Mozilla Messaging、コミュニケーションをユーザ中心に戻すRaindrop

Mozillaは2年ほど前、Mozilla Foundationの完全子会社となるMozilla Messagingの設立に取りかかった。これにはThunderbirdの開発を取りまとめる組織を別に用意し、Firefoxの開発への注力と、Thunderbird開発を切り分ける目的がある。Mozilla Messagingは現在は15名ほどの組織で、カナダ、米国、英国、シンガポール、オランダ、オーストラリアなど世界中にメンバーが存在する。抱えているコアデベロッパは7、8名ほどだ。

Mozilla Messagingには大きく分けて大きいチームと小さいチームの2つのチームがある。大きいチームは設立の目的そのものであるThunderbirdの開発を牽引するチームだ。もうひとつの小さい方のチームはメッセージングそのものの可能性を調査するチーム。このチームの取り組みは先日、Mozilla Labs名義のもとで「Raindrop」として発表された。

RaindropはメッセージングサービスをユーザセントリックなUIのもとに統合することを目指すプロジェクト。具体的にはメール、Twitter、IM、Facebook、YouTube、Flickr、ブログなどの情報を収集するサーバと、収集したデータにアクセスするためにJavaScriptで開発されたユーザインタフェースから構築されるメッセージングソリューションだ。バックエンドにはCouchDBが使われている。現在のところRaindropを試すには、自分の環境に情報を収集するとともにブラウザにUIを提供するための小さなWebサーバをインストールする必要があるが、将来的にはMozillaのサーバにブラウザからアクセスすれば利用できるというサービスとしての提供が予定されている。

Google Waveとの違い、開発も参加もすべてがオープン
- キーワードは拡張性

Webで人気の高いサービスを統合して新しいユーザエクスペリエンスを提供しようという取り組みはほかにもいくつかある。もっとも注目度の高いプロジェクトはGoogleの取り組んでいるWaveだろう。MozillaのRaindropもこれに近いイメージがもたれている。双方ともに現在開発段階にあるため、今後様変わりする可能性があるが、現段階でもすでにこの2つのプロジェクトには大きな違いがある。

Raindropはオープンソースソフトウェアとして開発され、開発のスタイルもオープンだ。プロジェクト公開当初から開発者のみならず、デザイナも取り込んでいるところがさらにこれまでのMozillaのプロジェクトと異なり興味深い。Raindropのデザインは、公開直後から参加しているデザイナたちの意見によって改善され続けている。オープンデザインというわけだ。

一方Google Waveの開発はGoogleの従業員によって手がけられ、参加できるユーザは今のところ限定されている。誰でも開発に参加でき、試用もできるMozilla Raindropと、企業手動で進められているプロジェクトGoogle Waveという違いだ。

またRaindropはFirefoxやThunderbirdのように、拡張性を持たせることにも主眼が置かれている。アドオンで機能を拡張できるように、Raindropの機能を拡張できるようにするという。Webサービスには地域さがある。特に日本のWebサービスは欧米のサービスとはだいぶ異なる特性がある。拡張性の提供は、日本に特化したサービスへの対応を実現できるようにするという点でも興味深い。

iPhoneにはRaindrop
- Thunderbirdはメールを強化、Raindropはコミュニケーションを楽しむ

Mozillaはモバイルデバイス向けにFennecを開発しているが、Appleの方針からiPhone向けにはFennecをリリースできないでいる。しかしMozilla CEO、John Lilly氏は先月、向こう数週間の間にiPhone App Storeにひとつのアプリケーションをリリースするという含みのある情報が公開されていた。ThunderbirdがiPhone向けにリリースされるとは考えにくいが、話題がてら来日していたDavid Aschers氏にiPhone向けにThunderbirdを提供しないのかと尋ねてみた。

David Aschers氏は苦笑しながら、それはないと説明した。iPhone向けにメーラを提供するとなると、完全に新しい製品を開発することになるだろうということ、それにAppleの規制はかなりきついから、メーラを開発してiPhone向けに提供することは現実問題としては難しいだろいう、ということだ。

しかし、氏はこう続ける。「iPhoneに対応するならRaindropの方が良さそうだ」 - RaindropはThunderbirdを置き換えるものではないという。ThunderbirdとRaindropは相互互恵関係を築くことになるという。たとえばThunderbirdでの国際化の取り組みはそのままRaindropに活用できるし、RaindropはThunderbirdを提供できないプラットフォームに対してもユーザエクスペリエンスを提供できる。

Thunderbirdはあくまでもメールクライアントだ。メーラとして要求される機能を今後も追求していく。それ以外の日々登場している新しいメッセージングサービス、これらをもっと便利な体験にするための取り組みがRaindropとなる。