決算会見に臨んだ孫正義社長

ソフトバンクは28日、2011年度第1四半期の決算を発表した。売上高は過去最高となる7,642億3,700万円、営業利益も最高益となる1,758億円で、純利益は前期比5倍を達成するなど好調で増収増益。同社の孫正義社長は、営業利益、純利益、データARPU(ユーザー一人当たりの平均収入)でKDDIを逆転し、好調な決算をアピールした。

KDDIを逆転した好調な決算

売上高の7642億3,700万円は前年同期比9%増で、3期連続で最高値を記録。営業利益も同12.3%増となり、6期連続の最高益を達成した。EBITDAは2,542億円で同12%増となり、こちらも8期連続の最高益となった。携帯2位のKDDIは売上高8,650億円、営業利益1,401億円であり、営業利益ではソフトバンクが上回っている。純利益は947億9,100万円は、中国のインターネット企業Renrenがニューヨーク証券取引所に上場するなどした持分変動利益139億円を除いても過去最高で、それをのぞいてもKDDIを逆転した。

連結業績はいずれも好調

売上高は3期連続最高で、特に携帯事業が好調

EBITDAも8期連続最高益

営業利益も6期連続最高益

株式の持分変動利益を除いても過去最高の純利益

純利益でもKDDIを逆転した

ボーダフォンジャパン買収にともなう多額の純有利子負債は、ピークの2.4兆円から1.1兆円まで削減した。これまでの借入金は金利が約5%だったが、これをリファイナンスによって借り換えしたことで、金利負担は約1.4%に下がって支払利息を600億円削減できるほか、携帯事業の株式や保有資産の担保が解消され、ソフトバンク本体でも携帯の収益を活用できるようになる。これによって「経常利益、純利益ともに、継続的に増大する」(孫正義社長)見込み。純有利子負債削減のペースは予定よりも速く、今年の3月期には予定通り1兆円以下に、14年度末までにはゼロにする計画だ。

純有利子負債を5年で1.3兆円削減

リファイナンスにより財務の自由度が向上する

これにより支払利息が大幅に減少する

コミットメント達成に向けて順調な返済をアピール

好調な決算を支える携帯電話事業では、売上高が同16.6%増の5,140億9,000万円、営業利益が同13.5%増の1,164億9,100万円で増収増益。端末販売台数は同38万8000台増加の255万台で、iPhoneの出荷が好調だったことに加え、Android端末の販売も拡大した。純増数はauの35万、NTTドコモの41万に対して73万増と「圧倒的1位」(同)で、MNP(携帯番号ポータビリティ制度)による転出入でも、携帯3社で唯一流入がプラスの19万増となり、他社の流出分をほぼ吸収した形だ。ただし、法人顧客の解約が増加したことで、解約率は同0.06ポイント増の1.08%だった。

携帯事業の営業利益は大幅に増加し続けている

純増数、MNP転入ともに他社を圧倒

「事実上の傘下」(同)に収めたPHSのウィルコムも順調に契約を伸ばし、同期は5年ぶりとなる純増数20万を突破し、これを合わせると全体の契約数は3,013万となり、3,000万契約を達成。2010年代中に4,000万契約突破を目標としている。

傘下のウィルコムも好調な契約数増

3,000万契約を突破

ARPUは全体で同80円減の4,210円で、音声ARPUは250円減の1,780円、データARPUは190円増の2,440円となった。データARPUは上昇を続けていたが、今回初めてKDDIの2,400円を超えた。孫社長は、音声ARPUではなくデータARPUを伸ばすことが「業界の競争に勝つ」ことにつながり、2010年度にはARPUに占めるデータの割合が58%に達したことで、「世界の中でも1位」と胸を張る。この結果、通信料だけの売上も3,475億円に達し、同13%増は「世界一の伸び率」(同)で、ほか2社がマイナスの中での高い伸び率を実現した。

特にデータARPUではKDDIを逆転した

2010年度はデータARPU比率が58%に達して世界一だという

データ収入が順調に伸びており、この増加率は世界最高とのこと

こうした好調の1つの要因がマーケティングの成功で、テレビCMについては孫社長自ら絵コンテもチェックするなど、積極的にかかわり、結果としてCM好感度ランキングの「企業別」「銘柄別」「作品別」の「3冠王」(同)を何度も獲得している。好感度・魅力度が高い企業では3カ月連続で好感度1位を獲得し、こうした人気も好調の要因だという。

CMと企業の好感度調査の結果

携帯以外の事業では、ブロードバンド・インフラ事業が売上高は同10.8%減の440億1,900万円、営業利益が同12.6%減の120億2,100万円。固定通信事業は、売上高が同1.9%増の874億9,200万円、営業利益が同93.8%増の129億1,300万円。インターネット・カルチャー事業は、売上高が同1.8%増の696億1,000万円、営業利益が同2.9%増の366億500万円だった。

iPhoneとiPadで4,000万契約を目指す

手広く展開するソフトバンクの事業に対して、「ソフトバンクはなんなのかという疑問があるかもしれない」と孫社長。2006年のボーダフォンジャパン買収時から孫社長は「携帯の、電話の会社をやるつもりはないとコメント」しており、「21世紀のライフスタイルカンパニー、総合的デジタル情報カンパニーを目指しており、総合通信会社になったと言わないでいただきたい」と話していた。

「狙っているのは携帯の音声の会社とか通信の会社ではない」と孫社長は繰り返し、「デジタル情報サービスカンパニー、最近の言葉で言うとモバイルインターネットカンパニーが本質的に思ってきたこと」だという。

当初の同社のビジネスであるソフトウェアの卸売りからZiff Davisの買収、ヤフー、固定通信、携帯事業などといった事業は「すべて布石で、オセロの4つの角を取りにいっていた」(同)。オセロの中心から攻めるのではなく、角をとってから「最後は全部ひっくり返す」(同)考えで進めてきたそうだ。

これまでの事業はあくまで布石だと孫社長

「世界のモバイルインターネットで1番をとる」(同)という目標に対しては、「iPhoneもiPadも重要な布石」であり、将来的には「スマートフォンが全盛期になる、スマートフォンでなければ携帯でないと言われる時代は必ずやってくると信じている」と孫社長は強調。スマホ事業では国内で「圧倒的に1位で完全にリードしている」(同)ことに加え、iPadのような「スマートパッドの時代が必ずやってくる」(同)とみて、今後も「圧倒的1位」(同)のiPadを強化していく考えだ。

スマートフォンがさらに拡大し、そのスマートフォンで1位のソフトバンクが優位との認識

女性比率が新規ユーザーで52%に達し、「女性比率が5割を超えると文化」(孫社長)になっていて、今後もさらに伸びるとみる。「幼稚園から小中学生も加えた」(同)学生の新規比率もiPhoneは7割を超えたそうだ

スマートパッドも普及期に入り、1位のiPadが有利という

孫社長は、今後アップルが開始するクラウドサービスの「iCloud」と新OSの「iOS5」の登場で、「iPhoneとiPadの両方持たないと意味がない時代がやってくる」と話、繰り返しiPhoneとiPadをアピール。両者を主力に4,000万契約まで持っていきたい考えだ。

この両社を持つ企業ユーザーも拡大しており、今後のクラウドサービスの展開でさらに伸びるとみている

2010年代には4,000万契約が目標

そのためにも、電波のつながりやすさをさらに目指す考えで、昨年は予定の設備投資額を倍増させ、4,000億円を投資。今後2年間で5,000億円ずつをつぎ込み、「3年間で1.5兆円近い設備投資をして、意地でもつなげてみせる」と意気込みを話す。同社の調査では、ユーザーの自宅の98%、自宅以外では96%強が圏内で、残る圏外のエリアを設備投資で埋めていきたい考え。

設備投資はこの2年で1兆円に達する予定

同社の基地局数は、今年3月末の時点で12万局まで拡大し、9月までに予定していた14万局への拡大は7月の時点で終了し、9月までにさらに増やしていく計画だ。

ただし、今後の1兆円の設備投資は、「(700/900MHzの)新しい周波数帯(の許認可)を受けた前提」(同)であるという。

定額制を見直す必要も

携帯事業者が悩むトラフィックの増大については、今後5年間でトラフィック量は40倍に達すると見ており、無線LAN経由でのオフロードに加え、1.5GHz帯の周波数帯域を使ったトラフィックの回避を目指す。ただ、iPhoneは現時点で1.5GHz帯に対応していないため、無線LANでのオフロードを狙う。

しかし、有限の周波数に対して、iPhoneなどのスマートフォン、iPadなどのタブレットが登場したことでトラフィック増大が急激になっており、この対策が急務となっている。「2%ぐらいのユーザーがネットワーク全体の4割ぐらいを占有している。5%だと、全体の過半数を占めている」と孫社長は指摘し、残る9割以上のユーザーは「迷惑する状況に陥っていて、完全フラット料金はむしろアンフェアという流れができている」と話す。

「国内ではソフトバンクがスマートフォン比率を圧倒的に高めた」(同)が、その結果「電波が届いているのにつながらない、速度が遅いという状況」に陥っており、設備投資に加え、「料金体系を含めて、全体のトラフィックマネジメントをしなければならない」という考えだ。

孫社長は、「定額制を見直す必要が、遅かれ早かれ出てくる」との見通しで、今後のトラフィックの伸びの予測から、「無制限のフラットレート(定額制)は非常に難しい」とコメントしている。

なお、一部で報じられた「電波利用料に対する増税」について孫社長は、よく分かっていないと前置きしつつ、「一番電波を使いまくっているのはテレビ局とラジオその他の事業者や電子タグで、ほとんど使っていないのに、一部のユーザーのために、非効率に割り振られている」と批判。「等しく各業界に(税金を)かけて欲しい」と主張。さらに、「(800MHz帯の)ゴールデン周波数帯をずっと持っているNTTドコモやauとイコールフッティング(競争条件の平等)になるなら、チャレンジャーにだけ不当な負荷がかかる」と強い不快感を示した。

再生可能エネルギー事業の影響は軽微

東日本大震災にともなう電力不足に端を発した再生可能エネルギー事業では、「心を痛めて気を配っている」(同)ことから、旗振り役として自然エネルギー協議会を設立、賛同自治体が35都道府県、政令指定都市は17都市が参加。「自然エネルギーが大きく広がっていくように呼び水として汗をかく」(同)ことが目的で、電力の供給源として再生可能エネルギーが一定の役割を果たせるようにしたい考えで、同社はメガソーラー、風力、地熱の発電のモデルケースを展開していく計画。

再生可能エネルギー事業は、本業に対する影響は軽微になる見込みで、「連結(業績)で言えば、1~2%程度の影響しかない」(同)ことから、従来の純有利子負債の削減などの財務コミットメントに変更はないという。

自然エネルギー協議会の設立やモデルケースの展開も