「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は、“保険オタク”の寺中健悟氏に、保険の選び方や保険不要論についてお話を伺いました。
過去軸と未来軸で保険を考える
――寺中さんは、スタートアップ企業の社長や中小企業の社長のリスクファイナンスを得意とされていますが、保険って複雑で種類もたくさんあり、自分で選ぶのが極めて難しい金融商品だと思います。どんな風に考えて保険を選ぶのが良いのでしょうか?
寺中健悟氏(以下、寺中氏):事業の川上から川下までを丁寧に整理し、どういう商流で、顧客や社員、取引先などだれが関係するのか、それらを言語化し可視化していくことは重要です。リスクファイナンスは、金融の力を活用してリスクに備え、リスクを管理(マネジメント)するということですが、リスクに備えると言ってもなにを、あるいはだれを起点に考えるかで対策は異なります。
会社・事業はたくさんの人たちが関わることで成り立っていますが、中でも社長は会社・事業のほぼすべてに関わる存在です。社長の片腕、あるいは伴走者として、社長ご自身になにかあったときのリスクを一緒に考えることを大切にしています。保険でリスクヘッジすることができることは保険で。社内に社長の片腕的な人材を育成することも、リスクヘッジの一つであると考えています。
病気や事故、自然災害、売上の低迷、資金調達の難航、人材の流出……など、リスクはどこにでもあります。なにがリスクなのかを可視化し、分解し、対策を整理して因数分解しておくと、社長の精神衛生的にも良いと思います。リスクをモヤモヤした状態のままにするのではなく、可視化して因数分解することで、「削減できるところは削減する」「ファイナンスで担保できるところを担保する」など、必要な保険の選び方を含めて、具体的な対策まで落とし込むことができます。
――わかりやすいですね。特にスタートアップ企業ですと、起業してこれからガンガン事業をしていくフェーズにあるわけで、ある意味「社長のモチベーションがすべて」と言っても良いフェーズです。そんな中で、社長の精神衛生が不安定ではパフォーマンスも発揮できないわけで、頭の中を整理して対策まで講じてもらえると有難いですよね。
寺中氏:ありがとうございます。保険って、金融商品の中でも「契約者」「被保険者」「受取人」という契約書に個人名が3つも入る特殊な金融商品なんです。銀行預金や証券口座は、一般的には「名義人」しかありません。ご家族や社員の方々のことを想って検討するのが保険という金融商品であり、それってとても優しさに溢れたことだと思います。「金融商品」というと、どこか冷たい印象の言葉になってしまうのですが、保険オタクとしてはそういった保険ならではの魅力もお伝えしていきたいです。
特に、スタートアップ企業や中小企業の社長さんにとっては、法人名義も個人名義も境界線はありません。自分が所属するコミュニティとして会社があり、家庭もあるわけです。自分で立ち上げた会社はご自身の人生そのものですし、そういった社長さんの想いに伴走していきたいなと思います。
リスクに備えるという意味では、現状の整理や把握も大切なことなのですが、私は未来にも思いを馳せるようにしています。どういうビジョンで、どういう未来を実現したいのか。過去軸だけでなく未来軸も考えて、それにフィットする保険を選んでいくことも重要です。P/L思考よりB/S(バランスシート)思考で、未来のB/Sを生保・損保の両面から活用していくと良いと思います。
「保険不要論」は不要
――これは法人保険というよりも個人保険に関わることだと思いますが、最近は「保険不要論」のような保険商品を叩く情報発信が多いと感じます。保険オタクとして、いかがですか?
寺中氏:私が関わる社長さんには「保険は不要」という方はいらっしゃらないのですが、特に逆風と感じたことはありません。SNSなどのそういった情報発信は、再生数稼ぎの面白い話題でしかないと思います。
保険不要というよりも、実態は「資産を増やすなら保険じゃないよね」「保険よりNISAの非課税制度をうまく使った方が良いよね」ということかと。ただし注意しないといけないのが、前提が「右肩上がりの市場」「積立を長年継続できること」になっていることです。たしかに、その前提であれば保険は不要かもしれません。しかし、市場が常に右肩上がりというわけではありませんし、積立を継続できるとも限らないわけです。
また、「保険は掛け捨てで良い。積立はNISAで良い」という情報を流しているインフルエンサーの方も多いのですが、結局は「掛け捨て保険は必要」と言っているとも言えます。最終的にはお客様が選ぶことですし、「まだ若いから病気にならない」という前提や思い込みで、後々後悔してしまう判断にならないように、客観的に情報を整理しておくことが必要だと思います。
極端な話、保険に入っていて明日、病気になったり事故に遭ったら「入っていて良かった」となるわけです。そのため、「すべての保険は不要」と考えるのではなく、「保険の良いところを使いこなす」と考えて、会社経営や人生にうまく活用していただければと思います。
他の金融商品にはない保険ならではの機能
――「保険の良いところを使いこなす」という意味では、預金や投資信託などの他の金融商品にはない「機能」があることも、保険ならではですよね。指定代理請求制度とか、寺中さんからお聞きして初めて知りました。保険募集人でもこういった機能や制度を知らない人いますよね(笑)。
寺中氏:私は保険オタクですので、保険の商品知識については特に自信があります。指定代理請求制度は、保険金や給付金などの請求を、被保険者ご本人ができない場合に、ご契約者があらかじめ指定した代理人が請求できる制度のことです。被保険者ご本人が事故や病気などで意思疎通ができない場合、または余命宣告を受けているもののご家族しか知らない場合などに活用されます。契約者代理請求制度は、認知症対策としても有効です。契約者代理請求権は全ての会社で付帯できるわけではないので、そういった観点での保険会社選びも重要となってきます。こういった保険商品ならではの機能は、他の金融商品にはないメリットとも言えます。長年積み立てて運用して資産を増やしたとしても、いざというときにその資産を活用できなければ長年の努力が水の泡です。すぐに動かせるキャッシュを担保しておくことは、とても大事なことだと思います。
また、支払った保険料の金額に対するレバレッジが利くことも、保険商品の魅力の一つです。だれしもが病気にかかったり事故に遭うリスクはあるわけで、それはもしかすると明日かもしれませんし、来月や来年かもしれません。もちろん、病気も事故もなく過ごせるのが一番なのですが、保険金が助けになることは大いにあると考えています。法人で言えば、保険は流動性が高く事業承継の際も受取人固有の財産として活躍し、B/Sにオンできるものです。財務の観点からも、保険をうまく活用するメリットは大きいと思います。
保険業界の未来
――寺中さんは新卒から保険業界にいらっしゃいますし、保険営業パーソン向けのオンラインサロンも運営されていますが、保険業界の未来について思うことはありますか?
寺中氏:AI時代の人材育成については、いろいろと考えを巡らせています。寺子屋というオンラインサロンを始めてみて、人材育成や人に伝えていく難しさを改めて感じているところです。
単発的なセールスノウハウは、瞬間湯沸かし器的で持続性がないと思います。ノウハウやテクニックよりも、思考回路が大切です。最後は、アイデアとひらめきが必要なのが保険、中でも保険営業の世界だと思います。お客様とお話していて、「この保険商品が合いそう」と、その場でひらめくかどうか。お客様にとって痒いところに手が届く存在になれれば、AIが普及しても必要とされる存在であり続けられると思います。
この「ひらめき」には知識が必要で、日々の商品研究は手抜きできませんし、お客様に対しても失礼にあたります。そのため、オンラインサロンでは商品知識を高めるための勉強や研究の方法、視点をお伝えするようにしています。どういう考え方で保険商品を捉えるか、保険を活用するか。ひらめくための土台づくりですね。
ChatGPTが登場して、さまざまな業界でAIの活用が進んでいます。保険業界もAIとの共存が不可欠で、私は「傾聴+商品知識+AI×ひらめき」が重要になっていくと考えています。
傾聴は、お客様の現状や未来を深くヒアリングすること。商品知識は、保険オタクに磨きをかけ続けること。AIは、生成AIをフル活用すること。生産性だけでなく、アイデア出しや壁打ちなどにも活用しています。それらと、ひらめきを掛け合わせることで、より良いご提案ができると思います。「AIは感情の汲み取りが苦手」という話も聞きますので、いい意味で人間臭くあり続けたいですね。