子供のころSFアニメで目にした「全自動起床マシーン」に憧れてはやいくとせ。あらゆることが面倒くさい「ものぐさライター」の筆者が、デジタル機器をフル活用し、全力で怠惰な生活を追求します。ああ、毎日ラクをしたい……!
第2回目は、バラバラに住む家族とバーチャルで“旅行した感”を味わえる「VR家族旅行」にチャレンジ。これなら手軽に家族旅行と喜ぶも、一筋縄じゃあいきませんでした。
  • 家族がバラバラに住んでいても、VRならラクして一緒に旅行できる! と思いきや、意外な落とし穴が……
    (イラスト:いのうえさきこ) ※画像クリックで拡大

準備は楽しくても、家族旅行はラクじゃない!

自他共に認める超面倒くさがり屋の私ですが、その性格とはかなり矛盾する趣味を持っています。それは「旅行」。情報を収集して行き先を決め、予約をし、必要なモノを準備する……。面倒くさがり屋にとっては苦行でしかないようなことが、旅行だとなぜか楽しくできるから不思議です。

特に「モノを準備する」工程は、私のようなガジェット好きにとってまさに至福の時間。24歳で初めて海外旅行に出掛けた際には、毎日のようにロフトや東急ハンズのトラベルコーナーに通い詰め、旅行代金の何倍もトラベルグッズに散財して、友人達に呆れられたものです。

家族ともよく旅行に行くのですが、企画や計画は決まって私の担当です。ただ、実は私が本当に好きなのは「旅」そのものではなく「準備」。あれこれ考えたり、道具を揃えるのが楽しいのであって、いざ出発となると途端に面倒くさがり屋の本性がむくむくっと起き上がってきます。

自分で立てた計画を遂行するためには、この先何時間も飛行機に乗り、現地でも忙しく立ち回らなければならない。そう考えると足がずしりと重くなります。特にうちの家族は、私のことをツアーガイドか何かだと思っているのか、「あそこに行きたい」「あれが食べたい」「あれを忘れた」「あれがわからない」と頼りがち。その煩わしさを思うと、ますます足が重くなってしまうのです。

家族に楽しんで欲しいと旅行を計画するものの、実際に行くのは面倒という矛盾。我ながら本当に困ったものです。

家から一歩も出ずに世界を旅できるVRヘッドセット

しかし最新テクノロジーは、そんな矛盾だらけの私の趣味にも福音をもたらしてくれました。そう、今や「VR」があれば、家から一歩も出なくても旅行ができてしまうのです。

用意するのはPCやスマホにつながなくても、スタンドアローンで遊べるVRヘッドセットの「Oculus Quest 2」と、Oculusプラットフォームで利用できる「Wander」というアプリ。「Wander」はGoogleストリートビューの360度写真をVRで体験できるというもので、地図から目的地を選ぶだけで世界中の様々な風景を、まるでその場にいるかのように楽しむことができます。

マルチプレイにも対応していて、オンラインで集ったメンバーと同じ風景を共有することも可能。互いにOculusプラットフォーム対応のVRヘッドセットを持っていれば、一緒に旅行ができるというわけです。

離れて暮らす弟と「Oculus Quest 2」でさまざまなマルチプレイゲームを楽しむうち、「VR家族旅行」の可能性に気づいた私は、「Wander」が使えてより安価に入手できる、VRヘッドセット「Oculus Go」(現在はメーカー生産終了)を2台準備。セットアップした上で、実家の両親にプレゼントしました。

これでいつでも家族旅行に行ける……と思ったのですが、残念ながらそう甘くありませんでした。ツアーガイドとして現地を走り回る代わりに、遠隔サポートというとんでもない重労働が待ち受けていたのです。

  • VRを楽しむオトン(筆者父)。余談ですがプレゼントした「Oculus Go」には、オカン(筆者母)によってどちらのモノかわかるよう、マジックでぞれぞれ名前が書き込まれています(撮影オカン)

現実よりラクできる「VR家族旅行」のはずが……

思えばこれまでにも両親が新しいデバイスを入手するたびに、遠隔サポートでは散々苦労をしてきました。あるときはノートPCのカメラが映らないというオカンに、プライバシーシャッター(カメラに付いている物理的なカバー)の開け方を説明するだけで約1時間かかりました。目の前にあるはずのシャッターがなぜかオカンには見えず、「そんなものはない」と言い張ったからです。

またあるときは、SMS認証で送られてきたワンタイムパスワードを入力し、オトンがショッピングサイトで買い物できるようになるまでに約2時間かかりました。ワンタイムパスワードは送信後一定時間が過ぎると無効になってしまうため、やっと該当するメッセージを開いた頃には、一からやり直すハメになったからです。

ディスプレイ付きのスマートスピーカーでビデオ通話をつなぎ、使っているスマホの画面をこちらに見せてもらいながらの遠隔サポートでさえ、あんなに大変だったのです。近くにいても相手が見ているものがこちらには見えないVRヘッドセットのサポートが、どれくらい大変なことになるか、考えてみればわかりそうなものでしたが、実際のそれは、私の想像をはるかに超えていました。

接続サポートで2時間! つながった頃にはバッテリー切れ

Oculusでは「パーティー」というグループを作り、参加すると複数人でボイスチャットができるようになるのですが、まずそこに参加してもらうまでが一苦労。「電源が入らない」から始まって、「コントローラーが動かない」「招待の通知が消えてしまった」などなど。

ようやくつながって会話ができるようになってから、「Wander」のアプリを起動してもらうまでもう一悶着。弟も加わってボイスチャットでわーわー言い合う様は、家族旅行のクルマの中でオカンが忘れ物を思い出したとき(それは決まって、高速に乗った瞬間に起こる)のようで、まさにカオスです。

そこから「Wander」の中で再度パーティーに参加してもらい、私をフォローする(そうすることで、私の見ている風景がシェアされる)ところまでさらに一騒動あり、ようやくみんなで一緒にピラミッドを見上げる頃には、誰かのOculusがバッテリー切れ……ということが、実に2日間続きました。

  • 360度の風景を一緒に楽しめる「Wander」。音声で会話ができるほか、アバターを通して相手が景色を見ている様子もわかります

70代の両親にはそもそも、こういったデバイスの手順を覚えるのがとても難しいらしく、そういえばPCやスマホを使うときには熱心に紙にメモをとっていました。

しかしVRヘッドセットを装着しているとそれもできないため、次の日にはまたイチからスタート。3日目になってようやく少し慣れてくれて、バッテリーが切れるまでのわずかな残り時間、家族で世界の名所やオカンの好きな花畑を巡ることができました。

ほんの短い時間でしたが、コロナ禍でなかなか外出ができない時期でもあり、両親も楽しんでくれた様子。それはとても良かったのですが、私自身は連日のサポートでノドは枯れるわ、肩は凝るわで、ほとほと疲れ果ててしまいました。家族旅行は楽しいけど、VRでもそう簡単にラクはさせてもらえないようです。