外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏が2017年7月の為替相場レビューと、今後注目の経済指標やイベントをもとにした今後の相場展望をお届けする。
【ドル/円相場7月の振り返り】
7月のドル/円相場は110.214~114.491円のレンジで推移し、月間の終値ベースでは約1.9%下落(ドル安・円高)した。6月中旬以降は、日米金融政策の方向性の違いを手掛りとして上昇していたが、11日の114.491円をピークに反落。イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)が、議会証言で低インフレに対する警戒感を滲ませた事が追加利上げ観測を後退させたほか、米議会でオバマケア改廃法案の審議が進まず、トランプ大統領の経済政策の実施が遅れるとの見方が広がった事でドルが売り戻された。
トランプ政権については、ロシアゲート疑惑の再燃に加え、スパイサー報道官やプリーバス首席補佐官の辞任に、スカラムッチ・ホワイトハウス広報部長の解任など、人事面でも悪材料が続出。そのほか、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)と見られる飛翔体を発射(4日、28日)した事もドル/円の重しとなった。
【ドル/円相場8月の見通し】
為替市場におけるアノマリーとして最も有名なもののひとつが「8月の円高」だろう。8月は夏季休暇シーズンにあたるため重要イベントが少なく、為替相場はフローに左右されやすくなる。そうした中で、大型の米国債償還・利払いが日本のお盆休み前後に重なるためドル安・円高に振れやすいとされる。ただし、こうした傾向は1990-2000年代に見られたものであり、2010年代に入るとむしろドル高・円安に振れるケースが多い。東日本大震災が起きた2011年以降、昨年までの6年間でドル安・円高に振れたのは、一昨年(2015年)の一度だけであり、他の年は全てドル高・円安で推移した。米国債の償還・利払いよりも、震災後の本邦輸出減少の影響が大きかったと考えられるほか、アベノミクスによる思惑的な円売りニーズが勝ったというのが近年の傾向であろう。
「8月の円高」アノマリーを強く気にするべきではないが、7月のトレンドが「ドル安」であっただけに、8月もドルの続落への警戒が残りそうだ。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ期待が後退しつつある中で、7月雇用統計などの米重要統計の結果を見極めたいところであろう。また、トランプ米政権に絡むスキャンダル報道は、経済政策実行への期待感を減退させるためドル売り材料になりやすい。そのほか、北朝鮮への対応(北朝鮮の行動自体はさほど大きな影響はないだろう)をめぐり、米・中の対立が鮮明化しないか注意しておく必要もありそうだ。
執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya