指しゃぶりの原因や影響は?

赤ちゃんの"指しゃぶり"。その愛らしい姿に、周囲の誰もが笑顔になるもの。けれど、この指しゃぶりが何歳になっても続いていると、心配でやめさせたいと思うのが親心である。

今回はその原因や影響について、日本大学 松戸歯学部名誉教授、芝公園小河歯科医院で小児歯科・小児矯正歯科部門の責任者を務める前田隆秀先生に聞いた。

年齢によって、指しゃぶりの意味は異なる

実は、胎児の頃から見られるという指しゃぶり。その理由を伺ったところ、母乳を吸う練習をしているのだという。それでは、うまれた後の指しゃぶりには、どのような意味があるのだろうか。これについては、「指の感覚を確かめ、口を動かすことで、離乳の準備をしていると考えられます」と前田先生。一般的に乳幼児の発達過程においては、指しゃぶりによってさまざまなトレーニングをしていると認識されているようだ。

一方で、3歳を過ぎての指しゃぶりは話が別。ストレスや、欲求が通らないこと、不快なことを抱えている可能性があるという。指しゃぶりは、不快なことを快いことに変えていくための行為。そして、それがクセ(習癖)になるというサイクルがあるのだそう。前田先生は、「母親との愛情の問題があるのではと、心を痛めるお母さんもいらっしゃるかもしれませんが、ただ単に退屈な場合も多いです」と説明する。

4~5歳を過ぎたら、歯並びやかみ合わせなどに影響が

乳幼児の成長に必要だった指しゃぶりも、2歳頃には自然となくなっていくケースが一般的。1人で歩くことができるようになれば、子どもの興味の世界は一気に広がり、自然と終了することが多いそうだ。「乳歯が生えそろっていない乳幼児の頃の指しゃぶりは、悪影響が残ることは少ないので神経質になる必要はない」という。

しかし4~5歳を過ぎても指しゃぶりのクセが抜けない場合、さまざまな影響があるよう。前田先生は、「指を口に入れることで、常に前歯の上下間に隙間があき、"開咬"(かいこう)になるケースもあります」と指摘する。奥歯だけがかみ合い、前歯があいてしまう状態のことだ。

また、以下のような状態になる可能性もあるという。

・食品を飲み込む時に、舌が前歯の間から突出するクセがつく
・発音が悪くなる
・出っ歯になる
・口呼吸になる
・口元が出っ張ることで、顔の印象が変わる
・交叉咬合(こうさこうごう: 上下の歯をかみ合わせた時、奥歯の上下の歯列が左右にずれてしまう状態)になる
・いつも口が開いている状態で、口が閉じにくくなる

さらに注意したいのは、かみ合わせ。前田先生の解説によれば、正常な歯列であれば、舌と頬の筋肉によって、歯が舌の形にそって半円形にきれいに並ぶ。しかし、指を長くしゃぶり続けると、頬の筋肉が異常に強くなる。その結果、上の奥歯が内側に入り、下の歯が上の歯を覆うようになってしまうことがあるのだという。

うまく物をかめなくなり、ゆくゆくは顔が非対称にゆがんでしまうケースもあるというから心配だ。

どんな時に指しゃぶりをしているか観察しよう

これらのことを考えると、3歳になったら、指しゃぶりの卒業準備をした方が良さそうだが、どうしたらよいのだろうか。前田先生によれば、「すぐにやめさせようとするのではなく、子どもがどんな時に指しゃぶりをしているのか、観察から始めるといい」のだという。

おなかがすいている時、眠い時、退屈な時など、指しゃぶりをするシーンは子どもによってさまざま。そのシーンが分かったら、決して無理強いをせず、指しゃぶりの代わりとなる別のことに、優しく導いてあげよう。例えば寝る時に指しゃぶりをするクセがある場合、子どもの手を握りながら絵本を読み、愛情に包まれて眠りにつけるような環境を作ることで、自然とやめられる場合もあるそうだ。

指しゃぶりをやめさせることに固執すれば、かえってこじらせてしまうかもしれない。もっと他に楽しくて幸せな体験があることを理解させ、親が一緒に寄り添ってあげることが、指しゃぶりをやめさせる近道と言えそうだ。

※写真と本文は関係ありません


前田隆秀先生プロフィール

日本大学 松戸歯学部名誉教授、芝公園 小河歯科医院にて小児歯科・小児矯正歯科部門の責任者を務める。日本大学歯学部卒業後、自治医科大学、東京医科歯科大学を経てカナダ・トロント大学に留学し、小児の健全な口腔育成に必要な知識、技術を習得。
日本大学松戸歯学部小児歯科学講座教授に就任した後は、臨床、研究、学生教育に専念するかたわら、小児歯科専門医指導医として、数多くの小児歯科専門医を育成してきた。