「人生100年時代」を健康的、かつ豊かに生き抜くために注目を集めるのが「エイジテック(Age Tech)」だ。

テクノロジーの力で高齢者の健康をサポートしたり、日常生活で抱える課題を解決したりする製品・サービスが相次いで登場しており、村田アソシエイツによると日本の市場規模は2025年に10.8兆円に膨らむ。健康の維持・改善による医療・介護コストの減少という社会貢献につながることも参入企業が増える一因だ。

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慶應大発やヤマハ出身のベンチャーが画期的なエイジテック製品開発

慶応大学発ベンチャー企業の「OUI Inc(ウイインク)」は、スマートフォンに取り付けるだけで眼科診療が可能になる医療機器を開発した。スマホが特殊な顕微鏡の代わりになり、白内障のほか、結膜炎やドライアイなどを簡単に診断できるという。

ヤマハ発動機出身者が創業した「Magic Shields(マジックシールズ)」は、高齢者の転倒時の骨折リスクを減らす床材を手掛ける。普段は硬くて歩きやすいが、転倒して衝撃が加わった瞬間にたわむ。これにより寝たきりにつながるような骨折を防ぐ。

エイジテックのすそ野は金融サービス分野にも広がっている。ブロックチェーン(分散型台帳)を活用したサービスを展開する「SAMURAI Security(サムライセキュリティ)」は、スマホひとつで遺産整理から財産信託契約まで完結できる相続DXサービスを提供する。

「音」で認知症予防!? テレビ用の外付けスピーカーが登場

高齢化をビジネスチャンスととらえてエイジテックにかかわる企業が相次ぐ中、「音」の技術に着目して参戦した一風変わった企業がある。塩野義製薬の100%子会社であるシオノギヘルスケアだ。2030年には523万人に達すると言われる認知症患者を減らすため、音刺激により脳を活性化する事業に乗り出した。

  • シオノギヘルスケアの「kikippa」

認知症患者は40ヘルツガンマ波が少ないと言われることに注目、テレビの音を40ヘルツのガンマ波の音に変調する外付けスピーカー「kikippa(ききっぱ)」を開発した。その変調音を聞いているだけで認知症予防の一助になるというから驚きだ。

しかも製品開発に、メディアアーティストで起業家の落合陽一氏が率いる「ピクシーダストテクノロジー」が加わったというのも興味深い。独自の「波動制御技術」を使うことで簡単にテレビの音を40ヘルツに変調できる。

しかし、テレビの音は複雑で「人の声」と「背景音」が混ざった状態で変調すると、人の声が聞こえづらくなるのでスピーカーとしては使い物にならない。

その課題を乗り越えるため、同社は新たにガンマ波変調技術を開発。2つの音を分離して変調した後、ガンマ波サウンドとしてリミックス(再構成)することで聞き心地の良い40ヘルツガンマ波を生み出した。

こうして製品化にこぎづけた「kikippa」は、医療機器ではなく一般家電として2023年4月に発売。価格は4万9,500円で、別途月額1,980円の定額課金(サブスクリプション)サービスとして提供を開始した。2024年1月から買い切りモデル(9万9,000円)を導入。これを機に、大手家電量販店のビッグカメラ、ヨドバシカメラが取り扱いを始めた。

  • 落語家の笑福亭鶴瓶さんと息子で俳優の駿河太郎さんを起用した「kikippa」ブランドアンバサダー発表会の様子(2024年6月)

とはいえ発売当初は消費者に商品の特性が十分に理解されず、苦戦を強いられたという。

流れを変えたのはテレビ東京の「ガイアの夜明け」。2024年2月に「kikippa」を紹介したところ、知名度が急上昇。高齢の親を心配する子ども世代が購入して贈るなど、一般家庭で使われるようになり、病院や介護・高齢者施設、変わったところではボケ封じの寺も導入した。

使い方はいたって簡単。「kikippa」の音声入力ラインと、テレビの音声出力ラインをケーブルでつなぐと40ヘルツ変調音に切り替わる。操作もリモコンのオンボタン、またはスピーカー本体のガンマ波サウンド切り替えボタンを押すだけなので、高齢者でも使いやすい。出力される音は標準モード、弱モード、くっきりボイスの3つがあり、聞き心地を重視する人は弱モード、言葉の聞き取りやすさを重視する人はくっきりボイスがおすすめだという。

シオノギヘルスケアの担当者によると、高齢の母親に贈った女性は「NHKの朝の連続ドラマ小説を毎日見る母が忘れずに40ヘルツ変調音で聞くようにするため、kikippaに『ガンマ波サウンドで聞く』と書かれた紙を貼った。1~2カ月で以前のように生き生きとした生活を送れるようになった」という。

――そもそも「40ヘルツガンマ波の音」とは?