エコカーは百花繚乱の様相だが、果たしてどのモデル、どの技術が最もエコなのだろうか。------ モータリゼーションにとっての"エコ"をひもとくと、走行時とエネルギー供給体制における省資源性と低炭素性、持続可能性ということになるだろう。現在のところ、電気自動車は火力発電時、水素車は都市ガスや灯油などからの改質時にCO2が発生するため、必ずしも低炭素性の高い乗り物とはいえない。また、どちらも化石燃料を一次エネルギーとしているため、持続可能ではない。省資源性に関しても、well to wheel(井戸から車輪まで)のエネルギー効率となると、一次エネルギーの運搬にかかるエネルギーなども考慮に入れる必要があり、単純な比較は難しいようだ。いずれにしても、電気は太陽光による発電、水素は製鉄所などで発生する副生水素の利用など、環境負荷の少ない一次エネルギーの生産・運搬方法が確立されてこなければ、「どれが一番エコ」という判断はできない。

トヨタは、エコカーについてまとめた冊子のなかで、バイオ燃料やディーゼル、ガソリン、電気、水素といったエネルギーの「適時・適地・適車」と、代替燃料ハイブリッドやプラグインハイブリッド、電気自動車といった技術を組み合わせる「ハイブリッドテクノロジー」が"究極のエコカー"を生み出すという開発思想を謳っている。いずれにしても、「これこそが完璧なエコカーだ」という理想形はまだ見えてこない。逆にとらえれば、地域性や用途に合わせた技術・モデル選択や、単一のエネルギーに頼らないエネルギー源の多様性が、脱石油社会の本質なのかもしれない。