片山右京氏の説明は不要だろう。日本人3人目のF1レーサーになる一方で、登山家やロードレーサーとしても活動するなど、マルチな才能を見せるスポーツマンだ。

片山 右京氏

そんな片山氏がカーレースに興味を持ったのは高校3年生の時、オートバイに乗ってカルチャーショックを受けたのだという。

「(子供たちに対して)みんなにいう話でもないんだけど(笑)あまり良い学生じゃなくて、勉強が苦手で、喧嘩をしていたりしたから、先生に『卒業してやることがなくなるぞ、どうするんだ』と言われた。『F1レーサーになります』と答えたけど、根拠もないし、カートにすら乗ったことなかったけど(笑)」

しかしその後、車のメカニックとして自動車に携わり、国内のフォーミュラーカーレーサー、そしてF1レーサーとなっていく。これについて片山氏は「運が良くレーサーになれた」と自嘲気味に話したが、子供たちに対してF1レーサーになれた理由をこう語った。

「なんで夢が叶えられたか。ある意味魔法なんだけど、『言葉』に助けられた。犬や猫も会話しているが、人間は更に多種多様な言葉で相手に気持ちを伝える。その相手に気持ちを言葉で伝えるということが大切なんだ。日本には"気"という言葉がある。気という言葉は、"気持ち"だ。人間が行動する時、"気持ち"から電気信号で筋肉を収縮させて、手足を動かすことで行動している。筋肉は"気"で動かしているんだ。あいまいなことではなく、身体は心が動かしている。つまり、『駄目だろうな』『絶対にできないだろうな』と考えてしまうと絶対に目標は達成できない。落ち込んでいたりすると、こう思いがちだけど、そういう時こそ一番大事。一番大事なタイミングで『絶対に諦めない』『絶対にやろう』『絶対にやりきろう』と思うと、元気が出てくる。

最初に言葉と言ったけど、自分がやりたいと思ったその"想い"を言葉にすることはとても大事だ。『いつかレーサーになりたい』ということを言葉にするとチャンスをくれる人が出てくるかもしれない。もちろん、テレビを見たり、ネットを見たりするだけではなく、メカニックになったり、レーシングスクールに行くということが大事だ」(片山氏)

もちろん言葉にも"良い言葉"と"悪い言葉"がある。

「人の悪口を言ったり、他人の揚げ足を取ったりすると"気"が切れちゃう。そんなことやっているようでは願いは叶わない。あと、誰かに自分の気持ちを伝えてもらっても願いは叶わない。女性もそうだよ(笑)。好きだと自分で言葉で伝えないとね。頭にきた時に、暴力は絶対に駄目だし、言葉で伝えよう。言葉は想像以上に相手を傷つけるから、相手を思いやる優しさも重要だ。あとで冷静になると、自分も落ち込む。自分もそういう失敗をしてきたから」

気の持ち方と、言葉の使い方。そして最後に片山氏が語ったのは、山田さんも話していた前向きな姿勢だ。

片山氏と山田さんが子供たちに伝えたいことは同じ

「前に進む上で、友達と競争して『悔しい』から『クソッ』という気持ちがエネルギーになるんだ。女の子にモテたいという動機でも良いよ(笑)。ただ、"競争"は良いけど、"戦争"は駄目だ。相手を傷つけるようなこと、相手をけなすことは駄目。自分も昔は人のことを恨んだりしていた。でも、レースだったり山に登ったり、砂漠へ行ってリタイアするたびに、みんなに励ましてもらった。

一人、白血病で骨髄移植を待っていた病気の子供がいた。自転車の選手になりたかった子だ。少し前に、直らないことが分かっていても前向きに頑張っていた。だけど、心臓や肺に水が溜まり、とても頑張っていたんだけど、『痛くても駄目だ』とその子は言ったんだ。その子は最後にお母さんに対して『自分は病気で死ぬんじゃなく、痛さに負けて生きることを諦めて死ぬ。諦めることを片山さんに謝って』と話して、息を引き取った。

地震とか台風とか病気とか、どうしようもなく、運命を受け入れなきゃいけない状況にいる人がいる。でも、それでも、それを受け入れて頑張る人がいる。自分が陥った状況を否定していたら何もできない。わかっていても諦めないで戦い続ける勇気が必要。自分もみんなに励ましてもらったから、逆に俺もみんなを励ますんだ」