日本でSuicaを経験していると、いくらiPhone 6sシリーズで指紋認証が劇的に速くなったといっても、そのスピードや正確さにはまだまだ大きな隔たりがあると感じている。それだけ、日本のICカードと読み取り機器の基準が高く設定されているかが分かる。

Apple Payが日本のSuicaのスピードに追いつこうとはしていないため、オリンピックに向けて外国人向けに多少用意するとしても、日本の自動改札をApple Payで通れる未来は訪れないと考えている。

しかしApple Payと既存のクレジットカード決済や現金決済を比べれば、明らかにスピーディーでシンプルになっている。比較対象が異なるため、遅いと感じるApple Payであっても、十分スマートを名乗ることができるのだ。

AppleがApple Pay普及のテコにSquare Readerを使いたいように、Squareにとっても「いかに手軽にApple Payをはじめとするコンタクトレス決済に対応できるか」を武器にSquareの普及拡大につなげて行きたいだろう。

スピード面ではなく、その他のシチュエーションで考えてみると、Apple Payが便利に利用できる場面は少なくない。

利便性を経験してもらう場面をいかに作り出すか。これがApple Payにとっての課題になっている。こうした中で、もしかしたら、地元の小さな商店やフードトラックが、Apple Pay体験の主力の場となるかもしれない。

例えばSquare導入の例で上げたフードトラックは、大抵、窓口が非常に高い場所にあり、カードや現金の受け渡しは日本人の筆者としては難がある。手の平に載せた小銭を渡そうものなら、こぼれ落ちて顔に当たるのだ。

もしSquare Readerがぶら下がっていたり、車のボディの外側に磁石で張り付いていたりすれば、ちょうどよい高さでiPhoneを近づけて決済を済ませることができる。こうした決済のスタイルを、AppleとSquareは共同で提案していくと良いのではないか、と思う。

松村太郎(まつむらたろう)
1980年生まれ・米国カリフォルニア州バークレー在住のジャーナリスト・著者。慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程修了。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。近著に「LinkedInスタートブック」(日経BP刊)、「スマートフォン新時代」(NTT出版刊)、「ソーシャルラーニング入門」(日経BP刊)など。ウェブサイトはこちら / Twitter @taromatsumura