長く日本のアニメシーンを牽引してきた声優であり、歌手でもある水樹奈々。そんな彼女が、現在放送中の『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK総合 毎週日曜20:00~ほか)で大河ドラマ初出演を果たした。18歳の時に経験した特撮ドラマ『ボイスラッガー』(1999)以来となる映像作品、しかも大河ドラマへの参加は、彼女にとってまさに「青天の霹靂」だったという。歌手デビュー25周年という節目に舞い込んだこの大きな挑戦に、彼女は何を感じ、どのように向き合っているのか。江戸のポップカルチャーを彩る狂歌師・智恵内子(ちえのないし)として生きる日々、初めて尽くしの撮影現場での奮闘、そしてこの経験が彼女の表現活動に与える新たな光について、熱い思いを語った。
これまで大河ドラマは「観るもの」だったという水樹。声優、アーティストとして輝かしい実績を持つものの「生身の人間として演じる」ことは、水樹が18歳のときに出演した特撮ドラマ『ボイスラッガー』以来、25年以上も遠ざかっていた。
ことの発端は、マネージャーからの「NHK大河ドラマはご覧になりますか?」という問いかけからだった。続けて「『べらぼう』という作品に出てみませんか? オファーが来ているんです」という話を聞いたとき「正直、ドッキリかと思いました。まさに青天の霹靂でした」と当時を振り返る。
それもそのはず。水樹奈々としてドラマ出演をしたのは、自身が18歳のときの1度だけ。「俳優の経験がほとんどなく、デビューしたての18歳の頃に一度戦隊もの(『ボイスラッガー』)に出演したきりだったので、まさか自分にそのようなお話があるとは思ってもいませんでした」。
驚きと共にオファーの話を聞いた水樹は「なぜ自分なのか……」と不思議な気持ちになったという。その疑問を制作陣にぶつけると「(水樹が演じる)智恵内子は、江戸のポップカルチャーを牽引した数少ない女性狂歌師の一人。その役は『歌と言葉をしっかり伝えられる方に演じてほしい』」という理由で、水樹に白羽の矢が立ったという。
制作陣の思いに水樹は「私自身、作詞も手がけているので共通する部分も多く感じましたし、何より、今年が歌手デビュー25周年という節目だったんです。このタイミングでいただくお話というのは、何か特別なご縁があるのかもしれない、新しいことにチャレンジする機会を神様が与えてくださったのかもしれない…そう感じて、お受けすることを決意しました」とオファーを受けた理由を語った。
声優と同じアプローチ方法で臨んだ狂歌師・智恵内子役
水樹は5月25日放送の第20回で初登場。演じる智恵内子について「普段はお風呂屋の女将でありながら、身分を超えた人々が集う狂歌の会を旦那さんと主宰している女性。最初に監督から言われたのは『ツンツンした女将さんです。ツンデレではなく、ツンツンです』という言葉でした」と笑うと「旦那さんと対等に湯屋を切り盛りし、狂歌の会も仕切る、芯のある頭の切れる女性として描かれています」とイメージを述べる。
役へのアプローチ方法について水樹は「声優としてキャラクターを演じる時、私は“声を作る”という意識はほとんどありません。そのキャラクターがどんな骨格で、どういう声帯をして、どういう響き方でしゃべるのだろうとイメージを膨らませて、そこから導き出されたものを出す感じなんです」と説明。「今回演じた智恵内子も、動きと連動して自然に出てくる音が正解だと考えています」と“声を作る”のではなく、役をイメージして、自身の体になじませていくという声優と同じアプローチ方法で臨んだという。
劇中、智恵内子は狂歌をユーモアたっぷりに歌う。水樹は「狂歌を読んでみて、その面白さに改めて気づかされました。私が読んだのはパロディの歌で、小学校の頃に百人一首クラブに所属していたこともあって、『この元ネタの歌知ってる! それをこんな風にダジャレにしているんだ!』と面白く感じました」と笑顔を見せ、「知識や教養があればあるほど楽しめる。狂歌の会では即興で読んでいくので、その瞬発力、構成力、センスが問われます。智恵内子は、きっとすごく教養のある方だったんだろうなと感じました。型にはまらず、自由だからこそ面白い」と役柄に魅了されたという。