天候の悪化やケガ、滑落など山のトラブルは数多くある。特に標高の高い富士登山で起こりうるトラブルとして、「高山病」のリスクがあげられるだろう。最近では「高度障害」と呼ぶ場合もあるが、これは高所で活動することで血中の酸素が低下し、身体に様々な変調を起こす症状のことである。
標高2,300~2,500mあたりから発症
高度障害は個人の酸素摂取力により個人差があるが、標高2,300~2,500mあたりから発症することが多い。低酸素状態でも効率よく酸素が取り込める能力があれば、高度障害にはなりにくい。
この酸素摂取力はなにも心肺機能だけによるものではなく、血中のヘモグロビン量にも関係してくる。ヘモグロビンは摂取した酸素を身体に満遍なく届けてくれるタンパク質だが、その量が低いと必然的に高所では呼吸が苦しくなる。富士山など高度障害になる可能性がある登山では、心身(血液も)ともに健康な状態で登ることが必要と言える。また、年齢や性別など関わらずなる可能性があるため、「自分は体力があるから」は参考にならない。
頭痛などを感じたら高度障害の可能性が
実際、高度障害になるとどうなるのか? 具体的には頭痛や吐き気、めまい、手足のむくみ、脈拍が速くなるなどの症状が現れる。軽度の場合、風邪や二日酔いような症状に感じてしまうかもしれないが、最悪の場合は死にいたることもある。これらの症状が出た場合は無理をせず休憩すること。少し休み、呼吸を深くすることで改善する場合もある。
また、携帯酸素を吸うなどの対症療法はあるが、それでも改善しない場合は、勇気をもって下山するのがベストだ。「登りたい」という気持ちも分かるが、根本的な治療は高度を下げることでしかない。ただし、せっかく楽しみにしている富士登山中にそうならないためにも、以下の5つに注意して予防に努めたい。
1)高度順応を行う
高度順応(高度順化ともいう)は、いわゆる低酸素状態に身体を慣らすこと。登り口がある5合目に着いてもすぐに登山を始めずに、準備や散策を行い30分~1時間ほど順応させるとよい。特に吉田口は土産屋などが多く退屈することなく順応できる(時間がつぶせる)。高度に対して不安がある場合は、余裕をもってそのあたりの時間のロスも含めて計画するといいだろう。
2)ゆっくり深く呼吸する
普段よりも呼吸に気を付けることが大切。たくさんの空気を取り入れるつもりで、大きく呼吸すること。疲労が蓄積してくるとどうしても浅い呼吸になりがちなので、腹式呼吸を取り入れてもいいだろう。
3)身体を締め付けないようにする
腹式呼吸をよりスムーズにするために、ズボンのベルトやバックパック(リュックサック)の腹部ベルトなどは、あまりきつく締め付けないようにしよう。これが原因で気分が悪くしまう場合もある。その点で、ジーンズのようなぴったりした衣類は登山に向かないと言えるだろう。
4)ゆっくり自分のペースで登る
高度障害になってしまう原因のひとつが、ハイペースで登ること。結果的に呼吸を乱してしまうことになる。筋力的にはハイペースで登ることができても、心肺および血液が高所向けの身体になっているかは判断がつきにくいので、ゆっくり自分のペースで登りたい。そのためには、ゆとりを持った登山スケジュールも必要になる。
5)水分をしっかりとる
脱水症状になると血液の粘土が高まり、たとえ酸素を運ぶ良質なヘモグロビンをもっていても、その活動が阻害される。それを予防するためにも、こまめな水分補給が必要だ。バックパックの取り出しやすいところにペットボトルなどを入れておき、休憩時間以外にも一口ずつ補給していくとよい。また事前の備えとして、鉄分が不足すると血中のヘモグロビンが減少し、吸った酸素をうまく体内に取り込めなくなってしまうため、できれば普段から鉄分を意識的に摂取しておこう。
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