本稿では、木下誠著「たのしいCocoaプログラミング」について取り上げる。「Cocoa」とは、Mac OS Xのアプリケーション開発環境のひとつである。本書はこのCocoaについて入門者を対象に解説したものである。

Mac固有のプログラミングを知るための良書

まず最初に言おう。良書である。

もちろん、万人向けの良書など存在しない。特にこうした技術書においては、まず「対象となる読者」が限定される。そして「対象読者の満足が得られるかどうか」で書籍の評価は決定する。それを踏まえて、再度「良書である」と言おう。

本書が対象としている読者は「Mac固有のプログラミングについては、知識をあまり持たない技術者」である。ここ数年でMacを使い始めた技術者も多いと思うので、これに当てはまるマイコミジャーナルの読者もいることだろう。今、この記事を書いている僕も、まさに本書の対象読者に含まれる。

僕は昨年末にMacBookを買ったばかりで、Macのプログラミング環境についてはまったくといっていいほど知らなかった。CocoaやCarbon、ユニバーサルバイナリ、Xcodeといったプログラミングよりの話はもちろんのこと、dmgファイルやappファイルの実体などについても「???」という状態だった。Cocoaプログラミングで主に用いるObjective-C言語についても知識ゼロ。

そんな僕でも、本書を片手にCocoaを使い、たった数時間でインストーラ付きのRSSリーダを作ることができた――といえば、本書の雰囲気が伝わるだろうか。

本書を見ながらCocoaで作ったインストーラ付きのRSSリーダ

Objective-Cは意外にも簡単だった

僕も開発者の端くれなので、いろいろな言語を見聞きしてきた。しかし、Mac(Cocoa)プログラミングの主役となる言語である「Objective-C」についてはまったくの素人だった。マイコミジャーナルの読者の中にも、そういう人は多いのではないだろうか。そして、そこに敷居の高さを感じている読者もいると思う。

本書でも、「Objective-Cはマイナーな言語だ」という点ははっきり認めている。ただし、それがプログラミングを難しくしているわけではなく、むしろ「簡単だ」という点を何度も強調している。Objective-Cのソースコードを見てもチンプンカンプンだった僕にとっては、「簡単」というのはどうにも信じられず、「先に読み進めさせるための方便」くらいにしか思っていなかったのだが……。

驚くべき事に、Objective-Cは意外と簡単だったのだ。C言語を習得していれば、コツさえ掴めばスラスラ書けるというレベルだ。さらに、本書にはC言語に関する簡単なチュートリアルも付属しているので、C言語を知らない人でも何とか読み進められるだろう。もちろんObjective-Cはまだまだ奥が深くて、まだ僕が知らないことは山ほどあるだろう。しかし「簡単だ」という印象とともに本書を読み終えたところに、この本の良さがある。「さらに高度なことに取り組むのも平気だ」という気持ちになってくる。

また、Mac OS Xには「Xcode」というIDEが付属しており、Cocoaプログラミングをフルサポートしてくれる。これもObjective-Cによるプログラミングが大幅に簡単になる要因のひとつだ。Windowsでいえば、OSにVisual Studioが付属してくるようなものだ(…少し違うか?)。

本書の構成とまとめ

本書は6つの章で構成されており、さらに細かく20のステップに分かれている。最後まで読み終えると、以下のような知識を身につけることができる。

  • Cocoaとは何か、Carbonとは何か
  • C言語、Objective-Cに関する最低限の知識
  • Cocoaフレームワークに関する最低限の知識
  • 開発環境XcodeとInterface Builderの使用方法
  • Macアプリに関するさまざまなトピック(ローカライズ、アイコン、ユニバーサルバイナリなど)
  • 作成したアプリの配布方法(dmgファイル、インストーラの作成方法など)

すべて読み終えれば、あとは自力でドキュメントを見ながら、より高度なCocoaプログラミングを学習していけるくらいの知識が身につくといっても過言ではない。

ただひとつ、本書で惜しむらくは、対象となるOSがMac OS X 10.4.9であることを前提としている点だ。最新のMac OS X 10.5を利用している場合は、開発環境のUIが多少変わってしまっているので、戸惑うこともあるかもしれない。

また本書は、技術書には珍しく「~を作るぜ」というように、文体が「だぜ・だよ調」である。「Macの技術書とはこういうものなのか」と最初はびっくりしたが、それは誤解で、本書の著者によれば「あえて」この文体になったとのこと(詳細はこちら)。慣れてくると、この文体が「読みやすさ」にしっかり貢献していることが分かる(僕もこれからこの文体使おうかな……)。

Macは使いやすいOSなので、もちろん本書に書かれたようなことを知らなくとも「Macを使いこなす」のはそれほど難しくない。ただ、もしあなたがプログラマであれば、自分が普段利用しているOS上で動く何かを作りたいと思うこともきっとあるはずだ。そんなとき、本書が役に立つのは間違いないだろう。

『たのしいCocoaプログラミング 』

木下誠著
ビー・エヌ・エヌ新社発行
2007年6月26日発売
B5変型判 / 356ページ
ISBN978-4-86100-443-8
定価2,940円(本体2,800円)