近年、夜空にリボン状に伸びる紫色と白色の発光現象が注目されている。この現象は「スティーブ」(STEVE:Strong Thermal Emission Velocity Enhancement)と名づけられ、その発生メカニズムについて科学者の間でも関心が集まっている。これまでスティーブはオーロラの一種ではないかと考えられてきたが、最新の研究からは、オーロラとはまったく別物の未知の現象あることが分かってきた。カナダのカルガリー大学などの研究チームの論文が「Geophysical Research Letters」に掲載された

  • 発光現象「スティーブ」

    2018年4月10日、カナダのブリティッシュコロンビア州プリンス・ジョージで撮影された発光現象「スティーブ」(C) Ryan Sault

スティーブは、オーロラを撮影している写真家グループの間で10年ほど前から知られるようになっていたが、科学者の間でこの現象が注目されだしたのは2016年とつい最近のことである。スティーブの画像をはじめて見た科学者たちは、典型的なオーロラとは少し違うということに気がついたが、その発生メカニズムについてはよくわからなかった。

通常のオーロラは、地球の磁気圏から電子と陽子が電離層に降り注ぐときに発生する。電子と陽子が電離層で励起することによって、緑、赤、青などさまざまな色の発光が起こる。

オーロラとスティーブの違いとして、発生頻度の違いが挙げられる。オーロラは発生条件が揃えば毎晩のように現れるが、スティーブのほうは1年間に数回しか見ることができない。また、高緯度地帯でしか見られないオーロラと違って、スティーブはより赤道に近い地域でも現れることがあるとされる。

スティーブに関する最初の研究論文は、2018年3月に「Science Advances」に発表された。それによると、スティーブの観測中に高速のイオンと電子温度の非常に高いホットエレクトロンの流れが電離層中を通過していることがわかったという。

今回の研究では、スティーブの発生が電離層に降り注ぐ粒子によるものなのかどうかを調べるために、アメリカ海洋大気庁(NOAA)が運用する極軌道環境衛星「Polar Operational Environmental Satellite 17(POES-17)」のデータを利用した。POES-17は電離層に突入してくる荷電粒子を観測するための衛星であり、2008年3月28日にカナダ東部でスティーブが発生したときに、偶然このスティーブの直上を通過していたという。

このときのPOES-17の観測データを調べた結果、スティーブが発生していたとき、電離層に降り注ぐ荷電粒子は検出できなかった。このことから、スティーブはオーロラとはまったく異なる未知の現象であることが示唆されると研究チームは指摘している。

カルガリー大学の宇宙物理学者で今回の論文の筆頭執筆者であるBea Gallardo-Lacourt氏は「我々の研究の結論は、スティーブはオーロラではないというものである。したがって、現時点では、この現象についてわかっていることはほとんどない、ということになる」とコメントしている。

研究チームは今後、電離層における高速のイオンとホットエレクトロンの流れがスティーブの発光原因なのか、それとも電離層よりもさらに高空で起きている発光現象なのかといったこと調べていくという。