アートプラザ(大分県大分市 1966年 / 1998年)
1966年に大分県立大分図書館として開館。同年、日本建築学会賞を受賞している。大分出身の磯崎氏の初期の代表作となった。移転取り壊しの話が持ち上がったものの、地元の保存運動により、1998年にアートプラザとしてリニューアルされた。ギャラリー、多目的ホール、磯崎新展示室からなる。
群馬県立近代美術館(群馬県高崎市 1974年 / 1997年 / 2008年)
木々の緑濃い森の中に、"ホワイトキューブ"と呼ばれる12m角の立方体フレームが建築モジュールとして、連続して置かれているようにイメージされてた構成をいる。この立方体を展示空間のベースとしており、アートを内包するための"空洞としての美術館"となっている。いまやこの空間構成は、世界中の現代美術の展示空間に共通して見られるものとなっており、同館がその原型と言って差し支えないだろう。
同館が群馬県高崎市東部に位置する"群馬の森"に誕生したのは33年前。これまで数度に渡る増改築が行なわれてきたが、増築その外観は建設当時とほとんど変わらずに保たれている。2年4カ月の間、休館して行なわれた今回の改築では、1974年当時に建てられた本館と呼ばれる部分の構造耐震補強と空調・電気設備を含む、全面的な改修・改装が行なわれたが、これまで同様、外観については改変されていない。
展示室については美術空間として、より一層、透明度の高い空間へと改変された。内装はこれまで以上にデザイン的な表現が排除され、余分や突起物や設備機器などはディテールによって極力隠し込まれ、真っ白な空間で作品はより際立つ事となる。本展の主展示が行なわれている展示室1はこれまでの大空間を3つの部屋に再構成し、主展示室の前後に比較的コンパクトな前室1、2を配している。これによりストーリー性を持たせた展示や独立した企画が行なえるスペースへと変更された。
ロス アンジェルス現代美術館(米国 カリフォルニア州 1986年)
Museum of Contemporary Art, Los Angeles、通称MOCA。アメリカ合衆国カリフォルニア州のロサンゼルス市にある近現代美術を専門とする美術館。磯崎氏による新館は1988年にオープンし た。ピラミッド状のトップライトが、前年に提案され偉大な落選案となった東京都庁コンペ案を思い起こさせる。黄金比と陰陽説という西洋と東洋の空間概念に基づく分割方式によって構成されている。
ハラ ミュージアム アーク(群馬県渋川市 1988年 / 2008年)
群馬県立近代美術館と同じく群馬県の渋川市にある伊香保グリーン牧場に立つ現代美術のためのギャラリー。品川にある現代美術の専門館、原美術館の別館で、創立20周年を迎える2008年、同館もリニューアルが行なわれた。オープンにあわせ、現代美術展示室および古美術展示室觀海庵において、『「觀海庵」落成記念コレクション展―まなざしはときをこえて(監修:磯崎新)』を開催、増築棟のコリドーにおいて『磯崎新:7つの自選展「7つのキュレーション」』を併催するとのこと。また、オープン以降には「彫刻庭園」も施設に加わる予定だ。
奈義町現代美術館(岡山県奈義町 1994年)
通称、Nagi MOCA(ナギ・モカ)と呼ばれる同館は建築家とアーティストが共同作業を行ないながら作られた美術館だ。荒川修作+マドリン・ギンズ、岡崎和郎、宮脇愛子の4人のアーティストに、通常の美術館では収容できない規模の作品をあらかじめ制作依頼し、その作品ならびにその空間を収める事ができる建物として磯崎氏が手がけた、アートと建築が半永久的に一体化した美術館だ。美術館の示すひとつの方向としての提案を、公共の施設としては世界で初めて実現したという点で大変ユニークな存在だ。
中央美術学院美術館(中国 北京市 2008年)
北京にある国立美術大学の敷地内で建てられている。フリーフォームの曲面形態を持ち、トップライトからの採光による、エッジのない大空間で構成されている。ホワイトキューブとは異なる展示空間は新たな美術空間の提案と言える。
上海証大ヒマラヤ芸術センター(中国 上海市 2009年竣工予定)
現在、上海市浦東地区に建設中の、ホテル、オフィス、デパート、多目的ホール、そして現代美術館を併設した複合施設。今回の出展作品の中で唯一、建築中の作品。大変、複雑で印象的な曲面構成による中央部分と、ホワイトキューブによる両端部の異なる展示空間を並列しており、新しい試みに取り組んでいると言えるだろう。
同時に「七つのミュゼアム・プロジェクト」および「七つの茶席」も展示されている。「七つのミュゼアム・プロジェクト」は、ブルックリン美術館、クラコフ日本美術技術センター、シュトゥットガルト現代美術館、サンパウロMAC、ミュンヘン近代美術館、ロス アンジェルス現代美術館増築、ラ コルーニャ人間科学館の建築模型、ドローイングなどが展示されている。「七つのミュゼアム・プロジェクト」を展示しているギャラリーは、展示室1に並列されて配置されており、エントランスからレストランや茶室へとつなげるパブリックゾーンでありながら、展示室同等の壁面を備え、公園に面した開放的な展示空間となった。
群馬県立近代美術館は高崎市の郊外に広がる"群馬の森公園"の豊かな緑の中にある。高崎までは上越・長野新幹線で東京駅からおよそ55分と近く、在来線の湘南新宿ラインでも新宿から1時間40分程度(特別快速の場合)と意外に近い。高崎駅からは駅西口から出ている市内循環バスを利用する。高崎からはハラ・ミュージアム・アークのある渋川も近く、新緑が映える季節の小旅行を兼ねて、アートと出会う空間である美術館について考えてみるのも楽しいのではないだろうか?