かつて、映画は上映時間数分のショートフィルムから幕を開けた。技術の進化とともに上映時間が長くなっていく一方、アメリカでは短編映画に代わって映像による広告が現れたという。

そしていま、ショートフィルムのなかでも、企業のメッセージを伝える新しいコミュニケーション手段として、広告と映画のハイブリッドともいえる「ブランデッドムービー」が注目を集めている。

米国アカデミー賞公認の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア2018 (SSFF & ASIA 2018)」では、ブランディングを目的に制作したショートフィルム(ブランデッドムービー)部門の「Branded Shorts 2018」というプログラムが用意されており、エントリーされた国内外350以上の作品のなかから、最も優れたブランデッドムービー「Branded Shorts of the Year(インターナショナルカテゴリー/ナショナルカテゴリー)」と、最もシネマチックなブランデッドムービー「SUNRISE CineAD Award」が選出される。

2018年で3回目を迎えた「Branded Shorts」。今回、Branded Shorts of the Year インターナショナルカテゴリーにはAppleの『Three Minutes』、ナショナルカテゴリーには講談社の『玉城ティナは夢想する』が選出され、SUNRISE CineAD Awardにはリクルートライフスタイルの『春』が選ばれた。

下記の受賞作品を見ていただければ「ブランデッドムービーとは何か」を、なんとなく理解していただけるのではないだろうか。

Appleの『Three Minutes』

講談社の『玉城ティナは夢想する』

リクルートライフスタイルの『春』

今回、2018年6月の映画祭開催に伴い、「Branded Shorts 2018」に協力しているネスレ日本 代表取締役社長 兼 CEOの高岡浩三氏と、俳優でショートショートフィルムフェスティバル & アジア代表の別所哲也氏が、ブランデッドムービーについて意見を交わした。

映像の垣根を越えて、ショートフィルムはマジョリティへ

高岡氏は15年前からブランデッドムービーに取り組んでおり、別所氏は今年15周年を迎えるSSFF & ASIAの代表としてショートフィルムとともに歩んできた。長い期間ショートフィルムに関わってきた2人から見て、内容や環境の変化をどのように感じているのだろうか。

ネスレ日本 代表取締役社長 兼 CEOの高岡浩三氏

ネスレ日本 代表取締役社長 兼 CEOの高岡浩三氏

高岡氏「内容の変化よりも、テクノロジーの変化が大きいですね。私がブランデッドムービーに取り組み始めた15年前は、ようやくブロードバンドが普及し始めた時期。パソコンで10分や20分のムービーを、ようやく視聴できるようになった頃です。そこから、急速に容量が増えて、スマホが普及し、劇場映画やテレビに近いレベルで、スマホでも手軽に映像を見られるようになりました」

技術の進化に伴い、視聴環境は劇的に変化した。パソコンやスマホで動画を視聴することは、もはや生活の一部になっていると言っても過言ではないだろう。

高岡氏「もう1つ、テレビの変化が挙げられます。昔と比べて、録画機能が飛躍的に便利になりましたよね。テレビ本体には当然のように録画機能が付いていて、30秒スキップなども可能です。そのため、テレビ番組をリアルタイムで見なくなり、CMをスキップすることがあたりまえになりました。これらの変化が、企業のショートフィルムに対するニーズを喚起したのではないでしょうか」

テレビの録画機能が進化したことで、CMはスキップされるリスクが高くなった。そこで、企業は消費者とのコミュニケーション手段として、スマホでも簡単に視聴できる「ショートフィルム」に目を向けるようになったのだ。

ショートショートフィルムフェスティバル & アジア代表の別所哲也氏

ショートショートフィルムフェスティバル & アジア代表の別所哲也氏

別所氏「映像の創り手側からみると、“短い映画”としてブランデッドムービーを手がけるため、そこまで大きな変化や違和感はありません。ただ、徐々に作法というか、グラマーのようなものはわかってきました」

テレビであれば、ヒキの強い映像や続きが気になるようなシーンをCM前に置くといった、チャンネルを変えられない工夫をしてきた。それと同様に、パソコンやスマホでの視聴を想定した映像を制作する際にもテクニックがあるのだ。

別所氏「スマホで見るようなショートフィルムで、300人の兵隊が動くようなシーンを入れても意味ありませんよね。きっと、小さくて何が何だかわからないはずです。映像を創るという本質は変わりませんが、『クローズアップショットと物語の運び方をどう組み立てるか』『離脱を避けるためにつかみの5秒をどうするか』といった点に着目するようになりました」

さらに、SNSの普及に伴って、音声を消しても楽しめる作品とはどのようなものなのか、イヤホンで聞いたときに心地よい映画は何なのかといった議論も生まれるようになったという。

別所氏「最近では、スマホの縦型動画も出てきましたね。これからは、スワイプする、スクロールするといった、タッチパネルならではのゲーミフィケーション的おもしろさが、シネマとつながっていくかもしれません。さらに進めばVR。すでにスマホで360°動画を楽しめるヘッドセットもありますし、もしかするとこの1~2年でVRにショートフィルムの作法が入ってくる可能性もあります」

高岡氏「また将来的には、ミュージックビデオや都道府県のPR動画、ショートフィルムといった垣根がなくなっていくと思います。テレビができたばかりの時代はドラマと映画は全く別物でしたが、今はそうではありません。ショートフィルムも同様に、今あるほかの映像との垣根がなくなっていき、今後はショートフィルムがマジョリティになっていくでしょう」

別所氏「私もそう思います。そのなかでクリエイターとして、どのように力を発揮していけるか挑戦できることは非常に楽しみですね。ロボットと共演することもあれば、ボーカロイドの歌で演じるかもしれません。きっとすごい時代が来ると思いますよ」