現代社会ならではの新しい遺品『デジタル遺品』。パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器に保存されたデータやインターネットサービスのアカウントなどを指す言葉で、遺族が対処に苦慮することが増えていると言います。
買取業の「買いクル」を運営する株式会社RC CSOの島津大輔氏に、遺品買取現場での実態や、遺族がスムーズに手続きを進めるために必要な対策について聞きました。
――まずは『買いクル』のサービス内容について教えてください。
「買いクル」は2018年6月にフランチャイズ展開をスタートし、現在は全国130カ所の拠点からお客様一人ひとりのご自宅にお伺いする、出張買取を専門にした買取フランチャイズサービスです。
"なんでも査定"をモットーに、ご家庭で発生するあらゆる不用品や家財のジャンルについて査定が可能です。買い取った品物は日本国内だけでなく、海外40カ国以上への輸出販路も持っています。他社が買取できない品物にも値段を付けて買い取るサービスを全国展開しています。
――遺品整理のお手伝いも多いと伺いました。『デジタル遺品』に関するご相談やお困りごとは増えていますか?
当社チェーンの遺品整理案件自体も、地域によって全案件のうち10%を占めるなど、件数が増えているのですが、デジタル遺品については特に、スマートフォンやタブレットのデータ消去ができずにお困りのご家族が多い印象です。
12~13年前からスマートフォンが普及した結果、この先もデジタル遺品の問題は確実に増加すると思います。
――デジタル遺品で最も多いアイテムやケースは?
最も多いのはスマートフォンやPCのロック解除依頼で、故人のパスワード解析依頼の約70%がスマホ関連です。
また、SNSやメール、クラウドストレージ(Facebook、Instagram、Gmail、iCloudなど)、オンライン決済・金融系アカウント(PayPay、PayPal、ネット銀行、仮想通貨ウォレットなど)に関してもよくご相談いただきます。
――パスワードが解除できないと買取自体も難しいのでしょうか?
スマートフォンやPCといった"デジタル遺品"は、パスワードが不明なことで「もう何もできない」と思われがちですが、たとえ高価買取できなくても、ご遺族の心に残る形での対応が可能です。
例えばこんなケースがありました。2024年、都内にお住まいの60代女性からご主人の遺品整理のご相談を受けました。iPhoneの買取査定を行ったのですが、ご家族がパスワードを把握しておらず、iCloudのアクティベーションロックがかかったまま。専門業者に見積もりを取るとデータ消去費用が40~50万円と高額で断念されました。
通常、データが消せないiPhoneは高価買取が難しいのですが、買いクルでは「粉砕処理」による物理破壊で完全初期化し、ご希望があれば「データ消去証明書」も発行しています。今回はご家族の了承を得て、ジャンク品として低額買取しました。
画面ロックがかかる前に表示されていた写真の一部も、外部の業者対応にはなりましたが、抜粋してフォトブックに編集・贈呈することに。
奥様からは「まるで、形見として夫が残してくれたみたいで…。思い出が“消えた”んじゃなく、“残った”って感じました。」と喜んでいただけました。
――デジタル遺品で残された人が困らないために、生前にできる対策は?
デジタル遺品のために、生前にできる対策は以下の7つです。
Appleユーザー向け「レガシー・コンタクト」設定
- 対象データ:iCloudの写真・メモ・メール・カレンダーなど
- 設定方法:設定 → 自分の名前 → パスワードとセキュリティ →「レガシー・コンタクト」→家族や信頼できる人を追加 → アクセスキー(QRコード)を送信または印刷して共有
- 必要書類:アクセスキー+死亡証明書
Facebookの追悼アカウント設定
できること:アカウントを「追悼」に変更/写真の保存、固定投稿の追加、友達申請の管理
設定方法:
Facebook → 設定とプライバシー → 設定 →「追悼アカウント設定」
家族や親しい人を「遺産管理人」に指定し、必要な操作の許可を選択
Google「非アクティブアカウントマネージャー」活用
- 用途:一定期間ログインがなければ指定した人にデータを渡すorアカウント削除
- 設定方法:Google アカウント → データとプライバシー →「非アクティブ アカウント マネージャー」
- 渡せるデータ:Gmail、Googleフォト、ドライブなど
パスワード&アカウント情報の一覧化
- 対象:スマホのロックコード、メール、サブスク、銀行、QR決済(PayPay・楽天Payなど)
- 記録方法:紙+封筒で通帳や保険書類と一緒に保管、またはパスワード管理アプリ(例:1Password、KeePass)
遺言で明示
「何を残し、何を削除してほしいか」を明文化
「家族に見てほしい写真」「削除してほしいメモ」「SNSは削除」など、希望を残しておくことで、家族の迷いやトラブルを減らせます
バックアップと仕分け
- 大切な写真や動画はUSBや外付けHDDにコピー
- 「見せたいもの」「自分だけのもの」「削除したいもの」で分けておく
- クラウド(Googleドライブ、iCloud)に保存する場合はアクセス権限も明確に
信頼できる人との話し合い・役割分担
- 遺品の中でもスマホ・PC・クラウドの扱いは家族で差が出るため、信頼できる相手に「アクセスしていい範囲」を生前に伝えておくと安心
- 弁護士や司法書士に「死後事務委任契約」を結ぶのも有効(主に資産系を含む場合)
スマホはクラウドにも遺品がある時代、いざという時、家族が困らないように、生前にパスワードや写真を整理する方は増えています。上記のようにAppleやGoogleで、信頼できる方を登録しておけるなど、便利な機能もあります。5分もあれば設定できますので、ぜひ取り組んでみてほしいですね。