米Intelは16日(米国時間)、米国で開催中の技術カンファレンス「Intel Developer Forum 2016 San Francisco」において、ソフトバンクによる買収でも話題となった英ARMとの提携を発表した。これにより、Intelの10nmプロセスでARMベースのSoCを製造する。Intelは4月にモバイル向けプロセッサ「Atom」の製造終了が報じられていたが、再びモバイル/組み込み向けプロセッサの製造で同社の設備を利用できるようになる形だ。
Apple Aシリーズの製造も視野に?
今回の提携では、IntelはARMの「ARM Artisan Physical IP」および「POP IP」(Proseccor Optimization Package)技術へのアクセスが可能になる。前者はスタンダードセルやメモリジェネレーターといったフィジカルIP(レイアウトレベルでの回路ライブラリ)、後者はARMプロセッサーコアを特定のプロセス技術(この場合は10nm FinFET)に最適化して実装するための情報群で、つまりほぼあらゆるARMの最新IP(知的財産)にアクセスできるようになったと考えればいい。
これはIntelが持つほとんどのメジャーなファウンドリ(製造工場)に適用されるため、10nm FinFETプロセスによる製造は最初からフル稼動できることになる。
世界最高クラスの製造技術を持つIntelがARMプロセッサの製造に参入することで、これまでのARMアーキテクチャの業界シェアが一気に書き換えられる可能性もある。例えばハイエンドを中心に人気のあった米QualcommのSnapdragonなどは戦々恐々だろう。ただし、Intelとしては自社ブランドのARMプロセッサを販売するよりも、製造受託に専念するとみられており、この場合の最大のターゲットはおそらくAppleの「Apple A」シリーズになると見られる。
Apple Aシリーズは十分大量の製造受託が見込めるため、Intel的にはビジネスとしても旨みがある。一方AppleとしてはA9でSamsungとTSMCのマルチファウンドリ構成をとった結果、2種類の製造プロセスを併用することになり、コスト増を招いたという反省がある。
Intelならば十分な製造キャパを持っているため、同じ轍は踏まずに済むうえ、直接の競合でもあるSamsungに製造を委託しなくても済むというビジネス上の問題も解決できる。AppleとIntelはMac向けのプロセッサや機能開発でも深い関係にあり、それをスマートフォンやタブレットにも展開したいと考えるのは自然だからだ。
なお、IntelがARMプロセッサを製造するのはこれが初めてではない。同社は1997年に米DECから「StrongARM」アーキテクチャを購入し、2000年には自身の設計による「XScale」アーキテクチャのARMプロセッサを製造・販売していた時期がある(同プロセッサはAppleのNewtonやWindows CE系のPDAやスマートフォンに搭載された)。ただし2006年にはXScaleは米Marvell社に売却されており、以来10年間、ARMプロセッサの製造は行ってこなかった。10年ぶりの製造再開がどのような結果を産むかが注目される。