2017年8月、日本で初めてゲーム制作企業を対象としたAI(ゲームAI)開発会社が誕生する。その名も「モリカトロン」。設立の中心となった森川幸人氏は、1994年に発売された家庭用ゲーム機「PlayStation」が登場して間もないころから、AIを搭載したゲームの開発に着手していた。森川氏の手がけた「がんばれ森川君2号」などをプレイした人もいるのではないだろうか。

がんばれ森川君2号は1997年に発売されたゲームソフトで、AIによって自律的に行動するPiTと呼ばれるロボットを教育し、ステージクリアに導くというもの。ニューラルネットワークを活用した数少ない商業ゲームとしても注目を集めた。それから20年。長年積み上げてきたAIのノウハウを活かしてゲーム専用AI会社を設立した今、森川氏は何を感じているのだろうか。

  • モリカトロン  代表取締役 森川幸人

森川幸人(もりかわ ゆきひと)

モリカトロン 代表取締役 モリカトロンAI研究所所長

1959年生まれ。1983年筑波大学芸術専門学群卒業
1990年 ウルトラを設立 同社取締役社長に就任
1995年 ムームーを設立 同取締役社長に就任
2017年8月 モリカトロンを設立 同代表取締役に就任、現在に至る

PlayStationの初期から積極的にAIをゲームに取り入れ、自ら設計、開発を行う。AI搭載ゲームの代表作は「ジャンピングフラッシュ!」(SIE)、「がんばれ森川君2号」(SIE)、「ここ掘れ!プッカ」(SIE)、「アストロノーカ」(スクウェア・エニックス)など。2003年に発売された「くまうた」(SIE)は、翌年文化庁メディア芸術祭にて審査員推薦賞を受賞する。

モリカトロンを設立した2017年はどのような1年でしたか?

森川氏:2017年はAIに対する熱量を実感することができました。私は20年前からゲームにAIを取り入れていますが、当時は世間からあまり評価してもらえませんでした。しかし、モリカトロンを設立してからは、同じAIの話をしていても聞き手の温度感が明らかに違うのです。みなさん、どのようにゲームAIを組み込んでいくのかという話を、熱心に聞いてくださるようになりました。

正直、設立時はゲームAIの考え方を普及させるために、啓蒙運動や営業に走らなければならないだろうと覚悟していました。しかし、うれしい誤算といいますか、会社設立のリリースが出た瞬間から問い合わせが殺到し、すぐに話を聞きたいと言ってくださる方もいたほどです。話を聞いてもらえなかった20年前の苦い経験があるので、「ゲームAIは受け入れられないのではないか」という懐疑的な気持ちもありましたが、これならば通用すると手応えを感じることができました。

ゲーム企業のAIに対する関心が高まった理由をどのようにお考えでしょうか?

森川氏:まずは市場環境として、ディープラーニングなどの技術進化や、AIの認知度向上が挙げられるでしょう。メディアでもAI関連の話題は目にする機会が増えましたしね。ただ、特に大きな要因となっているのが、今のゲームの仕組みではないしょうか。

近年、スマホのゲームが爆発的に増えてきていますが、そのほとんどが"運営型"です。これまでのソフトだけで完結する"売り切り型"とは異なり、ネットワークと接続した運営型ゲームは定期的なアップデートが当たり前になりました。毎週イベントを開催したり、新しいアイテムやキャラクターを配信したりと、プレイヤーもサービス提供者も基本的に"終わりがない状態"になったのです。

もはやキャラクターがどこまで増えるか、何年サービスが続くか、誰にも予測できなくなりました。3年ほど運営を続けているゲームでは、キャラクター数が1000を超えることも珍しくありません。新キャラが出るたびに、ゲームバランスを崩さないようなパラメータ設計や、セリフ、シナリオの執筆が必要になるので、いよいよ「人間だけでやっていると間に合わないぞ」という危機感を抱くようになったのでしょう。