昨年から続く景気後退の影響から、2008年度の企業決算は軒並み赤字、企業のIT投資は縮小傾向にある。かといって、"守り"の経営に徹していては、いつまでたっても現状を打破することは厳しいのではないだろうか。実際、この不況の中でも、新規プロジェクトを立ち上げている企業もあると聞く。今回、企業がIT投資の最適化を図って企業力を高めるにはどうすべきかについて、住商情報システムでグローバルソリューション事業部門 ERPソリューション事業部ビジネスソリューション部部長を務める城野尚子氏に話を聞いた。

1993年から積み上げてきたSAP導入のノウハウ

ハードウェア販売、ソフトウェア開発、SIなど、現在では幅広いソリューションを手がける住商情報システムだが、なかでも同社のSAPビジネスは長い歴史を持つ。

そもそも同社は、1993年に国内初となるSAP R/3の導入プロジェクトに参画した業界のパイオニアだ。R/3の国内第1号プロジェクトの翌年には、SAPとの間でサービス・パートナー契約を、1997年にはビジネス・ソリューション・プロバイダー契約をそれぞれ締結。1990年後半には、国内企業の数多くのERPビックバン導入を支援した。

また、2000年以降は、業種業界に特化したテンプレートの提供を開始し、大企業向けソリューションで培った経験やノウハウを中堅企業向けに展開。現在では、導入プロジェクトのサポート実績では約160社、アドオンソリューションの導入実績では約90社を数えるなど、SAP導入における国内屈指のパートナー企業となっている。

同社でグローバルソリューション事業部門 ERPソリューション事業部 ビジネスソリューション部長を務める城野尚子氏によると、そんな同社の特徴は大きく3つあるという。

1つ目は、各業界における長年の実績、業務ノウハウの蓄積。これまで住友商事グループに対し、グローバルにITサービスを展開してきた経験から、商社・卸といった流通・物流のノウハウも持っている。また、2000年以降は自動車、自動車部品、建設業にそれぞれ特化したテンプレートを開発し、自動車・自動車部品には特に強みがあるという。

2つ目は、そうした業種業界にカスタマイズしたテンプレート製品やアドオン製品の完成度の高さだ。具体的には、自動車業界向けのテンプレート製品「Auto Business Suite」、流通業・製造業向けのテンプレート製品「Trade-Kit」、手形管理のアドオン製品「手形管理サポートシステム+」などが代表的だ。

そして、3つ目は、海外拠点におけるサポート体制の充実。国内ベンダーながら、ニューヨーク、ダラス、ロンドン、大連、上海、シンガポール等の海外拠点を有し、海外進出企業を支援する体制を敷く。

IT投資で不況を抜け出すには

「売上が大幅に減少しキャッシュがなくなってきている。そうしたなか、IT投資に予算を振り向けるべきか」

城野氏は、昨年の金融危機以降、このようなシビアな話を企業担当者から聞くことが多くなったと語る。

ERPの導入は、プロジェクト期間が比較的長く、投資金額も数億円規模に達するケースが少なくない。また、業務プロセスの標準化と徹底には、経営陣や業務部門からの協力も不可欠だ。企業を取り巻く環境が悪化するなか、ERPプロジェクトに全社的に取り組むことは困難になってきているとも言える。

実際、城野氏にとっても、近年の経済状況の変化はこれまでにないほど大きなものだという。しかしながら、キャッシュアウトを抑えるためとはいえ、すべての投資にストップをかけることは、企業の継続的な成長に与える影響を考えると難しいことであり、各企業は何に投資を振り向けるべきかを非常にシビアな目で見極めている。

「不況だからこそ、企業の危機感も高まり、改革の必要性も高まってくる。そうした中、IT投資でその改革が後押しされるのか、その改革が何をもたらし、どう変わっていくのか、を描いた上で、自社の戦略に最も効果的なものは何かを見極め、本当に実現可能なのかを検討する。また、IT投資を行うのならば、どのタイミングでプロジェクトに着手するかを見定める。企業が不況を乗り切るうえで、この2点は重要なポイントだと思う」