古谷徹の語る「ガンダム」の魅力

――古谷さんはアムロをとおして、30年近くもガンダムを見続けていらっしゃいますが、これだけの年月を経ても色褪せないガンダムの魅力って何だと思いますか?

「やはり、魅力がたくさんあるのが魅力なんじゃないですか。放映当時は、人間ドラマとして魅力的な作品だなあと思ってました。とっても個性的なキャラクターがたくさん出てきてますし、誰かしら、自分を投影できるキャラクターがいる。そして、その登場人物たちが、決して完璧ではないんですよね。みんなそれぞれに悩みを抱えていたり、夢を持っていたりして、過酷な戦場の中を生き抜いていくわけじゃないですか。やっぱりそのドラマがすごく面白いと思ったし、人間たちがとっても魅力的だなって思いました。あとは緻密な設定ですよね、近未来にこんなことが実際にあるんじゃないかって思えますよね。ニュータイプって超能力だから、僕らにとっては夢だけど、宇宙で生活するようになって、重力から脳が解放されたら、ニュータイプみたいな存在が登場する可能性も十分あるんじゃないかと。そして、それによって戦争を繰り返す愚かな人類も救われるかもしれない、人の心に光が見えるかもしれないって思わせる。そういった緻密な設定もすごい魅力的ですよね」

――ガンダムといえばやはりモビルスーツ

「そうですね。やっぱりメカも重要ですよね。カッコイイだけじゃなくて、メカのデザインにも緻密な設定があってリアルだし、さらに音楽も魅力的だし……。ガンダムって、本当にたくさんの魅力が詰まっている作品だと思うんですよ。それと何より、ファーストガンダムに関しては、当時関わった富野監督はじめとするスタッフと僕ら声優陣が、それぞれのポジションで、すごい情熱と、夢を懸けた作品だったわけです。その想いっていうのが、凝縮され、セリフの端々とか、映像の隅っこにもあらわれているんですよ。なにか新しい画期的なものを作り出してやろうっていう"想い"、しかも、リアルで子どもから大人まで夢中になれる作品にしたいっていう"想い"を感じてもらえるんじゃないですかね」

『機動戦士ガンダムOO』ではナレーター

――話は変わりますが、現在古谷さんは『機動戦士ガンダムOO(ダブルオー)』にナレーターとして参加なさっていますが、出演にいたった経緯を教えていただけますでしょうか

「いちばん最初は、去年のロサンゼルスで開かれた"Anime EXPO"というイベントで、水島精二監督と初めてお会いしたんです。で、僕は水島監督のことは、『鋼の錬金術師』という作品のファンだったので(笑)、好きでしたし、そのお話をしたところ、『実は来年、新しいガンダムを頼まれてて、企画が進行している最中です。よろしかったら出ていただけませんか』って言われたんですよ。僕自身は、ファーストガンダムやアムロを愛してくれている人を裏切ってはいけないという思いがあって、『ガンダムシリーズではほかのキャラクターはできません。アムロじゃないと出ないことにしています』ってお断りしたら、『ではナレーションはいかがですか』って言われて。水島監督も『カーグラフィックTV』だとか、僕のナレーションの仕事をご存じで、まあナレーションなら問題ないかなって、話をしておいたんですよ。そうしたら、今年になって正式なオファーがあって。で、その経緯を聞いたら、水島監督だけじゃなくって、音響監督の三間さんが、やっぱり『カーグラフィックTV』の大ファンで。ちょうどキャスティングの話を進めているときに、『ナレーションに古谷さんはどうでしょう』って、水島監督が話をする前に、三間さんのほうから名前が出たらしいんです。ああ、二人の監督が望んでくれるんだったら間違いないだろう、作品にも合ってるんだろうって思って、お受けすることになりました」

――古谷さんは常々「アムロ以外はやらない」と公言なさってますが、あえて誰かをやってくれ、といわれたらどんな役をやりたいですか?

(苦笑しながら)「どうしてもやらなければならないとしたら、ガンダムマイスターの1人ですね。『ガンダムOO』というのは宇宙世紀じゃなくて、西暦になってますし、グラフィックのタッチも華やか。テーマはファーストガンダムに通じる重いものですが、ああいったキャラクターをナレーションをしながら見ていると、僕もモビルスーツに乗りたいなあ、って思います(笑)。西暦なんで、アムロの匂いとか色とかを感じさせないキャラクターを作り上げてみたいですね。もしかしたら、アムロのファンの方たちも許してくれるんじゃないかなあ、って思います。世界がまったく違うので、アムロと出会うこともありませんし」

――アムロに出会うとまずいですよね

「やっぱり会うとまずいじゃないですか。だから宇宙世紀のガンダムではできない と思うんです」

――ファーストガンダムから約30年の歴史の中で、ガンダムシリーズにもたくさんの作品が登場しています。そういった中で、ファーストガンダム以外で、古谷さんがもっとも好きな作品はなんですか?

「ファースト以外となると、やっぱり一番好きなのは『逆襲のシャア』ですね。一本の映画として見ごたえもあるし、うまくまとまっていると思います。あのアムロが好きですね、僕は。大人で、すごく周りに気遣いができる。いい男になったなあと思います。『逆襲のシャア』だったら、シャアよりもアムロだろって。シャアよりもアムロのほうが格好いいだろう、って堂々と言えますしね(笑)」

――古谷さんにとって『逆襲のシャア』は自信作ですか

「ええ。『逆襲のシャア』は声優としてもやり遂げた作品だと思ってます。チェーンも好きだし(笑)」

――ちなみにシリーズをとおして、もっとも好きな女性キャラクターは誰ですか。

「それはチェーンですよ、アムロを取り巻く女性たちの中では。あの、一歩下がってついてくるあたりがいいですね(笑)」

――それでは、最後になりますが、読者そしてファンの方々へのメッセージをいただけますでしょうか

初回限定版の特典を含めたDVD-BOXの内容一覧。初回特典には「劇場アイテム復刻版セット」として、劇場公開時の復刻版パンフレットやポスターをまとめたブックレット(各DVDサイズ)が付属する。なお、DVDの各ジャケットには安彦良和氏、大河原邦男氏の手による劇場公開時のポスターイラストが使用されている
(C)創通・サンライズ

「今や巨匠といわれる富野監督をはじめ、すべてのスタッフと、他界してしまった名優たちも含めて、才能のある声優たちが、自分の人生の中での"夢"や"想い"を懸けて作った作品なので、もうこれを超える名作ってできないような気がするんですよね。手前味噌になっちゃいますけど、業界の中でも、やっぱりたくさんの作品に影響を与え、そして今や日本だけでなくて、世界にも広がっているわけです。そういう、僕たちが後世に伝えていかなければならない名作なので、今までガンダムを観たことがなかった人はぜひ観てほしいです。ガンダムファンの方は当然買ってくださるとは思うんですけど、その当時の僕たちの"夢"や"情熱"、そして"想い"のエッセンスをぜひもう一度味わってほしいと思います。……ガンダムOOもよろしく(笑)」

――本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました