KDDIは10月29日、スマートフォン上での新しい広告配信を12月から開始すると発表した。年齢層や性別、居住地にもとづいた「統計パターン推奨型広告」と、ユーザーのクリックや閲覧の履歴にもとづいた「閲覧パターン推奨型広告」の2種類を子会社のmedibaを通じて提供する。いずれもいわゆるターゲティング広告で、高い広告効果やユーザーのニーズに近い広告の配信を目指すとともに、プライバシーにも配慮した広告配信の仕組みを構築している。

今回提供される広告は、それぞれ独立した2種類の仕組みを使っている。統計パターン推奨型広告は、KDDIが所有する契約者情報にもとづき、性別(男女)、年代(10/20/30/40/50代)、居住地(47都道府県)の基本情報をmedibaに提供。同社のアドネットワークである「mediba ad」のSDKを組み込んだAndroidアプリとiOSアプリに、それぞれの要素にもとづいた広告を配信する。SDKを組み込んだアプリは、端末に保存されたau IDの情報にアクセスし、それを元に各要素の情報が送信される仕組みだ。

この広告の提供と同時に、KDDIでは各要素の情報開示ページを開設し、オプトアウトの仕組みを提供する。PCやスマートフォンからページにアクセスすると、性別や年代、居住地の情報が送信されているかどうかが一覧表示され、その送信を拒否するかどうかが選択できる。au IDの設定ページからアクセスできるほか、アプリ内に表示される広告からも同ページにアクセスできるようにする。この広告はauユーザーのみに提供され、広告に利用する基本情報も当面はmedibaのみに提供する形だ。

もう1つの閲覧パターン推奨型広告は、エンタメ系、女性形、EC系、金融系、ライフスタイルの各ジャンルから指定した広告を配信。ユーザーの閲覧履歴にもとづいて広告を配信するため、より精度の高い広告が配信できるようになる、という。

手法としては、これまでPC向けWebサイトで提供されているターゲティング広告と同じような仕組みを利用する。従来のスマートフォンアプリでは、アプリ間のデータ共有ができないため、アプリAでユーザー動向を追跡しても、それをアプリBでは利用できず、アプリをまたがったPCのようなターゲティング広告ができなかった。そのため、今まではIMEIなどの端末固有IDを取得してターゲティング広告が行われてきたが、固有IDはユーザー側で制御できず、常にIDが変わらないため、名寄せなどのプライバシーリスクが存在し、長く問題視されてきた。

KDDIは今回、KDDI研究所が開発した技術を用い、固有IDと乱数を組み合わせて独自IDを生成して、Android端末ならExternal_SDカード内に共有フォルダとして暗号化して保存。これを各アプリから利用することで、アプリがそれぞれ固有IDを利用せずに、ターゲティング広告が可能になった。手法としては、PC向けWebサイトの第三者Cookieと同様の手法で、いわゆるUUID(Universally Unique Identifier)の仕組みを実現した。

UUIDを使うことで、端末とは無関係のキーが生成され、ユーザーの情報も使われないため、プライバシーリスクが減少する。さらに配信される広告から、ユーザー自身がUUIDを削除することも可能で、ユーザーの「忘れられる権利」も確保した。

KDDI研究所主任研究員の竹森敬祐氏によれば、UUIDを共有フォルダに保存するやり方は他社でも行っているが、「暗号化をする」「固有IDを送信しない」のは今回の技術だけだということで、「最高レベル」の安全性を確保したと自信を見せる。とはいえ、PCでは第三者Cookieを暗号化して保存しているわけではない。今後、竹森氏は情報処理学会などで論文を発表し、暗号化までが必要かどうかなど、コンセンサスを得たいとしている。竹森氏はほかの手法も検討しており、それも含めて発表を行い、議論を深めたい考えだ。いずれにしてもKDDIでは、そうした議論を待たずに、まずはよりプライバシーに配慮した形で提供していく。

すでにKDDIでは、Cookieを使った閲覧パターン推奨型広告を、AndroidのWebサイト向けに提供しているが、12月からは今回の技術を用いてアプリ内広告でも提供。これとは別に、12月から統計パターン推奨型広告を、Androidアプリ、Web、そしてiOS向けのWebサイトに対しても提供する。今後、iOSのWeb向けには閲覧パターン推奨型広告を、iOSアプリ向けには統計パターン推奨型広告の提供を検討していく。

KDDIは、Androidの通知領域に「AirPush」型の広告配信を行うなど、これまでも批判を受けてきた。こうした課題を反省点として取り組みを行い、より安全性と透明性の高い広告配信の仕組みを構築することを目指したという。8月に総務省が公開した「スマートフォン プライバシー イニシアティブ」の作成には竹森氏も参画しており、同報告書以上にプライバシーに配慮した、という。「スマートフォン広告の信頼性向上」につながることも狙っており、広告効果の向上とともに、市場の拡大を目指していきたい考えだ。

(記事提供: AndroWire編集部)