今年の4月から働き方改革関連法案が施行された。同法案には、残業時間の罰則付き上限規制や有給休暇の取得義務化、勤務間インターバル制度の努力義務など、労働時間の見直しに関する内容が含まれており、企業全体で労働環境を改善しようとする動きが大企業を中心に始まっている。

ITを活用する企業においては、業務効率が上がるアプリケーションの導入を検討し、いつでもどこでも業務が行えるようモバイル環境を充実させるなどの取り組みも実施されているだろう。実際のところ、働き方改革に関係したアプリやサービスの種類は急激に増えており、選択肢の幅は広がってきている。

そこで、今回は「Power Platformでアプリの導入効果を可視化する」というテーマの下、業務効率をアップするアプリケーションについて考えてみたい。

導入効果が曖昧だとアプリ導入は難しい

業務改革を起こすには、市販のアプリを導入する方法が最も早く負担も少ない。しかし、こうしたアプリの導入を選定する際、自社の業務に合っているのか、導入コストや労力は適正か、導入効果はどれ程あるのかなどの情報を集め、総合的に判断をする必要がある。

しかし、実際に導入の判断に用いられる材料は、メーカーが提供するカタログや導入事例であったりする場合が多く、導入効果に至っては、実際に導入してみないとわからないというケースがほとんどではないだろうか。

導入効果を裏付ける正確なデータがないままアプリを導入すると、投資に見合った効果が得られない場合もある。そのため、時にはアプリケーションの導入が見送られてしまうこともある。

アプリの導入効果を知るには

では、アプリケーションの導入効果を検討段階からより具体的に知るには、どうしたらよいのだろうか。

まず、負担の少ない方法は、メーカーから提供されている試用版を利用することだ。最近は製品版と同等の機能を有した試用版も多く提供されており、試用期間という制限を除けば本番さながらに利用できるものもある。しかし、試用版にはテストユーザーが集まりにくいという難しい問題がある。

IoT機器やウェアラブル端末などのように自動的にデータを収集する製品であれば、利用者の負担も少なく受け入れられやすい。これらに対し、業務記録やコミュニケーションツールのように、人の手による入力が必要なアプリはユーザーのテスト意識も低くなりがちで、正確な導入効果を測定したデータを得ることは難しい。その多くの原因は、新旧のアプリケーションにおいて入力作業が必要なために作業量が2倍になるだけではなく、テストのためだけに新しい操作方法を憶えなくてはならないからだ。

導入効果の可視化に役立つPower Platform

そこで登場するのが、Office 365のPower Platformだ。Power Platformに含まれるPowerAppsを使えばローコーディングでアプリケーション開発が行える。スクラッチ開発は敬遠されがちな手段ではあるが、PowerAppsではコーディングをほとんど必要としないので開発期間は極めて短く、簡単なものであれば、すぐに業務をアプリケーションに落とし込んで改善効果を確認することができる。

市販の試用アプリケーションとの違いは、従来の業務内容をほとんど変えずに試してもらうことが可能な点だ。例えば、とある申請業務を外出先からでも行えるようにして業務効率を上げたいとする。市販のアプリケーションを用いた場合、自社の業務に適したアプリケーションを探すことから始まるが、PowerAppsでは業務に合ったアプリケーションを作成することから始める。

改善ポイントは「外出先から使用する」ということなので、スマホアプリとして作成し、特定の業務以外の仕様は盛り込まないほうがよい。なぜなら、市販のアプリケーションでは必要がない機能も含まれる場合が多く、それが導入効果を測定する際にノイズとなってしまう場合があるからだ。

また、業務内容をほとんど変えずに運用できることも大きな魅力で、教育期間をほとんど必要としないことから、テストユーザーにもストレスなく受け入れられやすい。

Power Platformのラインアップ

Power Platformにはクラウド上でデータベースを利用できるCommon Data Service、データを可視化して洞察を行うためのツールとしてPower BIが用意されている。具体的には、PowerAppsでテストアプリケーションを作成し、データをCommon Data Serviceに蓄積する。そのデータはPower BIで可視化することができる。

先の申請業務アプリを例にとれば、処理時間を記録することで、どの程度入力に時間がかかったのか、いつ業務が終了したのかを可視化し、その効果をレポートとして表示することが可能だ。

一般的に、業務改善をするためのアプリケーションを導入する時は、その導入効果を確認するために別の仕組みを設けることが多い。Power Platformを使えば、データの取り込みから加工、変換、分析、公開までをOne Microsoftという1つのプラットフォームで実現できる。

「アプリの導入効果は導入をしてみないとわからない」と言われることが多いことは先述したが、Power Platformを活用すれば、アプリを検討する段階から簡単に導入効果をデータとして得ることが可能なのだ。

商談記録アプリケーションの導入効果

事例として、当社が導入した商談記録アプリを紹介したい。アプリの目的は労働時間を削減することである。

営業担当者は、日中は可能な限り多くの顧客への訪問が必要なため、商談記録を書く時間を定時後にまわしてしまうことが多い。働き方改革で労働時間の適正化が求められていても、このようなケースは業務スタイルを変えないかぎり残業時間を削減できない。

そこで、モバイル端末用のアプリを作成することで、移動時間や待ち時間などに商談記録を書いてもらい、定時後の作業時間を削減するのである。このアプリには商談内容を入力した時間が登録される。定時後に入力されたデータがどれだけあったか、入力にどれ程の時間をかけていたかを確認することで、管理者はアプリの導入効果を知ることができる。

アプリはPowerAppsで作成しており、保存と同時に担当者や顧客、商材などの情報を登録させている。これらのデータの可視化にはPower BIを使用しており、集計作業のためにわざわざ時間を費やさなくても直接レポート作成まで行える。

アプリ導入前の労働時間はアナログな集計をする必要があるが、それでもPower Platformでは導入効果を可視化できるため、導入前後の比較検証は行いやすい。企業は安心してアプリ導入の判断ができるはずだ。

Power Platformで可視化できるのはPowerAppsで作成したアプリの情報にとどまらない。Power PlatformにはFlowというプロセスを自動化するためのアプリも含まれている。Flowでは、特定のアプリで起こしたアクションをトリガーに他のアプリやデータソースにアクションを起こすことが可能となる。

Flowを活用すれば、その他多くのアプリの情報も収集できる。収集したデータを蓄積し、Power BIで可視化するような仕組みを作成すれば、他のアプリの導入効果をレポートとして表示させるといった使い方もアイデア次第でできるようになる。

働き方改革を実施するために多大な労力を使ってアプリを選定したとしても、導入効果が曖昧だと、企業はハイリスクな決断をすることになる。アプリの選定で必要な情報は運用に近い方法で収集したデータであり、ローコーディングで開発が可能なPower Platformでテストアプリを作成することは、現時点における有効的な方法でないかと思う。

著者プロフィール

三島正裕


1978年島根県生まれ。ディーアイエスソリューション株式会社所属。クラウドサービスを中心としたシステム提案やアプリケーション開発をする傍ら現在はマイクロソフト製品の活用事例「Office365徹底活用コラム」を自社サイトで執筆中。