ノウハウ共有から生み出される"スーパーテンプレート"

こうして集約されたノウハウはテンプレート化され、各種のプロジェクトにすぐに適用できるようになっている。このテンプレートは、米澤氏が「"スーパーテンプレート"や"ウルトラテンプレート"と言ってもよい(笑)」と強調するほど完成度の高いものになっている。

テンプレートは目的に応じてさまざまなものが提供されており、最近では、「IFRS(国際財務報告基準)」対応、「環境コンプライアンス」対応、「グローバル・ロールアウト」対応などがポートフォリオに加えられている。

「IFRS対応に関しては、SAPから『IFRSといえばアクセンチュア』という評価をもらうほど信頼性の高いもの。また、環境コンプライアンス対応では、今年2月のSAPパートナーデーで最優秀賞をもらった。さらに、グローバル・ロールアウト対応に関しては、各国のアクセンチュアの知見を結集して作られており、現地の人間でなければわからない商習慣や法対応も盛り込まれている。いざとなったら各国のコンサルタントにサポートを任せることもできるというのも大きな特徴」(米澤氏)

いずれも、SAPのアドオンにプリコンフィグも含めるかたちで提供され、それを運用するためのプロセスも定義されている。対応の必要性は感じているものの、法律等が把握できておらず、どのように対応してよいかわからないという企業も、すぐに適用できるかたちになっている。

精緻に定義された独自方法論

もう1つ、膨大なノウハウから生まれた同社の大きな資産が方法論である。

過去に「Method-1」という有名な方法論を有していた同社。現在は「Accenture Delivery Method」へと名称を変え、プロセスの定義にとどまらず、作成するドキュメントのサンプル、考慮点に関するガイドライン、見積もりツールなども提供している。

各国のフィードバックを反映するかたちで今も随時アップデートされているという同方法論。その内容は大変精緻なものになっているという。

「例えば、ERP導入用の見積もりツールには300~400にも及ぶ子細なチェック項目が定義されている。顧客に見積もり結果を提出すると、ときには『根拠を出してくれ』という要望をいただくこともあるが、厳密に定義されたそれぞれの項目を説明していくと、大抵は『わかった、参った』と言ってもらえる(笑)」(米澤氏)

ちなみに、Accenture Delivery Methodは全世界で同じものが使われている。したがって、「どこの国のコンサルタントでも、徹底的にこの方法論のトレーニングを積んでいるため、国が違うコンサルタント同士でも、同じ言葉で会話することができる」(米澤氏)と言い、抽象的な事象を扱うために定義があいまいな言葉が多いコンサルタントの世界においても、アクセンチュアでは各国のコンサルタントが誤解のない正確な議論ができるようだ。

SAP製品はよい"お手本"、若手社員の伸びも早い

以上のようにさまざまな資産を持つアクセンチュアだが、「やはり一番大事なのは人材」(米澤氏)という。そして、その人材育成という点で、米澤氏は「SAPソリューションを担当するうちの部署は恵まれた環境にあるはず」と説明する。

冒頭で説明したとおり、コンサルタントには業務の本質を見抜く力が求められる。その部分を各種の方法論なナレッジ共有システムによってサポートしている同社だが、それでも「標準的なビジネスプロセスを学ぶお手本がないと、入社3、4年のメンバーがきちんとした要件定義を進めることは難しい」(米澤氏)というのが通常だ。

しかし、SAPソリューションを担当するチームでは、必然的にSAP製品を学ぶことになり、同時に標準的なビジネスプロセスとはどういうものかを知ることができる。そのため、「各社の要件を分析する際にも、(標準的なビジネスプロセスと比べて)過不足するものがあればすぐに気づき、それが本当に必要なものなのか、なくても問題ないものなのかという点の考察や議論に移ることができる」(米澤氏)という。

「コンサルタントのスキルというと、コミュニケーションスキルや論理的思考というのが注目されがちだが、それはコンサルタントとして大前提のもので、持っていて当たり前のもの。それよりも重要なのは、相手の言葉の本当の意味を理解し、最適なソリューションを見つけ出すこと。そのためには、やはりビジネスプロセスの標準を理解しておく必要がある。うちの部署では、そのビジネスプロセスをSAPという優れた"お手本"を使って効率的に学ぶことができる。本人たちはどう考えているかわからないが、うちに配属された新入社員は本当にラッキーだと思っている」(米澤氏)

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以上、今回は、アクセンチュアのSAP部隊についてレポートした。同社の活動を通じて、コンサルタントとして活躍するためにはどのようなスキルが必要なのか、おわかりいただけたと思う。

ちなみに、本文では触れられなかったが、米澤氏が一流コンサルタントに共通するものとして挙げたのは「向上心/向学心」。同社のナレッジ管理システムからさまざまなことを学びとり、「これを使ってみたい」などと相談してくる人が将来的に優れた成果を残しているという。

こうした姿勢を学びとり、ぜひ一流のコンサルタントを目指してほしい。