現在マイクロソフトは、アンドロイドタブレット向けにOfficeの移植を行っています。その「プレビュー版」が公開されています。公開されているのは、Excel、PowerPoint、Wordの3本で、KitKat以上のタブレット(7インチ以上の画面サイズ)に対応しています。

限定ベータテストのときには、インストール先がKitKat (Android 4.4)でないとダメだったのですが、公開ベータになってからは、その制限が緩んで、Lollipopでもインストール可能になりました。ですが、画面サイズ7インチ以上というタブレットの条件は緩んでおらず、6インチのスマートフォンでもインストールはできません。

今回は、この3本のうちエクセル(写真01)を中心に、アンドロイドに移植されたオフィスアプリを見てみようと思います。なんでエクセルなのかというと、筆者がエクセルしか使ってないからです。

写真01: Android版Excelのプレビュー。クイックアクセスツールバーが右にあるが、リボンや数式バーなど、基本的な画面構造は同じ

エクセルといえば、マウスを使ったセル操作の操作が大きなポイントです。初期のエクセルでは、マウスは範囲指定でしか利用できず、セルの移動や挿入は、メニューを介して行っていました。このため、使い勝手もいまいちでした。しかし、現在では、選択範囲の移動、セルの移動先への挿入(シフトキー併用)、フィルハンドルを使う「オートフィル」といった機能がマウスだけで利用でき、さらに、「ミニツールバー」や「クイック分析」ボタンなどが選択したセルのそばに表示され、マウスを大きく動かさなくてもいいようになっています。

ある意味、エクセルのセルの扱いは、マウスを使った高度なユーザーインターフェースの1つと言えます。長年、マウスを使ったユーザーインターフェースはさまざまなアプリケーションがさまざまな試みをしてきましたが、その1つの「頂点」とも言うべき形がエクセルのセル操作なのです。

もう1つオフィスの特徴の1つがリボンです。単純なメニューではなく、サンプルを使う表示に加え、その効果を設定先にリアルタイムに反映させることができるリボンも、GUI技術の当初からある「メニュー」の1つの到達点といってもいいでしょう。

こうしたものが、タッチ操作を前提にしたアンドロイドなどではどうなっているのでしょうか。簡単にいうと、セル操作やリボンはかなり簡略化されています。反面、セルや行番号、列番号などを選択したときに表示されるミニツールバーが強化されています。

具体的に見ていくことにしましょう。まず、セル操作ですが、タッチ操作であるため、セルにタッチすると、選択範囲を変えるためのハンドルが左上と右下に表示されます(写真02)。これをドラッグすれば、選択範囲を変えることができます。また、このとき、右下に点が3つ並んだボタンが出ますが、これで編集用のミニツールバーを表示させることができます(写真03)。ただし、Windows版のように、選択範囲をドラッグすることはできません。矩形範囲の移動なら、「切り取り」、「貼り付け」を使うことになります。

写真02: セルをタップすることで選択可能で、このときに、選択範囲を拡張するためのハンドルが左上、右下に表示される

写真03: 選択範囲右下のボタンを押すと選択セル用のミニツールバーが表示される

セル領域の外周にある「行番号」や「列番号」部分をタップすると、行または列をまとめて選択できます。このときも選択範囲を広げるハンドルが表示されます(写真04)。同様にミニツールバーも利用でき、この場合には、編集ボタンに加え、行や列の「移動へ挿入」、「削除」、「非表示」が指定できます(写真05)。なので、表の行や列単位での入れ替えは不可能ではありません。複雑な領域の入れ替えなどはクリップボードを介して行う必要がありますが、行や列単位ならば、比較的簡単に入れ替えや移動ができます。また、セルの幅や高さは、行番号や列番号を選択したときに右側、下側に表示されるラインの部分をドラッグすることで行えます。列番号など、かなり間隔はせまいのですが、選択したあとドラッグなので、間違った列を動かしてしまうことはなさそうです。こんな感じで、セルの配置を編集するのは、それほど難しくない感じです。

写真04: 行番号や列番号部分をタップすると、行や列の選択が可能。この選択範囲も丸いハンドルで拡張が可能。また、列番号右側の2重線をドラッグしてセルサイズを変更できる

写真05: 行番号や列番号のミニツールバーには、行や列の挿入、削除ボタンがある

リボンは「ファイル」、「ホーム」、「挿入」、「数式」、「校閲」、「表示」の6つのタブがあり、それぞれ、アイコンが1行に収まる範囲に簡易化されています(写真06)。また、タップによる選択なので、リボンによる書式編集などにプレビュー機能はありません。タップすれば、その書式などが選択されてすぐに反映されます。なお、リボンとリボンタブは省略表示が可能で、これにより、縦方向のセル表示範囲を広げることもできます(写真07)。

写真06: リボンは5つタブを持つが、選択したオブジェクトにより後に追加のリボンタブが表示される。写真は、図形を選択したときのもの

写真07: リボン右端のボタンで、リボン表示を省略して、セル表示範囲を広げることもできる

数式バー(写真08)は、右に関数ボタン、左に完了、取り消しのボタンがあり、さらに、縦に3行ほど大きく表示させることもできます(写真09)。関数でセル範囲などを引数として指定する場合、画面をタップし、ハンドルで選択範囲を拡大して指定することも可能です(写真10)。また複数のセル範囲が引数のときや複数の関数が引数にセル範囲を持つ場合、選択範囲は色分けされて表示されます。数式の編集中にも色分け表示は行われます。

写真08: 数式バーは、左側に関数ボタン、右側に取り消し、更新ボタンがある。また編集コマンドのミニツールバーも表示可能

写真09: 右端の矢印で3行程度にまで拡大表示可能。Windows版にもある機能だが、解像度の低いタブレットでは、割と有効な機能

写真10: 関数の引数にセルやセル範囲を指定する場合、セルのタップで指定が可能

このあたりの使い勝手はWindowsと変わりません。ただ、数式の編集中には、引数のほうをタップして、セル範囲を選択状態とすることも可能です(写真11)。タブレットでは、パソコンと違って、画面解像度も低く、物理サイズも小さいため、複雑な式だと、引数が必ずしも表示範囲にないことがあります。しかし、数式バーの数式にある引数をタッチすれば、対象のセル範囲が表示されます。この機能は、Windows版のExcel 2013には装備されていません。

写真11: 引数に複数のセル範囲などがある場合、色分けして表示される部分もWindows版と同じ。だが、引数のタッチで、対象セル範囲が選択状態(下の緑のセル範囲が点線表示)になり、ここが編集対象であることを表示する

ただし制限もある

基本的には、エクセルの標準関数などはすべて受け入れることが可能なのですが、他のブックへの参照(外部参照)には未対応でした(同一ブック内のシート参照には対応しています)。これは、アンドロイド版のエクセルでは、複数のシートを同時に読み込めず、一度に読み込めるブックは1つだけだからです。とはいえ、こうした外部参照を持つブックでも読み込むことは可能です。ただし、この時には、最後に読み込んだ別ブックのシートデータがセルの値となります。また、こうした外部ブックへの参照が多い場合、一部のセルが参照エラーとなって、シートが不完全な状態となることもあります。

マクロにも未対応です。マクロ付きシートは読み込むことはできるものの、実行させることはできません。また、マクロ呼び出し用のボタンなど、フォームコントロールのあるブックは読み込み自体ができません(写真12)。これが、最終仕様なのかどうかはわかりませんが、複数のブックから参照されるブックに共通部分をまとめて、こっちでマクロ処理を行うといった使い方は無理な感じです。

写真12: フォームコントロール(ボタンなど)、ActiveXやOLEオブジェクトを含むブックは、開くこともできない。これらの機能には未対応のためだ

ざっとつかってみた印象では、ちょっとした手直しや表作成には十分利用可能ですが、シート数が10枚越えるような大きくて複雑なシートの作成や編集にはむいてないというところです。もっとも、最終製品版でないことから、実際に製品が出たときには、大きく仕様などが変わる可能性はありますが、大幅には違わないと思われます。

また、アンドロイドでは、BLuetoothやUSBホストケーブル経由で、マウスやキーボードを接続できます。プレビュー版をインストールしたタブレット(Nexus 9)に接続して使って見ましたが、機能はタッチベースのものと同じでした。マウスやキーボードから使った時にはWindowsと同じになると、本格的な利用も可能なのですが。

使い方としては、グラフや表を数点作成する程度でしたら十分利用可能です。最終製品が出れば、アンドロイドのタブレットの利用形態がかなり変わりそうです。というのも、これまでもアンドロイドで動作するオフィス互換アプリはいくつもあったのですが、どれも、「再現性」に何かしらの問題があり、ましてや編集でオリジナルが持っていた情報を損なう可能性など、利用者はある種の不安を抱えていたからです。しかし、今回は「本物」のエクセルです。再現性については問題ないし、編集でデータを壊してしまう可能性はかなり低いと考えていいでしょう。

だとすると、ようやくアンドロイドのタブレットでも本格的なビジネス利用が可能になったといえます。

本稿は、2015年1月28日にAndorid情報のWeb専門誌「AndroWire」に掲載した記事を再構成したものです。