AIを使って約760万点の作品とユーザーとを結びつける

ハンドメイドマーケット「minne」が、AI活用で成果を上げている。minneはGMOペパボが2012年から展開しているハンドメイド作品を扱うマーケットプレイスだ。登録している作家・クリエイターは約42万人、作品数は約763万点、スマホアプリは911万ダウンロードという実績で、C2Cのハンドメイドマーケットの「定番ブランド」になっている。

そんなminneが作品数や会員数が増加する中で抱えた課題の1つが、作品とマーケットの利用者をどう結びつけるかだった。既製品であれば利用者がほしいと思う商品は品番やメーカー名から簡単に探し出すことができる。だが、ハンドメイド作品の場合、作品と利用者がどのような「出会い」をするかに明確な法則性がない。そこで重要になってくるのが、マーケットとしての「場のつくり方」だ。

minneでは、カテゴリーや人気ランキング、キーワード検索、作家ごとの作品ページなどを設け、作品を探しやすくする工夫を行ってきた。また、minneからのおすすめ、ピックアップ、読み物といった作品や作家の魅力を伝えるメディア的な展開にも積極的に取り組んできた。

例えば、カテゴリーは現在、アクセサリー、ファッション、バッグ・財布・小物、ペットグッズ、食べ物など16に分かれており、さらにそれらは数十のサブカテゴリーに分類されている。色や素材、作家などから作品をキーワード検索したり、作家のプロフィールページから、ほかの作品を探したりすることもできる。

GMOペパボ社長室マーケティング統括チームマネージャー 相田傑氏

AI活用のプロジェクトを指揮したGMOペパボ社長室マーケティング統括チームマネージャーの相田傑氏は、AI導入の狙いについてこう話す。

「作品の見せ方や雰囲気の伝え方ひとつが、作品の売れ行きを大きく左右します。運営を続けるなかでそうした多くのノウハウを蓄積してきましたが、中には根拠が明確ではない経験則や暗黙知のようなものもありました。また、これまで蓄積してきた膨大なデータがあったのですが、新しい知見を得るためのデータ活用は十分に進んでいませんでした。AIを使うことでそれらをうまく汲み取ることができないか、約763万点の作品とユーザーとをうまく結びつけられないか、そう考えたことからAIの活用が始まりました」(相田氏)

昨年12月から試験導入を始め、今年2月からAIを活用したデータ分析を本格化させた。すでにマーケティングやキャンペーン施策で効果を確認し、今ではビジネス展開に欠かせない基盤になっている。

人間では気づかない相関を見つけ、クロスセルに誘導

minneのビジネスは10%の販売手数料で成り立つモデルだ。作品の売れ行きがminneの業績に直結するため、いかに売買金額を増加させるかがビジネス成功のカギとなる。KGI(Key Goal Indicator)もそこに設定されており、AI活用にあたっても、いかに売買金額と取引量を増加させるかが大きなテーマになった。相田氏は「まずは、CRMシステムやアプリでの行動データをもとにアクティブユーザーを予測して、そこに正しくリーチすることで売買金額と取引量を増加させることを目指しました」と狙いを話す。

GMOペパボ社長室マーケティング統括チーム 平木誠氏

日用品を扱う小売業などでは、売買金額や取引量を増加させるアプローチの1つとして併売分析やバスケット分析などがよく行われる。リピート率の高い日用品で併売率を上げることで、継続的に売上を向上させやすくなる。一点モノを多く扱うminneにおいても、カテゴリーをまたがって同時に購入される作品はあったという。例えば、ベビー・キッズのカテゴリーに属する作品とポーチは一緒に購入されるケースが多かった。プロジェクトを推進した社長室マーケティング統括チームの平木誠氏はこう話す。

「お母さんが一緒にポーチを買っていると想像できます。こうした相関はほかにも見られたのですが、それをデータで確認して継続してPDCAサイクルを回すところまでには至っていませんでした。また、minneのユーザーには、最初に購入したカテゴリーのなかでリピートして購入しやすいという傾向がありました。例えば、最初にアクセサリーを買ったユーザーはアクセサリーを続けて購入し、ほかの作品はあまり購入しません。そこで、リピートが多いのにクロスセルができていないカテゴリーを中心に、AIを活用して人間では気づかない相関を見つけ、新規購入につなげていこうと考えました」(平木氏)

GMOペパボ 社長室マーケティング統括チーム 池田あずさ氏

AI活用の背景には、データの量が膨大で、データ分析の手が足りていないという事情もあった。minneでは、CRMデータやアプリのデータをログ収集サービス「Treasure Data」で管理している。それらのデータをマーケティングやキャンペーンの施策に生かすには、データ抽出や分析作業が必要だった。平木氏とともにプロジェクトを推進した社長室マーケティング統括チームの池田あずさ氏は、その際の苦労についてこう話す。

「マーケティングやキャンペーン施策のためのデータ抽出やデータ分析は必要に応じてデータサイエンティストやエンジニア、アナリストの力を借りながら行っていました。ただ、データサイエンティストはGMOペパボの全部門のデータ分析を担当しているため、ちょっとした分析を気軽に頼むことが難しかったのです。また、部門のエンジニアやアナリストにも依頼が集中しやすく、いつでも好きな時に分析できるわけではありませんでした。AIを使うことで、われわれマーケティング担当者だけで気軽にデータの抽出や分析ができるようにしたいと考えました」(池田氏)

数百万ユーザーから10万人のオーディエンスをAIで抽出

こうしたなかminneが採用したのがAppier(エイピア)が提供するAIを搭載した予測分析プラットフォーム「AIXON(アイソン)」だ。Appierはアジア14拠点で1000を超える組織にサービスを提供する台湾のテクノロジーベンチャーだ。著名VCのほか、ソフトバンクグループ、LINEなどから出資を受けており、2017年7月に日本市場に参入した。

minneがAIXONを採用した理由は、GMOペパボがすでに社内利用していたDSPサービスでの実績を評価したためだ。相田氏はAIXONの魅力について「Webやアプリなどの複数デバイスをまたがって情報を取得できること、AIテンプレートを使ってセルフサービスでデータ分析ができること、FacebookやGoogleなどさまざまなチャネルに広告を展開できることです。minneが抱えていた課題の解決に適していると考えました」と振り返る。

AIXONのAIエンジンは、アジアの約20億のデバイスを通じて収集されたユーザーの行動や嗜好に関するデータをベースにしている。膨大なCRMデータやWebサイトデータ、アプリデータを独自のデータベースに統合し精度の高い予測モデルを作成し、そのモデルをAIテンプレートという機能を用いることで、誰でも簡単に利用できるようになる。

AI分析システムの構築にあたっては、Appierの分析チームとともに、どのようなカテゴリーに対してどのような分析を行うのかを検討し、施策を決めていった。はじめに実施し効果を確認したのは、2つのキャンペーン施策だ。平木氏は、それぞれの狙いについて、こう説明する。

「1つは、プッシュ通知でクロスセルを促すリエンゲージメント施策です。リピート率が高いカテゴリーのうち、われわれだけでは相関が見つけられなかったカテゴリーの1つが食品でした。そこで、既存ユーザーから購入意欲の高いと思われるユーザーをAIで抽出し、食品カテゴリーに属する商品をプッシュ通知でおすすめしました。もう1つは、アプリのインストール広告キャンペーンです。AIで抽出したデータを活用したアプリのインストールを促す広告を展開しました」(平木氏)

minneで購入経験のある数百万ユーザーから、数万人のminneユーザーを教師データにしてAIで抽出した。その効果を検証するために、AIで抽出した場合とランダムで抽出した場合との比較を行った。

一方、アプリインストール広告キャンペーンでは、AIXONで抽出した購入意欲の高いユー ザーデータを使い、類似拡張での配信を行った。