スマートフォンは、携帯電話とコンピュータ両方の顔を持ちます。ですから、スペック表を見れば専門用語のオンパレード……これではおいそれと比較できません。このコーナーでは、そんなスマートフォン関連の用語をやさしく解説します。今回は「HDR(ディスプレイ)」についてです。

***

スマートフォンで「HDR」(High Dynamic Range)というとき、カメラの画像合成技術を指すことが一般的ですが、映像表現技術を意味することも増えつつあります。この場合、HDRとは映像が持つ輝度幅(ダイナミックレンジ)を拡大する技術であり、その輝度幅を情報として持つコンテンツとそれを表現可能なディスプレイを指します。

映像の美しさを客観的に測るときの基準には、ディスプレイを構成する画素の多さ、表現できる色の豊富さ(色域の広さ)がありますが、家庭用テレビではHDR対応かどうかも新たな基準になりつつあります。現実の世界と比較するとディスプレイで表現できる輝度幅(ダイナミックレンジ)は狭く、露出を明るい部分にあわせると暗部は黒つぶれし、反対に暗い部分にあわせると明部は白飛びしてしまいますが、従来の方式(SDR、Standard Dynamic Range)と比べダイナミックレンジが広いHDRではより現実に近い自然な明るさを再現できます。

HDRをスマートフォンで実現するためには、ディスプレイの描画能力にくわえ、コンテンツ側もより多くの輝度情報を含む必要があります。つまり、HDRは「HDRコンテンツをHDR対応ディスプレイで視聴する」ことにより実現されます。

HDR対応ディスプレイを搭載したスマートフォンは、Samsungが発売した「Galaxy Note 7」がありますが、事故により生産終了となりました(日本未発売)。オンデマンドのビデオ配信サービスでは、NetflixやAmazonがHDR対応家庭用テレビ向けにHDRコンテンツを提供中ですが、2017年2月現在スマートフォン向けの配信は実施されていません。ディスプレイのみならず、映像制作の段階から対応しなければならない技術であるだけに、スマートフォンで普及するまでにはもう少し時間がかかりそうです。

「HDR」に対応したディスプレイは、明暗差の大きい場面でもリアルに描画できます(写真はイメージです)