今、新型コロナウイルスへの対策として、企業はテレワークを実施するなどの対応を迫られています。もともと東京五輪の開催に伴い、世界中から多くの人が観戦や観光に訪れることから交通混雑が予想されており、東京都はピーク時を避けての出勤や交通需要マネジメント、そしてテレワークの推進などに取り組んでいました。

しかし、テレワークに「関心がある」「やってみたい」という人は増えても、企業での導入はそれほど伸びていません。

経理業務を代行する「バーチャル経理アシスタント」サービスを提供するメリービズは、全国に約800名のリモートワークで働くスタッフを抱えています。そこで今回、メリービズ 代表取締役の工藤博樹氏にテレワーク導入のメリットやポイントを聞きました。

  • メリービズ 代表取締役 工藤博樹氏

企業のテレワーク導入はどの程度進んでいる?

--新型コロナウイルスの影響でテレワークを導入する企業が増えていますが、実際のところ、導入状況はいかがでしょうか。--

工藤氏: 「出勤しない」という画期的な選択肢の1つでもあるテレワークですが、導入している企業は大きく増えていないのが現状です。

東京都は五輪開催時までに都内企業のテレワーク導入率を35%まで引き上げたいとの方針ですが、2019年7月で25.1%と、進捗はかんばしくありません。

その反面、従業員側は「テレワークをしたい」という人が増えており、東京都の調査では都内企業に勤めていてテレワークをしたことがない人のうち44.7%が「今後テレワークをしてみたい」と回答しています。

生産性の向上はもとより、今回の新型コロナウイルスのような事態に対応するためにも、企業側がテレワークできる環境を整えることは重要です。

  • 都内2068社のテレワーク導入状況(全体) 資料:「東京都 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」

  • 都内2068社のテレワーク導入状況(業種別) 資料:「東京都 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」

--バックオフィス業務は特にテレワークが難しいという声もありますが、導入率が思うように進まないのはなぜですか?--

工藤氏: テレワークの導入が進まない要因の1つに「オフィスでやるもの」という固定観念が挙げられると思います。例えば、経理業務で扱う伝票や請求書などは書類形式であることが多いため、自然と「オフィスでやるもの」と思いがちです。

また、テレワークに必要なツールを使いこなすITリテラシーが必要になるため、ハードルができてしまっていることも考えられますね。データをクラウド上にアップロードするのも「不安」と考える管理職の人がいたら、それらを外で扱うテレワークの導入はかなり難しくなってしまうでしょう。

このような思い込みや変化を拒む文化はありますが、実はバックオフィス業務は、当社のサービスが多くの企業で利用いただけているように、テレワークと相性がいい業務でもあります。

--それは、なぜでしょうか?--

工藤氏: バックオフィス業務は企画職などと比べて、日々の成果が見えやすいのです。「〇日までにこの書類を処理しておく」といったようにゴールが見えやすく、「きちんと仕事をしているか」を可視化できる分、リモートであっても適切なマネジメントができます。

テレワーク成功のカギは環境整備

--テレワークを円滑に導入するために押さえるポイントはありますか?--

工藤氏: 遠隔からでも働きやすい環境を整えることが大切です。たとえリモートであっても従業員がしっかり成果を出せるよう、業務を整理することが企業に求められます。

それには、作業をできるだけ細分化・整理することが必要です。メリービズでも、お客様から仕事を引き受ける際は、一連の業務フローの中にどのようなタスクがあるのかを細かくヒアリングして「この場合はAのように対応する」などのルール決めをさせていただき、私たちに判断をゆだねられてしまう状況が出ないように心がけています。

業務の中にどのようなタスクがあるのか、それらはルール化できるのかを洗い出しておくのがオススメです。

また、オフィスのように顔を合わせることがないので、コミュニケーションの密度を上げる必要があります。メリービズでは、リモートワーカーとマネージャーの間で始業時、終業時にSlack(チャットツール)上で挨拶や進捗報告をしてもらうようにしています。

--必須のツールやサービスなどはありますか?--

工藤氏: 必要のツールやサービスは、何を目的にするかによっても変わってくると思います。例えばメリービズでは、800名のスタッフと効率的にコミュニケーションがとれるようSlackでやりとりをしていますが、すべての企業がSlackを導入すれば生産性が上がるというわけではありませんよね。「生産性の向上とは?」を具体的に突き詰めていく中で、適切なツールやサービスが見えてくるはずです。

--セキュリティ面では、どのようなことに気をつけるべきでしょうか?--

工藤氏: ツール、ルール、教育、そして文化づくりがあります。仕事で使うPCやセキュリティ・ソフトウェアはもちろん、運用のルールを用意し、リモートワークで特に気をつけないといけないセキュリティ面を教育していく必要があります。そして、最終的には文化としてセキュリティを常日頃から意識することを根付かせていく必要があります。

ただ、セキュリティを過度に気にしすぎるとあらゆることを禁止することにつながります。どこまでのリスクを許容するかを明確にし、その中で現実的な運用を考えること、バランスが大切に思います。業務においても「リスクがあるから、すべてのデータを社外持ち出し禁止」としないように、セキュリティと利便性のバランスがとれたポイントを見つけたいですね。

メリービズでは、ツールでリモートワーカーの方の権限設定を細かくすることにより、リスクを最小化しています。ツールで防止できることはたくさんあります。

テレワークを導入することで企業が得られるメリットとは

--テレワークの導入によって、企業にはどのようなメリットがありますか?--

工藤氏: まず、採用面でメリットがあります。メリービズではバーチャル経理アシスタントとしてリモートで業務を行うスタッフを募集していますが、毎月50~100名からの応募があります。

働き方が多様化し、定時のあるフルタイム勤務が難しい人や地方在住の人など、リモートワークの希望者も増えていますから、「リモート可」とするだけでも採用のチャンスが大きく広がります。実際、当社のお客様でも、経理人材の不足から本社移転を検討されていた地方の企業様がいらっしゃいましたが、当社のバーチャル経理アシスタントを利用いただき、本社移転をせずにすんだ事例がありました。

また、大規模災害時には会社の機能を各社員に分散させておけるメリットもあります。出社しないと仕事ができないという状況をなくすことで、いち早く事業を再起動できる可能性が高まります。いわゆるコンティンジェンシープランになります。

もちろん、社員の通勤時間を減らすことができるので、社員のモチベーション向上や生産性の向上にも期待できますね。テレワークは経営改善や組織の活性化にとっても大きな一手になると考えています。