
トヨタのモータースポーツ部門であるGAZOO Racing(ガズーレーシング)。「トヨタのスポーツカー」を取り戻すというモリゾウ(豊田章男会長のラリードライバーの愛称)の熱い思いの下、ラリー参戦ベース車両「GRヤリス」の生産開始に合わせて、元町工場内にトヨタ初のスポーツカー専用工場として2020年にGRファクトリーが稼働を開始。
2025年1月には生産ラインがリニューアル。これに合わせて4月よりGRヤリスとGRカローラのオーナー限定で「GRファクトリー見学」を開始した。
【画像】潜入!!オーナー限定GRファクトリー見学は見どころたっぷり!
これは稼働中のGRファクトリー内に設けられた見学用通路で説明員の解説とともに製造工程を追って、走りにこだわるGR車両がどのように作られているのかを見学できるもの。
■すでに6月開催分までは満員御礼!!
見学に参加するには、GRヤリスおよびGRカローラのオーナーが、MyTOYOTA+アプリに登録していることが条件となり、「GRファクトリー見学 予約ページ」にて空き状況を確認し希望日を選択して予約する。
見学時間は午前の部(9:00〜11:00)、午後の部(12:30〜15:00)の2部制で、「ボデー工程(午後の部のみ)」、「組立工程」、「検査工程」の見学ができる。
2025年4月18日より受け入れを開始しているが、予約開始から2日間で4月、5月、6月に開催予定の9回分(90枠)はすでに満員御礼とのことで、オーナーの関心度の高さがうかがえる。
上記満員の期間内でもキャンセルにより空きが出る可能性があるとのこと。
なお、7月開催分については6月初旬以降に予約を開始する予定。以降の見学予約については見学日が含まれる月の2カ月前の1日から開始する。各月1日が、土日・祝日や非稼働日の場合は翌稼働日となる。また、やむをえない事情により開催予定日が変更になったり、不定期に見学日が追加されることもある。
■スポーツカーの生産現場を生体感できる
GR車両はモータースポーツで勝つために、トヨタが本気で開発するスポーツカーだけに、それを求める人もGRモデルのこだわりや走りのポテンシャルなどへの期待も高いはず。
そこでトヨタがスポーツカーづくりにかける思いを、実際にオーナーになった人へ感じてもらう機会として実施するのがこの「GRファクトリー見学」だ。スポーツカーならではの剛性アップのためのボディスポット溶接増しや通常よりも長い構造用接着剤の塗布、コンマ数mm単位で精緻に組み付けられるパーツ、そして高精度な検査工程、完成後にテストドライバーにより全数を走行評価するなどのクルマづくりへのこだわりをじかに体感できるのだ。
GRファクトリーでは現在、GRヤリスやGRカローラ、LBX MORIZO RRが100台/日生産されている。
ほかの工場と違い、スポーツカーならではの生産車や生産量、生産技術の変動や新技術にフレキシブルに対応することを優先した設計となっているのが特徴となっている。
例えば、従来は各工程でベルトコンベアや吊り下げ式の大型輸送機を用いているのに対し、GRファクトリーでは、フラットな床に工程ごとに分割式のラインを構築する「セル生産」を採用。このセル間の移動に「AGV(自動搬送機)」を組み合わせた生産工程により、つねにラインを入れ替えられ、最新の車両を最新の技術で必要な量だけ作れるように設計されているのだ。
見学ツアーは「ボデー工程」、「組立工程」、「検査工程」について順を追って見ていく。その行程とGRファクトリーならではのこだわりポイントは以下のとおりだ。
[集合・移動]
元町工場に隣接するトヨタ会館に集合。そこから専用バスに乗り込み、GRファクトリーに向かう。
GRファクトリー見学専用バスは、外装に専用ラッピングが施されるだけでなく、シートもGRロゴ入りの表皮が張り替えられ、シートベルトにも同じくGRロゴ入りパッドが付くなどこだわりのしつらえ。
元町工場内にあるGRファクトリーへ移動。工場の入り口に設けられた専用ブースでGRファクトリーの概要説明が行われ、午前の部は組み立て工場から、午後の部はボディ工場から工場内の見学が開始。
[ボデー工程]
ボディ工場でGR車両専用ボディパネルを溶接や構造用接着剤を用いて組み立てていく。スポーツカーに欠かせないボディ剛性強化のため、例えばGRヤリスでは、アンダーボディの接合に用いる構造用接着剤は通常のヤリスよりも約15mも長い約35mを塗布しており、メインボディの接合ではスポット溶接の打点をヤリスよりも増加。ボディをさらに強化している。
ボディ接合の最終工程では精度検査が行われる。ここでは足まわりの穴の位置をコンマ数mmレベルで計測している。データは解析システムに集約し、各パーツの微妙なズレも踏まえて設計通りになるように、最適な組み合わせの部品を選定するシステムが活用される。その数何と約1万通りにもなるそうで、この後の組み立て工程でそれらのパーツ組み付けに反映されている。
その後、ドアパネルなどの外装パーツを組み付けて組み立て・検査工場へ送られる。
[組立工程]
接合したボディにエンジンや足まわりなどのパワートレーン、インストルメントパネルやシートなどの内装パーツ、ドアパネルなどの外装パーツを組み付けていく。
カーボンルーフやインするメントパネル、フロントガラスの取り付けなど内外装部品の取り付けを行うが、このとき通常の工場ではベルトコンベアが止まることなく流れる中での作業となるが、GRファクトリーではAGVがベルトコンベアのようにまとまって動き車両を搬送。作業精度を上げるため、取り付け時には停止した状態で取り付け作業をする。
続いて足まわり組み付けとなるが、通常の工場ではこれは組み付け工程の中盤に行うことが多いという。これは操縦性や駆動に関わる組み付け精度が、ほかの部品によって影響を受けるのを避けるためだという。
組み付けられる足まわり部品は、ボデー工程同様に穴の位置を計測して、ボデー工程での測定結果と合わせて最適な組み合わせの部品が選定される。
この相性バッチリの足まわり部品の組み付け方もこだわりで、通常の工場では吊り下げたボディに足まわりをリフトして組み付けるものを逆転。ボディをリフトアップした後に足まわり部品を正確な位置にセットして、ボディを降ろして合体させる。安定した環境でブレなく作業を行えるだけでなく、重力がかかった状態で組み付けるため、精度が向上するのだという。
組み立て工程でできるだけ精度を高めて各パーツが組み付けられた後、車両は検査工程へと運ばれる。
[検査工程]
検査工程では、ボディの塗装面にキズがないかなど外観をチェック。
そしてラリー走行時を想定し、2人乗車+ガソリンが入った状態を重りで再現してアライメント調整が行われる。通常ではフロントとリヤを同時に調整して終了となるが、GRファクトリーでは、測定の後にまずリヤの調整を行い、再測定をして今度はフロントの調整、最後にもう一度測定して確認するという3回の測定を行う。こうしたきめ細かな測定と調整によって走行・操縦性能を高めているのだ。
その後、灯火類の作動チェックなどとともに動力性能を検査。
こうして完成した車両は工場の外に運ばれいったん待機。工場内のテストコースで認定試験を通過したテストドライバーによる全数評価が実施されるのだ。実走評価は通常では一定台数を生産するうちに抜き出して行われるものだがここもGRのこだわりで、すべての車両が「120km/hでの直進安定性」や「レーンチェンジによる操縦安定性」、「ブレーキ時の挙動や騒音」などが、こだわって作り上げてきた性能が引き出されているかを検査員の感性を用いて検査されているのだ。
ちなみに精度にこだわり組み立てられた車両だけに、ここで不具合が見つかることはほとんどないという。
テストコースでの全数検査による最終検査を無事に通過した車両はGRファクトリーを離れ、オーナーのもとへ出荷されていく。
すでにGRヤリスもしくはGRカローラが手元にあるオーナーが参加する、この「GRファクトリー見学」だが、実際に愛車が「こだわりを持って作られている」ということが知れるのはさらに愛車への愛着が深まることは確実(!?)だと思うし、昔ながらの自動車生産工場とは違う、フレキシブルなセル生産やAGVによる車両搬送による新たな生産ラインを見られる貴重な機会でもある。そんな特別な体験ができるのがこの見学ツアーのだいご味かもしれない。
〈文=ドライバーWeb編集部・兒嶋 写真=トヨタ〉