携帯電話のストラップにつけたり、ネックレスにしたり、浴衣に合わせる簪にあしらったり……、涼しげな表情で夏には欠かせないアイテムであるとんぼ玉。日常的に慣れ親しんでいる硝子細工のひとつではあるが、どうやら最近のとんぼ玉は進化しているらしい!? そんな噂を聞きつけて、伝統工芸と現代アートの要素を兼ね備えたとんぼ玉を取り扱うというとんぼ玉専門店「蜻蛉玉ばぶるす」を訪ねてきた。
東京・高円寺の商店街に佇む「蜻蛉玉ばぶるす」は、現代とんぼ玉作家さんの作品からアンティーク作品まで多彩なとんぼ玉を展示販売するお店。小さな店内にはところ狭しととんぼ玉が並び、オリジナルのアクセサリー制作用に組紐なども販売されている。店の内装は全て、もともと舞台制作に関わっていたという店長の星野雅彦さんのお手製。木のぬくもりが優しい落ち着いた空間だ。
蜻蛉玉 ばぶるす
住所:東京都杉並区高円寺南2-22-6 竹田ビル1F
営業時間:13:00~21:00(年中無休)
最古の硝子技法"とんぼ玉"
一般的にとんぼ玉とは、穴のあいた硝子玉を指す。名前の由来は、模様がとんぼの複眼に似ていることに由来するとの説が有力で、海外ではグラスビーズと呼ばれている。また今から約4,500年前に生まれたとされ、ガラス技法としては最古のものとされている。日本では江戸時代の倹約令のために一時は廃れてしまったが、明治以降に復興され見直されつつあるのだという。
凝縮感がたまらない
店内中央の台に置かれた作家作品に目を向けると、500円玉ほどの大きさのとんぼ玉も少なくない。装飾用が主流だったとんぼ玉だが、装飾という枠を超えて置物として楽しんでいるコレクターも多く、作家さんの作品では"巨大化していっている"ものも多いのだという。
また、点打ち、ひっかき、マーブルなどの基本的な技法のほかに、作家さんの数だけ技法があると言われるだけあって、作品にはひとつとして同じものが存在しない。立体的な花をとんぼ玉の中に咲かせた水中花など幻想的な世界を創り出すために、日々新たな技術が発見され、作家さんたちが鎬を削っている状態なのだ。進化していくとんぼ玉の世界は作家さんたちによる切磋琢磨の結果といえる。
そんなとんぼ玉の内面をじっくり観察するとその小さな球体に詰め込まれた色鮮やかな世界に目を奪われてしまう。透明な硝子と不透明な硝子とを組み合わせることで、立体感や奥行きのある色の世界を築いていけるのは硝子細工ならでは。絵の具では描けない世界観にコレクターや作家さんたちも面白みを見出しているのだろう。
自身もとんぼ玉作家として活動する星野さんは「偶然から生まれる抽象的な表現が好きです。見た人の想像力を膨らせられると嬉しいですね」と話す。好きな画家は、色彩の魔術師・クレー。その答えを聞いて、なんだか納得してしまった。
ガラス実験室へようこそ
さまざまな世界観をもったとんぼ玉を眺めていると、自分だったらこんなものがつくりたい! という気持ちがわいてくる。そんな人のために店内には、プロの作家さんと同じ環境でとんぼ玉づくりが楽しめる「ばぶるす工房」が用意され、とんぼ玉の制作体験もできる。体験は1つ1,575円で、2つ2,100円。初めての人でも丁寧に星野さんが教えてくれるので心配はいらない。工房では、基礎から学ぶ人もいれば、球体ではない硝子アートを創り出す人もいるという。「うちの工房は"ガラス実験室"ですよ」と星野さんが笑うように、その可能性は無限大! なのだ。
また同店では、ガラス棒や制作機材の購入なども相談に乗ってくれるので、この工房でとんぼ玉に開眼してとんぼ玉づくりを始めた人も少なくないとか。万華鏡のようにさまざまな表情をみせ、どれひとつ同じものがないお手製のとんぼ玉――。自分のお気に入りを見つけるか。自分のお気に入りを作り出すか。この夏は自分仕様のとびきりの一品を見つけてみてはいかがだろうか。