年金改革関連法案が5月20日の衆議院本会議で審議入りしました。同法案では、厚生年金の加入拡大を柱に、さまざまな見直しが図られており、その一つに厚生年金保険料の上限引き上げがあります。
現在、どんなに収入が多くても厚生年金保険料は月5.9万円以上取られることはありませんが、この上限が段階的に引き上げられます。どれくらいの年収の人が、どれくらい負担が増えるのか、将来もらえる年金はいくら増えるのか、今回の見直しによる影響をわかりやすく解説します。
厚生年金保険料の仕組み
厚生年金の保険料は標準報酬月額に保険料率をかけて算出します。標準報酬月額とは、保険料などの計算をしやすくするために、月収を一定の幅で分けて等級で表したものです。厚生年金は32等級に分けられ、1等級(下限)は8万8000円、32等級(上限)は65万円となっています。
保険料率は18.3%で固定されており、労使折半で負担します。32等級の65万円であれば、
65万円×18.3%÷2=59,475円
5万9,475円となります。
なお、幅のある月収を等級にまとめているため、32等級は63万5,000円~66万5,000円が当てはまります。32等級以上はないので、実際は63万5,000円以上の人は一律5万9,475円になります。
厚生年金保険料の上限を段階的に引き上げ
今回の厚生年金保険料の上限引き上げは、将来の年金財源を確保するために、収入の多い厚生年金の加入者に、より多くの保険料を負担してもらうことが狙いです。
引き上げは段階的に行われ、まずは2027年9月に標準報酬月額の上限を68万円に引き上げます。続いて2028年9月に71万円、2029年9月に75万円まで引き上げます。
2027年9月からの引き上げの対象となるのは、月収66.5万円以上の人なので、年収にすると798万円になります。ただし、賞与は含んでいないので、賞与込みの一般的な年収にすると1,000万円に相当するのではないでしょうか。
厚生年金保険料の上限は、現在の5万9,475円から最終的には6万8,625円に引き上がります。月9,150円のアップです。
これについては、厚生労働省が実質的な負担の増額を試算しています。それによると、社会保険料控除(所得税23%・住民税10%と仮定)を考慮した実質的な増額は月約6,100円になります。
年金額はどのくらい上がる?
厚生年金保険料が上がれば、将来受け取る年金額も増えます。厚生労働省の試算では、最終段階の標準報酬月額75万円以上で、1年間引き上げられた保険料を支払うと、月額約510円年金が増え、その増えた年金を終身受け取れます。
10年払い続けると、月額5,100円増えます。保険料負担で社会保険料控除を考慮したように、年金課税を考慮すると、月額約4,300円の増額となります。
見直しの対象となる人はどのくらいいる?
今回の改正で保険料が引き上がる人はどのくらいいるのでしょうか。
標準報酬月額別の被保険者数の分布をみてみると、上限である65万円以上の人は278万人いて、割合にすると6.5%になります。男性に限ってみてみると243万人で割合は9.6%になります。女性は2.0%です。
男性は上限等級(65万円)が最頻値になります。健康保険の分布と比べてもいびつであることがわかります。なお、今回の引き上げの対象となる人は厚生年金加入者の上位約5%になります。
上限見直しによる影響
上限を超える収入の人は、実際の賃金に占める保険料の割合が他の人よりも低いことになり、保険料の公平な負担と、現役期の収入に応じた給付を行う観点から、上限の見直しが検討されました。
この見直しによって、保険料収入が増え、厚生年金制度の財政が改善することから、年金額が低い人も含めた厚生年金全体の給付水準も底上げされます。厚生労働省によると、今回の見直しによる給付水準への影響はプラス0.2%になるということです。
まとめ
今回の改正内容を以下に簡潔にまとめました。
- 2027年9月から月収66万5,000円以上の人の厚生年金保険料が上がる
- 引き上げは3年かけて段階的に実施
- 最終的に厚生年金保険料の上限額が今より月約9,000円上がる
- 月約9,000円増えた保険料を10年払い続けると年金が月約5,000円増える
- 2027年9月からの引き上げの対象となるのは厚生年金加入者の上位5%
- 実現すると厚生年金の給付水準が0.2%上がる