日々、新たなiPhoneアプリが登場し競争が激化している。その中で成功を収めたデベロッパーたちは、アプリ開発にどう向き合っているのか。Apple Store, Ginzaで6日、AppBank主催のトークイベント『iPhoneアプリ勉強会第3回:物書堂 × AppBankトークセッション』が開催された。『ウィズダム英和・和英辞典』『大辞林』などの辞書アプリで躍進を続ける物書堂(ものかきどう)の廣瀬則仁氏がゲストとして登場し、成功するアプリ開発の考え方を明かした。同氏の講演内容をレポートする。

事業撤退が人生を変えた

物書堂は現在、12本のiPhoneアプリをリリースしている。約2年間で売れたアプリは累計約27万本、売上にして約6億円。これは物書堂の廣瀬則仁氏と荒野健太氏のたった2人で築きあげた数字である。

両氏はもともと、エルゴソフトというMac向けに日本語入力ソフト等を開発する老舗ソフトウェア会社のプログラマーだった。そんな二人が物書堂を設立することになったのは、2008年1月、同社の事業撤退がきっかけだった。「Macの国内販売は不振が続き、右肩下がりを続け、会社が事業から撤退することになりました。けれども、転職しようにもMacのコードしか書けない僕らの転職先は限られ、経験を活かしながら働いていくために物書堂を設立しました」(廣瀬氏)。

写真は廣瀬則仁氏。iPhone 3G発表直後の段階では、iPhoneがビジネスになるとは想定していなかったという

2008年4月にスタートした物書堂は当時、Mac用のワープロソフトを制作。今でこそ、iPhoneアプリで成功を収めたものの、設立当時はApp Storeもなく、iPhoneでのビジネスは想定していなかったという。

iPhoneアプリ開発のきっかけは、危機感。「iPhone 3G発売のアナウンス後、日本国内のデベロッパーがiPhoneアプリの開発を様子見していると聞いた。なんとかアップルを盛り立てていかないと、自分たちの将来もなくなってしまう」(廣瀬氏)。さらに「App Storeのオープンに合わせてタイトルを出せれば、物書堂をアピールするビッグチャンスになります。辞書であれば、前職での経験があるし、電子辞書の市場ニーズが大きいことも知っていました」(同氏)と市場分析も欠かさず、成功のメドを立てていた。

開発に取り組んだのは、iPhoneアプリの『ウィズダム英和・和英辞典』。App Storeオープンのわずか24日前のことだった。以後、廣瀬氏はアプリ開発に加え、辞典をアプリ化するためのライセンス契約、アップルとのデベロッパー契約を進め、期限内にすべてを終えた。