ここまでの紹介内容は、どちらかといえば既存技術をいかに活用するかのケーススタディ的なものだったが、Lynch氏の話の後半は新分野への挑戦がテーマになっているといえる。同氏がまず紹介したのは「Adobe Cocomo」というサービスで、開発者向けのベータリリースが同日より開始されたことをアナウンスした。CocomoはFlash Playerとユーザーアプリケーションの間に介在し、ソーシャルサービス実現のための各種機能セットを提供する。例えば壇上で示された例では、遠隔地のユーザーとFlash上の1つのコンテンツを同時に操作/共有する様子が見られるなど、リアルタイムでコラボレーションを行うための機能が提供される仕組みであることがうかがえた。

以前より準備の進められていたオンラインコミュニティ「Adobe Cocomo」の開発者ベータの提供が同日より開始された。コンテンツ共有などの機能をアプリケーションで利用できるツールキットの一種で、壇上のデモでは遠隔地のユーザーと1つのコンテンツを2人で同時に操作する様子が示された。画面を見ると2つのカーソルが出現していることがわかる

Cocomoの仕組み。Flash Player / Flexとユーザーアプリケーションの間に介在し、リアルタイムコラボレーションを可能にする各種機能レイヤを提供する

また今回新登場となる「Adobe Wave」はAIRベースのアプリケーションで、デスクトップに常駐することで各種SNSなどのサービスの最新情報を逐次ユーザーに通知する仕組みだ。Waveでは専用APIが用意されており、各サイトが当該APIに対応する形で情報を配信することで、Waveが最新情報を最適な形で取得できるようになっている。これらは、AdobeがSNSのような仕組みやサービスとどのように向き合っていくのかのサンプルといえる。

AIR活用の最新事例「Adobe Wave」。いわゆるメール着信やオークションの進行状況をウォッチするような「お知らせツール」の一種で、AIRアプリケーションとしてデスクトップ上に常駐し、Twitterや各種SNSサービスなどの最新更新情報を逐次レポートするものだ

Adobeにとってのもう1つの挑戦はPC以外のデバイスへの進出だ。冒頭でエコシステム拡大の話題が出たが、デジタルTVなどの家電機器、携帯電話などはその筆頭候補だ。特に携帯電話の普及台数はPCのそれを大きく上回っており、今後のローエンド端末の高機能化を考えれば潜在的に大きな需要が見込める。Lynch氏によれば、2009年にはFlashを組み込んだ携帯の累計出荷台数が10億台に到達する見込みで、予想より早いペースでの拡大が進んでいるという。

電子機器全体のコンテンツ再生環境という点でみれば、PCが全体に占める割合というのは数割にも満たない。Flashが次に目指すステップはPC以外の市場の積極開拓ということになる。特に台数の大半を占める携帯電話市場の攻略が重要だ

Adobeでは以前までFlash技術を搭載した携帯電話の出荷台数を2010年に10億台達成と見積もっていたが、いまのペースでいけば2009年にもその目標を達成できそうだという

壇上のデモでは、NokiaのSymbian端末やWindows Mobileの端末でFlash 10のフル機能バージョンが動作する様子が紹介された。まだベータリリースの段階ではあるものの、各種コンテンツやYouTubeなどの動画プレイヤーが組み込まれたWebページがPCと同様に動作しており、携帯デバイスでもWebアクセスに必要十分な環境が整備されつつある様子がうかがえる。また先月発売されたばかりのT-Mobile G1もデモストレーションに利用され、Android端末でFlashが動作する様子が紹介された。Apple iPhoneの紹介も行われたが、こちらは「あくまで開発中」ということでポーズのみのアピールという形だ。

NokiaのSymbian、Windows Mobile端末でFlashベースのコンテンツや音楽プレイヤー、YouTubeを再生したところ。PCと同感覚で利用できることがわかる

Flash対応携帯の話題でKevin Lynch氏がiPhoneを取り出したところ、会場にはどよめきが……だがこれはフェイントで、あくまで「開発は進行中」というアナウンスだけ

先月リリースされたばかりのAndroid携帯「T-Mobile G1」でもFlashが動作可能に

GoogleでAndroid開発の責任者Andy Rubin氏もステージに登場

また、現状での携帯電話からのFlash利用はWebブラウザに紐付けされた形での起動が一般的だが、それを携帯から直に実行できる形にすることで、通常のJavaアプリケーションなどと同様のネイティブアプリケーションのように活用することができる。壇上のデモではWindows Mobile端末からアプリケーションがパッケージ化されたアドレスをクリックすることで、直接ダウンロードから保存、実行が可能な様子が紹介されている。

Flashの携帯電話における次のステップとしては、Webブラウザ経由だけでなく、携帯上から直接ユーザーアプリとしてFlashコンテンツを呼び出せる仕組みを用意すること。サイトからアプリケーションをダウンロードして保存しておくことで、適時メインメニューからアプリケーションを呼び出せる

Windows Mobile端末上でダウンロード実験。SMSメッセージ内のURLをクリックすると、当該アドレスで示されたアプリケーションのダウンロードを開始、自動的に実行登録する。通常のアプリケーションを利用するのと同じ感覚だ

Lynch氏が手にするのはMID端末。無線LANでネット接続されており、近隣デバイスと通信が可能になっている。MID端末でフォトアルバムのアプリケーションを起動し、タッチ操作で写真を画面外に飛ばすと……ネットに接続された別のマシンに写真が転送される。AIRを活用したコンセプトデモだ

さらにもう1人がMID端末を持ってこのネットワークに参加すると……対戦ゲームなども可能になる