順天堂大学は、Appleの医学・医療研究および健康リサーチ向けに設計したオープンソース・ソフトウエアフレームワーク「ResearchKit」を利用して、「診察室以外でも身体の状態を診る」をコンセプトにしたアプリを3種リリース。同時に臨床研究を開始した。

iPARKSTUDY

ぜんそくログ

ロコモニター

今回リリースされるアプリはロコモーティブシンドローム(詳細は後述)、パーキンソン病、気管支喘息の調査にフォーカスしたもの。同大学ではiPhoneの高い普及率に着目し、Apple Watchなどのウェアラブル端末の可能性を追求すべく、調査および、研究に着手したとコメントしている。iPhoneのタイムスタンプ機能、GPS、加速度計、ジャイロスコープ、気圧計などを利用して収集された運動・環境データが加わることで、より多面的な病態把握が可能になると思われる。また、これらの臨床研究の進展により、一層、質の高い診断・治療の貢献が期待される。

これまで、限られた診察時間の間では、患者が症状の強さや変動を医師に伝えるのは困難な面があり、適切な医療を受けられないという場合があったが、そういった状況を打開することが研究の背景にはあるという。また、その病気が専門領域でない医師にとっても、問診から得られる断片的な情報で、正確な診断を導くことが難しいという局面があったが、これについても改善したいという思いがあったとのことだ。また、普段からの症状の変動をiPhoneで情報を集められれば、病気の進行の抑制、回復を早めることもできるのではといった臨床の現場での新たな展開も視野に入れられている。診察室以外で患者の日常を記録し、臨床研究に反映させることで、将来の治療の質と患者の生活の質(QOL)の向上も考えられる。

パーキンソン病患者向けの「iPARKSTUDY」

パーキンソン病患者向けの「iPARKSTUDY」は、患者の運動機能と睡眠を調査することを目的にしてリリースされた。パーキンソン病は運動障害が目立つ疾患なのだが、治療方針を決定するのには、日常生活の活動状況を正確に評価することが欠かせない。睡眠障害を合併するケースも多く、生活の質を下げる原因ともなるが、本アプリを使って、アンケート調査を行うことで、患者の日々の生活を把握できるかどうかを検討していく。パーキンソン病の病因は未だ、はっきりしないことが多く、また、根本的な治療法は確立されていないが、この研究により、患者の日常生活全般を評価する方法を確立できれば、治療方針の決定に役立つ可能性もある。

気管支喘息患者向けの「ぜんそくログ」

気管支喘息患者向けの「ぜんそくログ」は被験者にアンケートに答えてもらい、日本における喘息患者の実態調査を行うことで、治療の向上に貢献することを目的としている。喘息は気温や気圧の変動などさまざまな刺激が要因で咳などの症状があらわれ、その一日の変動も激しく正確な症状を医師に伝えることがこれまで難しかったが、本アプリにより、それが改善されるという展望が開けるだろう。気圧と症状の変化の関連はよく分かっていなかったが、研究が進めば、エビデンスが得られるようになるかもしれない。

ロコモの度合いを測る3つのテストを再現した「ロコモニター」

ロコモーティブシンドローム(以下、ロコモ)は、骨、関節、椎間板、筋肉、神経などの運動器障害により、移動機能が低下した状態を指す。シンドローム(症候群)なので、単一の病名を指すわけではない。同大学は、文科省と科学技術振興機構が推進する「革新的イノベーション創出プログラム」のサテライト拠点としてロコモ防止のプロジェクトに取り組んでいる。アプリ「ロコモニター」では、ロコモの度合いを測る3つのテストを再現。iPhoneの各種センサー、機能を利用することでこれまで介助者が必要だったテストを一人で受けることができる。日々の運動状況とロコモの度合いを本アプリで把握することが可能だ。

いずれのアプリもiPhoneから心拍数や歩数、運動量などのヘルスケアデータを収集し、データを解析行うのだが、個人が特定されるような情報は一切収集しない。例えば、集まったAというデータはAさんという人から取得しましたということだけで、匿名性が完全に保証されるようになっている。また、被験者は、自身の意志で研究への参加、途中の離脱ができるようになっているので、束縛されることもない。