著作権延長は純粋な経済的問題

第2の論点である、欧米水準に追いつきたいという意識についても、パネリストから多くの意見が出た。中山氏は「日本はまだ敗戦コンプレックスから立ち直っていない。欧米における保護期間延長はインターネットが普及する前の議論から生まれたものであり、日本は真似をする必要はない」と、戦後60年以上経てもまだ残る「欧米に追いつけ、追い越せ」という日本の風潮を批判した。久保田氏は「著作権のエンフォースメント(遵守方策)を充分にできないまま、保護期間だけ延長してもあまり意味がないのではないか。それよりも、国内外できちんとエンフォースメントできる環境を整備することが大切」と意見を述べた。

また、チェン氏は「日本のアニメやゲームはグローバルな広がりを持っており、コンテンツ流通の強者と言えるのではないか。もっと自信を持って日本モデルを発信したほうがいい」と強調した。

会場からも、「著作権が70年に延長されて何か効果はあるのか」との質問が出たが、中山氏は「70年間も価値が続くコンテンツはそうそうあるものではない。むしろ、青空文庫など、マイナスの影響を受ける場合が多いのではないか。また、保護期間延長と著作物に対する尊敬の念を結びつけて議論する人もいるが本来は無関係。期間延長の問題は経済的理由から出てきた問題」と回答した。

コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事の久保田裕氏

クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事のドミニク・チェン氏

この後、(1)正常な利益の保護(2)流通・利用(3)新たな創造という3つのバランスに基づく、知的創造サイクルの「日本モデル」は可能か、という第3の論点に議論が進んだ。

中山氏は議論の前提として「現在の日本の知的財産法(著作権法・特許法・意匠法・商標法など)は欧米法、さらに言えばローマ法が起源で、それに乗っかっている。だが、世界ではエイズの薬に対する特許料が高くて患者が利用できないなど、欧米式のシステムにひずみが生じている。現在の知財法は、言ってみればお金のあることころはどんどん儲ける仕組みになっており、このままいけば必ず途上国の反乱が起きる」との指摘を行った。

さらに中山氏は、「これからは流通・利用に力点を置くべきで、基本的にマーケットに任せれば大丈夫だと思うが、理論的に考えてうまくいきそうにないのは人格権」とし、一般市民でも著作物を加工することが容易になったデジタル化時代においては、新たな創作や表現の可能性があるにもかかわらず、強固に守られている著作者の人格権がコンテンツ流通の阻害要因になりうるとの認識を示した。

電子技術の利用が今後の鍵に

久保田氏は、今後の知的創造モデルにおける契約の問題に焦点を当て、「法と電子技術と教育が柱になるのではないか」と指摘。「電子技術を駆使することで、著作権に関する契約が円滑に進むのではないか」と提案した。

また、福井氏が「自発的なライセンスに鍵がある」、チェン氏が「コミケなどでは、権利者が黙認しているという要素が強い。当日版権システム(※)という仕組みを利用しているケースもある」などと発言。中山氏も「著作物は大半が儲からないもので、マーケットでは動かない。そこに法が関与する余地があるのではないか」と提言した。

※アマチュア制作者の便宜を図るため、即売会などのイベント会場内に限定して二次創作物の展示販売を認める仕組み。

トークイベント全体のテーマともなっていた第4の論点「日本は世界とどう向き合うべきか」については、久保田氏が「エンフォースメントをどう実現していくかが最大の課題」と述べた。チェン氏も「日本のコンテンツパワーはまだポテンシャルの域にとどまっている。一人歩きしている感の強い『クール・ジャパン』という言葉を一旦解体し、新たな意味を持つべく再構築していく必要があるのではないか」と提言し、2時間にわたる議論を締めくくった。