日本技芸 リサーチャーでネット社会学の論客、濱野智史氏は14日、東京都内で開かれた「オンラインゲーム&コミュニティサービス カンファレンス(OGC)2008」で、「ニコニコ動画は2007年最大ヒットのオンラインゲーム?」と題したユニークな講演を行った。

「ニコニコ動画」でプレイヤーが文字を駆使して戦いを繰り広げる"戦場"の説明図。メインフィールドは濱野氏が「擬似同期」の時間が流れるとする「動画+コメント」となる

濱野氏はまず、ニコニコ動画の動画にコメントを付けることができる機能について、「本当に同じ時間を共有していなくても、コメントが盛り上がっている感覚を常に体験できる"擬似同期"とも呼べる世界を作り出している」と説明。ニコニコ動画では、プレイヤーは文字(キャラクター)を操作しながらメインフィールドである動画上などで戦いを繰り広げるゲームが成立していると述べた。

濱野氏によれば、プレイヤーは4つのレベルに分けられる。まず、コメントをオフにして動画を見ていた「Lv.0」のプレイヤーが何かの拍子でコメントをオンにし、職人コメントを見て思わず感情的な反応を示してしまう「Lv.1:リアクション」が第1段階となる。このレベルは、主にコメントを見ての「笑いと涙」が主な行動となるため、「リアクションレベル」と位置づけられている。

「Lv.1:リアクション」のプレイヤーは、職人コメントを見て思わず感情的な反応を示してしまう「笑いと涙」の段階

「Lv.2:敵情報告」に昇格すると、メインフィールド以外の他の戦線にも顔を出し、報告できるようになる

Lv.1のプレイヤーがメインフィールドの動画上ではなく、他の戦場フィールドである、「タグ」や「ニコニコ市場(Amazonアフェリエイト)」などで「ネタ」を発見し、それについてのコメントをするようになると、メインフィールド以外の他の戦線を観察してその状況を報告できるようになったという意味で「Lv.2:敵情報告」に昇格する。濱野氏はLv.2を「ちょっとだけ視界が広くなってクラスが上がった段階」と定義している。

Lv.2から昇格した「Lv.3:支援/保守」は、「職人への第一歩」(濱野氏)。ニコニコ動画では、ひとつの動画に付けられるコメント数が限られており、ランキング上位になると、後からのコメントに押し出される形で「あの時輝いていたコメントが消えていってしまう」(同)。こうなると、待っていても消えたコメントは復活しないが、「かつて存在した職人コメントを見よう見まねで入力する」ようになると、Lv.3となるわけである。

最高位は言わずと知れた「Lv.4:職人(最前線)」。「もはや作品とも呼べるような字幕で、『ちょwww』や『SUGEEEEEEEE』といった喝采コメントをかっさらっていく」(濱野氏)ようになったプレイヤーは神職人となる。

「Lv.3:支援/保守」は、「職人への第一歩」

最高位は言わずと知れた「Lv.4:職人(最前線)」

さらに、ふとしたコメントが予想外のコメントとなり、Lv.1からLv.4の神職人となる「番外編:突然のクラスチェンジ」も存在すると指摘した。

番外編は例外として、濱野氏はLv.1からLv.4の各レベルで構成されるヒエラルキーを「ニコ動プレイヤーのエコシステム(生態系)」と定義。このシステムを「ユーザーの操作インタフェースが簡単で、Lv.1の『ヌルゲーマー』に対しても非常に親切に設計されていながら、職人の世界も見ることができる」と評価した。

日本技芸 リサーチャーの濱野智史氏

その上で、「ニコニコ動画を見れば、ゲームの世界の『ライトゲーム化』の方向性は、いわゆる『ミニゲーム』にすることではないと示唆している」と説明。また、Webの世界に対しては、「初心者でも『ちょwww』とコメントするだけで参加可能であるなど、初心者にも優しい設計が、Webを設計する上でも大いに参考になるのではないか」とその意義を強調した。

また、11日にニコニコ動画側が放送局に「著作権侵害のテレビ番組動画は削除する」と申し入れたことについては、「ニコニコ動画のアーキテクチャにおいては、動画コンテンツは、共通の話題を提供する"認知の強制スクロール"といえ、ニコ動のゲームとしての面白さは動画コンテンツの面白さとひとまず切り離してよいのではないか」と指摘、「テレビ番組の動画がなくなっても問題はないのではないか」と話し、講演を終えた。