グーグルは2023年10月4日、スマートフォン「Pixel」シリーズの最新モデル「Pixel 8」「Pixel 8 Pro」を発表しました。性能向上の一方で円安が直撃し、従来よりも大幅に値上がりしているのが気になります。競合メーカーが日本で“Pixel包囲網”を構築しつつあるなか、コストパフォーマンスの高さで好調を続けてきたグーグルは今後も勝ち切れるのでしょうか。

  • グーグルが、2023年10月4日にスマートフォンの新機種「Pixel 8」を発表。チップセットやカメラ、AI技術を活用した機能などの進化がなされたが、価格は従来モデルよりも大幅に高くなった

円安の長期化で「Pixel 8」シリーズは大幅に値上がり

日本のスマートフォン市場で急伸しているグーグル。その源泉は、同社のスマートフォン「Pixel」シリーズの高いコストパフォーマンスにあります。とりわけ、自社独自のチップセット「Tensor」シリーズを搭載した「Pixel 6」シリーズ以降はコストパフォーマンスが大幅に高まったことで、日本での人気を急速に高めています。

そのグーグルが2023年10月4日、スマートフォンのフラッグシップモデルの新機種「Pixel 8」シリーズを発表しました。同シリーズは、スタンダードモデルの「Pixel 8」と、大画面モデルの「Pixel 8 Pro」の2機種が用意され、その構成自体は従来のPixelシリーズと大きく変わっていません。

一方で、変化しているポイントもいくつかあります。Pixel 8の変化ポイントは、よりコンパクトになったこと。その分、ディスプレイは6.2インチと、従来モデルと比べ0.1インチ小さくなっているのですが、コンパクトなスマートフォンを好む日本のユーザーの声を積極的に取り入れてか、片手で持って操作しやすいサイズ感としています。

  • 「Pixel 8」は、日本市場などの声を取り入れてサイズが従来よりもコンパクトになっており、片手での操作がしやすくなっている

そしてPixel 8 Proは、従来モデルの側面がカーブしたディスプレイからフラットなディスプレイに変更することで操作性や強度を向上させたほか、超広角カメラの画素数も4,800万画素にアップ。加えて、温度測定用のセンサーを備え、専用のアプリを使って非接触で温度測定ができるなどの新機能も追加されています。

  • 「Pixel 8 Pro」は新たに温度センサーを搭載し、専用アプリを使って温度を測定できる機能が追加された

もちろん、共通した機能強化もなされており、チップセットにはAI関連処理の強化だけでなく、CPUやGPUなども新しい設計を採用して強化がなされた「Tensor G3」を搭載。AI技術を活用してグループ写真を補正する「ベストテイク」や、被写体の移動などもできる「編集マジック」、そして撮影した動画の不要な雑音を低減できる「音声消しゴムマジック」など、写真だけでなく動画の質を向上させる機能が新たに加わっています。

  • 新しいチップセット「Tensor G3」を活用し、AI技術を使ったカメラ関連機能も引き続き強化。新たに、複数の集合写真から顔を補正する「ベストテイク」などが追加された

ですが、その一方で気になったのは価格です。なぜなら、Googleストアでの販売価格はPixel 8が112,900円から、Pixel 8 Proは159,900円からとなっており、前機種の「Pixel 7」シリーズの発売当初の価格と比べ大幅に値上げしているからです。

もちろんそこには、米国でのPixelシリーズの販売価格自体が従来より100ドルアップしており、Pixel 8が699ドルから、Pixel 8 Proが999ドルから(いずれも税別)となっていることも影響しているのですが、より大きく影響しているのが円安であることに間違いありません。

アップルの「iPhone 15」シリーズでも、前機種の「iPhone 14」シリーズと比べより現在の為替レートに近い値で値付けがなされたことで値上がりしてましたが、Pixel 8シリーズも同様に、Pixel 7シリーズと比べより現在の為替レートに近い値で値付けがなされたことで大幅に値段が上がったようです。長期化する円安に、企業体力のあるグーグルでも耐えられなくなった、というのが正直なところではないでしょうか。

Pixelシリーズ対抗スマホが競合から相次いで登場

その一方で、ここ最近広がっているのが“Pixel包囲網”というべきもの。圧倒的なコストパフォーマンスを武器に、日本市場でのシェアを急拡大しているグーグルの存在に危機感を覚えたスマートフォンメーカーが、Pixelシリーズに対抗することを強く意識したスマートフォンを相次いで投入しているのです。

その1つが、シャープが2023年10月3日に発表した「AQUOS sense8」です。ミドルクラスの定番モデル「AQUOS sense」シリーズの最新機種で、販売する携帯各社の価格を見るに6万円台前半で販売されることから、Pixelシリーズの低価格モデルで近い価格帯の「Pixel 7a」を意識した機能強化がなされているようです。

実際AQUOS sense8は、従来のAQUOS senseシリーズにはなかった光学式手ブレ補正を標準カメラに搭載したほか、バッテリーをハイエンド並みの5000mAhに増量。加えて、チップセットもミドルクラス向けではあるものの、クアルコム製となる最新の「Snapdragon 6 Gen 1」を搭載しており、2022年前半に発売された「Snapdragon 695 5G」を搭載したミドルクラスのスマートフォンと比べ大幅な進化がなされている様子が見て取れます。

  • シャープの定番モデルの新機種「AQUOS sense8」は、カメラに光学式手ブレ補正を搭載したり、バッテリーを5000mAhに増やしたりするなど、大幅な性能強化を図っている

オッポが2023年9月28日に発表した「OPPO Reno 10 Pro 5G」も、7万~8万円前後という価格を考慮するに、Pixel 7aを強く意識したモデルといえるでしょう。こちらもチップセットにクアルコム製の「Snapdragon 778G 5G」を搭載し、オッポでは久しぶりとなるミドルハイクラスのスマートフォンとなるほか、80Wの急速充電や7.9mmの薄型ボディなど機能やデザインに力を入れ、ミドル~ミドルハイクラスの領域を担うPixel 7aに対抗しようという姿勢が見て取れます。

  • オッポは久しぶりにミドルハイクラスの新機種「OPPO Reno 10 Pro 5G」を投入。デザインへのこだわりに加え、80Wの急速充電など特徴ある機能もいくつか用意されている

また、シャオミが2023年9月27日に発表した「Xiaomi 13T」シリーズは、12月発売で現時点での価格は不明ながら、ハイエンドという位置付けを考慮するにPixel 8シリーズへの対抗意識が強いモデルといえます。高いカメラ性能や、上位モデルの「Xiaomi 13T Pro」では120Wの急速充電を備えるなど、機能・性能面での充実度合いが高いだけでなく、グローバルでの発表翌日に日本での発売を発表したという点でも、日本市場への力の入れ具合とPixelシリーズへの対抗意識を見て取れます。

  • シャオミの新機種「Xiaomi 13T」シリーズは、グローバルでの発表翌日に日本での発売を発表しており、FeliCaを搭載するなど国内向けカスタマイズも施されるとのことだ

円安が止まっておらず、市場が非常に厳しい状況にありながらも、各社からPixelシリーズに性能や価格を近づけたスマートフォンが相次いで発表される様子からは、日本で急伸するグーグルに対するメーカー側の危機感を明確に見て取ることができます。実際、筆者もメーカー各社の関係者と話をすると、Pixelシリーズの圧倒的なコストパフォーマンスに危機感を抱いている声を少なからず聞いていただけに、厳しい市場環境ながらも明確にPixelに対抗する策が各社には求められているようです。

ですがPixel 8シリーズで、グーグルでさえも円安の中で高いコストパフォーマンスを維持するのは難しいことが示されたことで、今後もPixelシリーズが優位性を維持できるかどうかは不透明といえます。おそらく2024年に登場するであろう、低価格の新機種「a」シリーズの価格がPixelシリーズの今後を大きく左右すると考えられますが、それまでグーグル以外のAndroidスマートフォンメーカー各社には、厳しい戦いをしながらも日本市場に食らいつくことが求められるといえそうです。