アジアから欧州、そして米国へ

先ごろPCに「金山詞覇」(キングソフトの辞書ソフト)をインストールしたところ、Internet Explorerを立ち上げる度にキングソフトのWebサイトが開くようになった。自然、同社の動きが気になるようになった。

同社のサイトには、海外戦略を紹介する専門コーナーがある。そこには、同社の海外戦略がきわめて明快に示されている。「日本を実験地とし、品質を検証して経験を積み、徐々にアジア周辺市場を制覇。シンガポール、フィリピン等を通じて英語圏市場へ浸透、さらに欧州市場、米国市場へも進出する」というのがそれだ。

キングソフトは、1989年に初のオフィス用ソフトウェア「WPS 1.0」を市場へ送り出して以来、中国では最も知名度の高いソフトウェア企業の1社となった。業界をリードするソフトウェアプロバイダーにして、著名なインターネットサービスサプライヤーでもある。同社は珠海、北京、成都、大連など4都市に開発センターを設置、2005年には日本で子会社を設立した。いまでは、ソフトウェア製品とオンラインゲームという2つのコア事業を持ち、「WPS Office」、「金山詞覇」、「金山毒覇」、「剣侠情縁」、「封神榜」など競争力に富む多くの製品群を擁している。また、2006年8月にはシンガポール政府傘下の世界的投資管理会社GIC、米Intel Capital、新宏遠創基金から大規模な投資を受けている。

1タイトルのオンラインゲームでベトナム市場を制覇

2005年9月14日、キングソフトは東京のウェスティンホテル東京で大掛かりなプレスカンファレンスを開き、日本市場進出を大々的に告知、あわせて「金山毒覇」の日本語版「キングソフトインターネットセキュリティ 2006」を発表した。これは、中国の汎用ソフトウェア企業としては、初の日本市場進出となった。

キングソフトの海外展開を振り返ると、筆者は同社の着実な歩みと揺るがぬ自信を強く感じる。

2004年6月16日、キングソフトは智冠科技と提携のうえ、「剣侠情縁ネットワークバージョン」を台湾に上陸させた。これは中国の国産オンラインゲーム初の海外進出であるとともに、キングソフトの海外戦略が本格的に始まったことを意味した。同タイトルは台湾市場で大きな反響を呼び、一時期は数万人が同時にオンラインするという実績を残した。人口2,000万人の台湾で数万とは、かなりの数字である。

次いで同年9月8日、今度はマレーシア方正がキングソフトと提携し、同タイトルをマレーシアで運営すると発表した。

同年11月10日には、ベトナムのVINA GAMEと契約、ベトナム語版の「剣侠情縁」が、同時オンライン数20万人のヒットを飛ばした。仮にベトナムの総人口8,000万人を中国の総人口と比例させて計算すると、中国大陸では「400万人同時オンライン」ということになる。その人気は、かつての韓国ゲームの中国における地位を思い起こさせるほどだ。

キングソフトはわずか1タイトルのオンラインゲームで、ベトナムのオンラインゲーム市場の70%のシェアを占めるに至り、同国でのエージェントであるVINA GAMEも10名ほどの小企業から、従業員200人余りを抱える企業へと変身を遂げた。VINA GAMEはその後、早速「封神榜」を導入、続けざまに成功を収めたのだった。

台湾の有力ゲームメーカーと戦略的提携

「剣侠情縁ネットワークバージョン」が東南アジアへ進出し、素晴しい成功を収めた後の2005年12月7日、キングソフトは台湾の智冠科技、遊戯新幹線と契約を結び、2006年初めからの台湾、香港、シンガポール、マレーシア4市場で「剣侠情縁ネットワークバージョン2」の同時展開を決めた。

同年12月13日、キングソフトは台湾の有力ゲームメーカー華義国際と戦略的な提携関係を結んだ。海外戦略のなかでも極めて重要な戦略として、キングソフトはこの提携を非常に重視していた。キングソフトの狙いが華義国際の海外市場開拓能力にあったからである。

「剣侠情縁ネットワークバージョン」と「封神榜」の成功を受け、キングソフトは、オンラインゲーム市場での新たな拡張を始めた。華義国際との戦略的提携でリソースの補完関係を強化すること。より具体的には、華義国際が持つゲーム運営の豊富な経験と充実した製作能力を生かし、ゲーム市場での競争力を大幅に高めようとしたのである。

華義国際の製品ラインアップを加えて、2006年のキングソフトの品揃えは大幅に強化され、「武侠」、「神幻」、「Q版」、「レジャー」など、ほとんどあらゆる種類のオンラインゲームを網羅するほどの体制を整えたのだった。