タイム短縮のためのもう1つのテクニック「レーンチェンジ」

続いては、タイム短縮のために複数のチームがトライしたもう1つのテクニック、「レーンチェンジ」について説明しよう。昨年までも極少数だったが、アウト側を出走する際にコーナーでイン側のラインに移って、レースでお馴染みのコーナーを抜ける際の基本中の基本のライン取り「アウト・イン・アウト」を実現してタイム短縮を実現したチームがあったが、今年はショートカットを行うために、上位チームの多くが採り入れていた。

まず最も多く行われたレーンチェンジは、画像4の(1)のポイントでショートカットするため、その手前、メインストレートの内にアウト側からイン側のラインに移るというもの。そして(1)でショートカットし、(2)の地点では外側のライン取りであるインを走り、その後にアウトに戻って第4中間ゲートを通過、その後のS字セクションも本来のアウトのままでいく、という感じである。

ただし、中にはさらなる、まさに縦横無尽ともいうべきレーンチェンジを駆使したチームもあった。アウトでは1コーナーの中に入ったところで、(1)'でレーンチェンジしながらそのままショートカットに突入(大外から一気にショートカットする)。その際に(2)ではイン側、つまりアウトのラインに移り、次に(4)の時点ではインのラインで抜け、そのままS字セクションに突入。(5)でアウトのラインに移ることで、まさに最短中の最短ラインをかけ抜けたのが、「じぇっとあーる」(画像14)だったのである。

インでも、最初のレーンチェンジがないだけで同じようにライン取りをし、S字後半のコーナーの途中から直線的に走り(まっすぐの方が速度が上がるためと思われる)、ゴールラインは両ラインの中間ぐらい、ゴール後にインのラインに移動してLUGに挑むという徹底ぶりだった。走行タイムだけで見た場合のインもアウトも2位であるAC.Sonic13や、同じく両コース共に3位の「Joker艮(うしとら)」(東北大学大学院 情報科学研究科)(画像15)もそれに近いライン取りでかなりの好タイムだったが、まだ大回りしている部分や走行体の速度が若干遅いなどがあったようで、そこでじぇっとあーるに後れを取ってしまったというわけだ(AC.Sonic13のアウトのラインはじぇっとあーるとほぼ一緒だった)。

その走りを動画で見たい方は、USTREAMで生中継された配信映像が残されているので視聴可能だ。「ETロボコンチャンピオンシップ大会」のタイトルで複数の動画があるが、179分58秒のものを選べばよい。デベロッパー部門が1つの動画になっているため、じぇっとあーるの第1走はアウトで、1時間2分20秒ぐらいから。第2走のインは、2時間6分10秒ぐらいからだ。

実は第4ゲートを抜ける際も抜けたあとも、ゴールゲートをくぐる瞬間ですら、インでもアウトでもよく、筆者はてっきり第4ゲートのあとはインはイン側、アウトはアウト側と本来のラインをたどる必要があるのかと思っていた。しかし、実はそうではなく、ボーナスステージの難所を間違えさえしなければいいので、転倒せずにゴールゲートをくぐれば、どちらのラインだろうと、さらにいえばラインとラインの間であってもいいというわけだ。

画像14(左):じぇっとあーる。走行体の速度が高い上に、とにかくコーナーではインを走り、最速タイムを叩き出した。 画像15(右):Joker艮。こちらも最速タイムを狙っていたが、ライン取りがまだ改善の余地があったようだ

ちなみに、レーンチェンジがすごいすごいとここまで賞賛してきたが、実は大きなデメリットもある。アウト側のスタートラインはイン側の走行体よりも前なので(ゴールまでの距離が長いため)、イン側の走行体が同じ速度以下であればインに移っても追いつかれる心配はないわけだが、万が一、自分たちよりも相手チームの走行体が速かった場合、進路をふさぐことになり、追突され、進路妨害(=失格)となる危険性があるのだ。

もちろん、事前に相手チームと相談して、なんてのは競技である以上できないわけで、唯一確認するとしたら、試走の時間帯に相手チームの速度を見極めるぐらい。もっとも、イン側を走って見せてくれるとは限らず(アウトが不得意だったり、レーンチェンジやショートカットなどでさらに調整したりしたい、ということなどがあるため)、確認できない場合もいくらでもある。

そのため、実際にレーンをチェンジしたはいいが、追突されてしまって失格となってしまったチームもあった(画像16)。また、運良くほぼ同じ速度だったため、レースならスリップストリーム(ドラフティング)の距離という感じで、ハラハラドキドキのかなり接近したタンデム走行を披露することになったチームもある(画像17)。

画像16(左):5番の猪名寺駅前徒歩1分はアウトを走った際、インにレーンチェンジしたが、イン側の6番「飛べ!ぼくらの夢ヒコーキ」(アヴァシス)の方が速く、追突され、進路妨害となってしまった。 画像17(右):スタート直後に3番の「チームc3is2013」(シー・キューブド・アイ・システムズ/東京)がインにレーンチェンジしたため、4番の「CICTube」(セントラル情報センター中部支店)が大接近。(1)でチームc3is2013がショートカットするまでスリップストリーム状態が続いた

ちなみに、イン側の走行体の方が早いとわかっていれば、レーンチェンジを遅らせて、先行させたあと、1コーナーのギリギリ手前辺りで行うというパターンも取れるわけだが、相手もショートカットしてくれれば問題ないのだが、普通に第2コーナーを回ってきていた場合、またそこで追いつかれて進路妨害をしてしまう可能性があり((2)の時点で内側のアウトのラインに移れば問題ないわけだが)、どこまでいってもバクチ要素のあるテクニックがレーンチェンジなのである。

2014年は、おそらく地区大会からショートカットやレーンチェンジをするチームが増えてくるのではないかと思われるので、今から波乱の予感という感じである。ただし、進路妨害のリスキーさを重視して、レーンチェンジは今後も絶対にしないというポリシーを採用しているチームもいくらでもいる(実際に今回のCS大会でも居た)と思うので、全チームがレーンチェンジするようなことはないはずだ。ただし、CS大会のような強豪がそろう中で優勝を狙うとなると、やはりバクチに打って出ないと叶わないところもあるわけで、そこら辺の熱い駆け引きもETロボコンのデベロッパー部門の魅力である。

それにしても、じぇっとあーるの走りはもはやモータースポーツのそれに迫る美しさがあり、大げさに聞こえるかも知れないが、将来、実車の全自動運転車両によるレースを垣間見たような気がした。ロボットベンチャーのZMPがトヨタ自動車のプリウスをベースにした全自動運転車両の「RoboCar」を販売しているが、それらを使って実証実験を兼ねたレースとか行われないものかと思う(単独ならまだしも、複数台が高速度で走るのはまだ難しいだろうけど)。

米国のDARPAによる「アーバン・チャレンジ」のように、街中をきちんと走れるかどうかという競技会の方が実用性という面では重要だろうが、レースのような極限のフィールドで、複数台の全自動車両がまったくぶつからずにその車両の最速タイム(バトルしたらタイムは悪くなるが)できちんと走れるようになったら、それはそれですごいことではないだろうか。レーシングスピードで複数台が接近しながらぶつからずに何周も走れるとしたら、それは一般道での接触事故の回避にも間違いなく活かせるはずだ(レーンキープアシスト技術など、すでに一部の技術はかなり実用化されているが)。

あとは、信号の色や標識などの認識、横断歩道と歩行者などの認識など、街中を模したフィールドでないと試せないものもいろいろあるが、レースはレースで非常に全自動運転技術を磨くのにいいテストフィールドになると思うので、将来はそういうカテゴリができてくることを期待したい。

ともかく、じぇっとあーるのライン取りはとても美しく、そんな全自動運転車両によるレースを想像してしまうぐらいだった。今回、新設されたアーキテクトの方が大好評だったのでそちらに目が行きがちだが、個人的には、それらと対抗しうるほどのインパクトを受けたのが、競技部門の上位チームが見せた縦横無尽のライン取りだったと伝えておこう。