
日本とスウェーデンにルーツを持つ、現在20歳のシンガーソングライター・MOMMO。今年4月、Katy Perry、Doja Catなどの楽曲も手掛けるJason Gillがプロデュースした「SENSITIVE」でデビューを果たし、5月21日にはMOMMO自身の作詞作曲による「Till The End」をリリースした。
【写真】スウェーデン×日本ルーツのシンガーソングライター・MOMMO
MOMMOは小学4年生の頃からギターに触れて、音楽の作り方や曲の構造に興味が向いていったという、生粋のクリエイター気質で育ってきた。そして「インターネットよりもライブ」という今時珍しいとも言える価値観で、中学生の頃からギターを抱えて数多のライブに出演。YouTubeには、BLUE NOTE PLACEにて和久井沙良、山本連、デザレ・ニーリーの演奏とともに歌った動画が上がっていて、そのパフォーマンスは息を呑むような美しい迫力がある。時代も国境も超えて多様な価値観を自分の中に取り入れて、ひとりの人間として成長しながら、オリジナリティのある音楽を作りたい――その頼もしい考えは、彼女が3年前、高校生ながらに「TED」にてスピーチを行ったときから変わっていない。
初の音楽メディアインタビューとなる今回、MOMMOのことを深く理解するため、音楽的ルーツ、ひとりの人間としての価値観、目指しているアーティスト像などを訊いた。この日MOMMOは、ジャスティン・ビーバーがプリントされたTシャツでフォトシューティングに臨んでくれた。
―ジャスティン・ビーバーがお好きなんですか?
最近レコーディングした曲があるんですけど、それは私の好きな味を色々入れ込みたいなと思いながら作った曲で、リファレンスのひとつにジャスティン・ビーバーもあって。そのレコーディングの次の日に古着屋へ行ったら偶然このシャツがあったから「買おう!」って。ジャスティン・ビーバーは、いつも流れているような音楽だから自然と聴いてました。ジャスティン・ビーバーもプロデュースしているマックス・マーティンがもう、すごく天才だなっていつも思います。
―2022年には「TED」に出演されていて、動画を拝見したのですが、そこでも「憧れの人たちのスタイルを組み合わせて自分の中に取り入れること」の大切さについて語られていましたよね。「オリジナリティがないと自信は持てない。でも他の人から学ばないとオリジナリティは手に入れられない」といった言葉が印象的でした。
私、毎日いろんなことを考えすぎているので、それをなんとか綺麗にまとめて大勢の人に話すことが好きで。「なんでMOMMOはこんなに自信があるの?」ってよく聞かれていたので、自分で考えてみたら――テイラー・スウィフト、ビリー・アイリッシュとか、ライブでオーラみたいなエネルギーがある人たちを真似して、それを自分のものにするようにステージに乗っているなと思って。あのときは「どうにか自信を持つ方法」についてメッセージを送りたくて、そんな話をしました。
―その考えに至るまで、どういった人生を歩んでこられたのかを訊かせてください。MOMMOさんはマックス・マーティンと同じくスウェーデン出身だそうですが、何歳までいらっしゃったんですか?
スウェーデンで生まれて、2週間後くらいには日本に来ました。
―いつ頃から音楽が好きだったのかは覚えていますか?
親からは「ずっと踊ってた」「音楽が流れると体が動いてたよ」とか言われます。でも歌声に自信がなかったから、小学校のミュージカルとかでは重要な役がもらえませんでした。本当に音楽が好きだなって思ったのは、ギターを弾き始めた小学4年生の頃。ジョニー・キャッシュにハマって「カントリーがかっこいいな」と思ったり、エド・シーランも「天才だな」と思いながら見ていたりして、自分もギターを弾きたいなと思って。「ギターを弾きたい」って親に言って、サンタクロースからプレゼントしてもらいました(笑)。素晴らしいギターの先生に習ったり、毎日YouTubeとかでいろんなギタリストの動画を見たりして、そのあと音楽のプロダクションに興味を持つようになって。6年生のときに初めて「フジロック」に連れていってもらって、そこでも衝撃を受けて音楽が大好きになりました。
―音楽のプロダクションに興味を持ったということは、「音楽を聴いて励まされた」とかっていうより、曲そのものがどういうふうにできあがっているのかに興味を持った、という感じですか?
あ、そうそう。そういう感じです。
―曲を書き始めたのも、小学4年生の頃?
そうですね。よく覚えているのが――お母さんの部屋に行って、サム・スミスかTHE BEATLESの曲を「カバーだよ」って聴かせたんですけど、それがコード進行もメロディも歌詞も変えたもので、「あれ、これってオリジナルかな?」って(笑)。「私がこのアーティストだったらこんなことをするな」って思いながら、4年生のときからパソコンでいろんな曲を作ってました。
―早いですね。そのあと小6で行った「フジロック」ではどんなことを感じたんですか?
Lordeのライブをお父さんと一緒に観て、「自分のテンポで遊びみたいに踊ってる」と思ったし、女性がこんなに素敵な音を出していることがかっこいいなと思って。そこからギターを弾いているアーティストだけじゃなくて、ポップな音楽にもハマっていきました。音楽には特別な嬉しさがあることを初めて感じたのが「フジロック」でしたね。やっぱりライブを観るとアーティストのエネルギーを感じられるから、若い頃にフェスに行くのは大事だなって思います(笑)。しかも海外のアーティストが日本に来ると、すごくスペシャルなライブをするなといつも思ってて。スウェーデンでもライブを観たことがあるんですけど、日本のお客さんはちゃんと音楽を聴いているし、ファンの気持ちが強いからだと思います。
―今もスウェーデンにはよく行かれるんですか?
毎年スウェーデンのおばあちゃんに会いに行きます。森の中みたいなところにあるおばあちゃんの家で、夏休みの3か月間、電話とかインターネットをあまりイジらずにボーッとしたり。そういう時間に一番、曲を作っているなと思います。
―デジタルデトックス、私も年に1回くらいやりたいです……(笑)。それはいいモードで曲作りに集中できそうですね。
そう思います。秋頃になるとキノコ狩りができるので、ぜひ一緒に行きましょう(笑)。
―行きたいです!(笑) 自分で作った音楽を人に聴かせるようになったのは、SNSに動画をアップするようになったのが始まりですか?
2022年に初めて自分の音楽をYouTubeに載せたですけど、ずっと「インターネットよりもライブが一番大好き」という感じでした。初めてのライブは中学1年生の頃で、オープンマイクにハマって、吉祥寺・下北沢・恵比寿のバーとかに、子どもが行けるお昼の時間にお父さんと一緒に行って歌ってました。「2000円のオレンジジュースを買えば歌えますよ」とか言われて(笑)。そのときはカバーもオリジナルも歌ってました。学校でもランチタイムとかに先生のアンプを使ってライブをやったり、校内のコンテストで歌ったりしていましたね。
―2020年のコロナ禍以降、音楽がSNSにとらわれすぎている側面があると思っていて。その反動で、今年はライブで人を魅了できるアーティストに人気が集まっていることを感じるんですよね。
これからはTikTokとかにいっぱい動画を出していきたいなと思っているんですけど、すごくオーガニックというか、昔の音楽の世界みたいに「ライブを頑張る」というやり方をしていきたいなと思ってます。
―すごく素敵です。中学生の頃からステージで歌い続けてきて、今年、MOMMOさんにとっては「ようやくデビューできた」という感覚ですか?
「ためていた」というのかな。私が作りたい曲やライブはポップなもので。これまでは一緒に作ってくれる人がいなかったので、私が想像するものを全部は形にできていなくて、私らしくポップなものをチームで綺麗に作りたいなと思ってました。もともとはジャーナリストになりたくて、高校を卒業したらアムステルダム大学とかに行くつもりだったんです。政治とか、難しい話をいかにみんなに読ませるかを考えることが好きで。でも「音楽をやりたいです」って親に伝えて、2023年5月からギャップイヤーを取って、毎月3回くらいいろんな場所でライブをやっていたらその気持ちが固まって。素敵な人たちとも出会えて今デビューできたという感じかな。
―音楽もジャーナリズムの側面がありますからね。社会に対する目線や自分の考えを、いかにみんなの心に入っていく表現方法で届けるということは、音楽においてもすごく大事だと思います。
音楽もジャーナリズムみたいにメッセージを届ける仕事なので、重なっている部分は絶対にあるなと思います。
―そういった想いを込めながら、出会うべき人と出会えて、自分の理想とするポップスを作れたのがデビュー曲「SENSITIVE」ですか?
そうですね。Jason Gillというプロデューサーさんが作ったトラックを聴いたときから、まずシンセの音に「これが自分の想像してるポップだ」ってビビッときました。そこに日本語も入れ込むことができて、すごく嬉しかったです。私のバイリンガルの力を活かしたいなと思ったし、こういうアメリカ風の音で急に〈声を潜める〉って入るのがかっこいいかなって。海外の音の力を使って日本語の曲を作ったり、英語と日本語をねじったりすることが素敵だなと思ってます。
―全体的には「繊細でも大丈夫」「考えすぎでも大丈夫」というメッセージを歌ってくれていると思ったんですけど、どんなことを思いながらこの歌詞を書いたんですか?
海外には「泣くのは大丈夫だよ」「それが逆にかっこいいかも」と歌っている曲がいっぱいあるんだけど、日本語だと、「泣く」ということは詩みたいに書かないと綺麗じゃないという感覚があって。パンクみたいなかっこよさで、しかも女性が「泣いたっていいじゃない」という曲を、日本語で書きたいなと思いました。女の子だけじゃなくて男の子たちにも向けて「泣くことが強いかも」というメッセージを入れて、それを叫ぶくらいの声で歌いたいなと思ってました。
―めちゃくちゃ素敵です。たしかに、「泣いてもいいんだよ」というメッセージを女の子がパンキッシュに日本語で歌うのは新鮮かも。男性に向けても、マスキュリズム的な曲はまだまだ日本であまり聴かない気もしますし。
そうですよね、泣くのはちょっとタブーみたいなところがありますよね。でも人間みんなエモーショナルだし、実はみんなセンシティブだと思ってます。
Photo by Yukitaka Amemiya
ギターとともに育ったMOMMOが大切にしていること
―新曲「Till The End」は、MOMMOさんが作詞も作曲も手がけたものですよね。切なさと、ハッピーな愛、どちらも感じ取れる曲だなと思って、その温度感がすごく素敵だなと思いました。MOMMOさんとしてはどういう曲にしたいと思いながら作り上げたんですか?
誰かを愛し始める時期って、すごく面白いなと思って。いつもはクールなのに「なんで急にこんなふざけたテキストを送っちゃったんだろう」みたいなことを、みんな経験したことがあるかなと思うんです。〈I want your mess to be mine/And only mine should be fine/Till the end〉って歌ったんですけど、君の不器用さも全部自分のものにしたい、最後までそれでいいじゃない、っていう感じの歌です。そういうワクワクする気持ちについて書きました。
―「SENSITIVE」はUSポップス的な音像で、それはMOMMOさんがずっとイメージしてきたものなのだと思うんですけど、「Till The End」は歌とアコギが前に出たオーガニックなサウンドで。これはMOMMOさんの中で、もともと好きだったカントリーのイメージですか? こういう音に仕上げたのは、どういう意図だったのでしょう。
この曲を作ったのはデビューが決まる前で、自分の中で「ルール」とかがなく、好きに書いたもので。戦略とかもないようなアプローチにしたので、それがすごくユニークかもしれないです。これから出す曲はもう少し大人になってから作ったものだけど、これは「ルールなし」「ありのままで」という感じのアレンジですね。去年、いっぱいライブをしていた頃に書いた曲なので、ライブのイメージをしながら作っていたとも思います。
―MOMMOさんが今、曲を作る上で一番大事にしていることは何だと思いますか?
ビリー・アイリッシュのお兄ちゃんのフィニアスが、「ギターのみで歌っていい曲は、シンセとかを入れてもいい曲になるはずだ」みたいなことをインタビューで言っていたんですけど、それは本当だなって私も思います。歌詞については、何かの色とかヴァイブスを感じてもらえたら「私は自分の仕事ができたな」っていう気持ちになります。たとえばIcona Popの「I Love it (feat. Charli XCX)」とか、〈I dont care, I love it〉ってリピートしているだけでも、そのヴァイブスや世界観が伝わって、それを歌って踊る人が大勢いると思うんです。そういうことがゴールですね。
―この先、どういった活動をしていきたいですか?
まず曲を作りためて、自分がどういうアーティストであるかを世界に見せてから、ライブをやりたいなと思います。ライブが一番「生きている」という気持ちになります。今はスタジオで曲作りを頑張る時期ですね。海外ではこれをよく「料理」って表現するんですけど。
―国内だけじゃなく、海外にも届けていきたい気持ちが強いですか?
そうですね、すごく強いと思います。リスナーとしても、多様性の力を入れ込んで作った曲が一番好きで。アーティストのプロデューサーや作詞家を調べて、たとえば「この人は南アフリカの人で、こんな生活をしていたんだ」「この組み合わせだから、こんなにすごいポップソングが作れるんだ」とかを知ることが好きなんです。最近香港で初めてライティングキャンプに参加したんですけど、香港の人もイギリス人も、いろんな人がいて、そこに日本とスウェーデンのルーツを持っている私もいて、すごく面白かったです。
―多様な価値観を混ぜてひとつの曲を作り上げたい、といった想いを抱くのは、どうしてだと思いますか?
サンタさんからギターをもらったときからずっとひとりでライブをやってきたので、最近は、やっぱり人と人の繋がりって本当に綺麗なものだなと思って。いろんな人の意見を聞くと私の意見も少し変わるし、逆に「私はいつも合っている」という気持ちだと人生はあまり進まないなと思う。まず私のアーティストとしての色や形を作って、そのあとはちょっと崩すというか、いろんな人と「私のこの味と、この人のこの味を入れ込んだら、どんなマジックが起きるのか」ということをやりたいです。海外に行っていろんなアーティストさん、プロデューサーさんとか、いろんな人生経験をしてきた人たちに出会いたいなと思います。いろんなところでライブをやって、アーティストだけではなく音楽を聴いている人たちと出会うことも楽しみにしています。自分の世界を広げて頑張りたいです!
「Till The End」
MOMMO
ワーナーミュージック・ジャパン
配信中