電動キックボードや電動アシスト自転車など、電動パーソナルモビリティのシェアリングサービスが人気を集めています。新顔として、いよいよ電動車いすの月額レンタルサービス「WHILLレンタル」が始まりました。SFアニメから飛び出したような近未来的なデザインやスマホ連携機能、特殊なタイヤによる小回りの利く操縦など、これまでの車いすの常識を変える内容が目を引きます。「車いすは恥ずかしい」と思っていた人も「乗ってみたい!」と感じさせる次世代のパーソナルモビリティの実力をチェックしました。
月額14,800円の手ごろな料金で借りられ、契約期間の“縛り”はナシ
日本のベンチャー企業であるWHILL(ウィル)が2021年春にサービスを開始したのが、電動車いすのレンタルサービス「WHILLレンタル」。貸し出される電動車いすは、近未来的なデザインが目を引く「WHILL Model C2」。レバーで操作すれば電動で走行するので、介助者がいなくても一人で移動できます。道路交通法では歩行者扱いとなるので歩道を走行できるほか、電車やバス(ノンステップ、ワンステップタイプ)への乗車も可能。病院やスーパー内の移動にも使えます。利用にあたって運転免許やヘルメットは不要で、自動車免許を返納したシニアや脚の不自由な人をおもなターゲットにしています。
レンタル料金は月額14,800円(非課税)と手ごろ。携帯電話のような契約期間の“縛り”はなく、1カ月単位で契約できます。貸出時の送料は3,300円が必要ですが、返却時の送料は無料となります。
WHILL Model C2でまず目を引くのは、これまでの車いすとは異なる斬新なデザイン。アクセントとなるホワイトのパーツがはめ込まれた太いアームや小径の4輪タイヤなど、ひと目見て「近未来的でカッコいい」「若々しい」と感じさせます。
本体に鍵穴はなく、付属のスマートキーをズボンのポケットやカバンなどに入れておけば電源をオンにできる仕組み。操縦は右手部分のジョイスティックで行い、前方に倒せばアクセル、左右方向に倒せば曲がるシンプルな仕組みで、直感的で分かりやすいと感じました。アームレストに腕を置きながら操作できるので、腕が疲れることもありません。速度は4段階で切り替えられ、相当ゆっくりの速度から早足程度の速度まで調整できます。
バッテリーは電動アシスト自転車用バッテリーと似た形状で、後部から差し込みます。フル充電時の走行距離は約18kmと、自宅近辺や旅行先などでの近距離の移動ならば不満はありません。
その場で回転できるので、小回りはとてもよい
脚が悪く、ちょっとした買い物や用事にもタクシーを利用することが増えた実家の70代の父親に乗ってもらい、感想を聞きました。
WHILL Model C2は宅配業者が配送するのではなく、WHILLの担当者が指定した日時に使用者の自宅まで来訪し、WHILL Model C2の組み立てや調整、説明や試乗をしたあとに引き渡す流れになっています。今回は私も同席しましたが、細かく使い方や注意点を説明してくれるので、シニアだけでも大丈夫でしょう。父親も戸惑うことなく乗り始められました。
操作性、使い勝手、進行速度、シートの座り心地など、基本的な部分に不満は感じなかったとのことでした。走行中の揺れに関しては、砂利道や未舗装の場所はさすがに大きかったようですが、舗装された場所では快適だったそう。アームを後方に倒せば横方向から乗り込めるので、脚が悪い父親も乗り降りしやすかったようです。
急な坂道でも問題なく走行できるのかも試してみました。自転車ではこいで上れないぐらいの急坂でしたが、70kg超の父親を乗せた状態でもグイグイと上っていきました。坂の上から下る際、重さで意図せず加速して猛スピードにならないか心配だったのですが、そろりそろりとゆっくり坂を下りられました。傾斜のあるスロープも問題なく走行できそうです。
特に優れていると感じたのが、特殊なタイヤがもたらす「その場での回転機能」。前輪は、いくつもの車輪が組み合わさった独自開発の全方位タイヤ「オムニホイール」が用いられ、その場で横に回転できるようになっています。回転半径は76cmに抑えられており、エレベーターを利用する際もバックで入る必要はなく、前向きで進んだあとにエレベーターのかご内で180度回転すればOK。父親も「多目的トイレなどの狭い場所でも出入りしやすかったのはありがたい」と評価していました。
父親が「怖いと感じた」と漏らしたのが、車両の出入り口として設けられている歩道の切り下げの部分です。斜めに切り下げられた部分は意外と角度がきつく、避けて通らないと車道側に転倒しそうになって怖かったそうです。
専用アプリを導入したスマホとBluetoothで接続すれば、スマホから遠隔で操縦できます。乗る人自身による操縦が難しい場合や、利用者が下りたあとにWHILL Model C2を保管場所まで動かすといった場合に使えます。操縦以外の機能は、バッテリー残量や走行可能距離の確認、ロックやロック解除など、ベーシックな機能にとどまります。
せっかくのスマホ連携機能を安全・安心の向上に活用してほしい
デザインや走行性能は満足できたWHILL Model C2ですが、改良を望みたい部分も散見されました。
まず感じたのが、せっかくのスマホ連携機能が「遠隔で操縦する」ぐらいにとどまっていること。せっかくスマホにつながるのなら、通信回線やインターネットを活用した安心・安全の機能を充実させてほしいと感じました。家族や保護者が現在地を確認できる機能や盗難防止につながる機能、雨雲レーダーと連携しての降雨予報機能などが備わると便利だと感じます。
父親は「散歩気分であてもなく出かけた際、バッテリー切れで自宅に戻れなくならないかが心配」と話していました。スマホアプリで現在のバッテリー残量をもとにした走行可能距離の目安は表示されますが、その情報だけを頼りに自分で判断するのは難しいと感じます。スマホの地図機能や現在地検出機能を利用して現在地から自宅までのルートや距離を常にチェックし、自宅に戻るのに必要なバッテリー残量がなくなりそうになったらアラートを出す、という機能があるといいかもしれません。
子どもやシニアなど乗車する人が操縦しなくても移動できるよう、介助者が後方から押すとその力を増幅し、強い力を入れなくても進む電動アシスト自転車のようなアシストモードがあってもいいと感じます。
装備面では、予備バッテリーのみ月額でのレンタルに対応しているものの、純正オプションで用意しているスマホホルダーや杖ホルダー、シートベルト(骨盤ベルト)、専用カバーなどのアクセサリーはレンタルに対応せず、買い切りのみになっているのが残念に感じました。
魅力的なデザインで車いすにつきもののコンプレックスを排除
一般的な車いすは「かわいそう、お気の毒に、という目で見られるのがコンプレックス」「恥ずかしいので乗りたくない」と、利用するのをためらう人が少なくないといいます。かたや「シニアカー」などと呼ばれるシニア向けの電動モビリティは、どうしても「年寄りくさい」という目で見られがちです。
未来的なデザインをまとってそのような偏見の目をシャットアウトし、周りの人に「カッコいい!」「乗ってみたい!」「先進的だ」「若々しい」と感じさせるのが、WHILL Model C2がもたらす大きな魅力の1つだと感じます。特殊なタイヤによる回転機能や優れた走行性能など実用性の高さも見逃せませんが、デザインの力で車いすを積極的に利用したいと思わせる魅力的な存在に引き上げたのは見逃せません。
連日熱戦が繰り広げられている東京2020パラリンピックの開会式では、WHILL Model C2に乗って入場する選手の姿を見かけました。6月に開かれた「WWDC2021」では、WHILL Model C2に乗りながら新OSの機能を説明するアップル幹部が話題になりました。羽田空港では、自動運転で歩行に不安を感じる旅客の移動を担っています。ワクチンの浸透でお出かけや旅行が楽しめる近い将来には、さまざまな場所でWHILL Model C2を活用する人の姿を見かけるようになるかもしれません。