――以前、MP3プレイヤーを宇宙へ持って行ったのは自分が初めてかも、とお話しされていましたが、好きな音楽を宇宙へ持参するというのはよく行われていることなのでしょうか。

提供:NASA

野口「好きなCDを持って行くということはずいぶん前から行われていたみたいです。最近はパソコンにDVDドライブが付いているので、DVDを持っていくことも多いようですね。実際には一人で音楽を聴く時間はほとんどなくて、寝る前に試しにMP3を聴いてみるか、というくらいでした。むしろ食事のときとかに、誰かが持ってきた音楽をみんなで聴きながらご飯を食べたり話をしたりという機会がけっこうありました。いまは、聴きたい音楽はMP3などにして持っていけるので、CD自体を持っていくのは、その音楽を"もの"として持っていきたいという希望なのではないでしょうか。

私物の持ち込みは、あくまで例外的に認められるものなので、実際はこのほか、家族の写真や思い出の品物といった、どうしても持っていきたいという本人の強い希望があり、かつ安全性に問題のないものに限られています」

――気圧計の付いた腕時計も持っていかれたということですが、宇宙でも役に立つものなのでしょうか。

野口「今日着けてきたのがその時計で、これも日本の製品ですが、船外活動の前の晩に準備段階として気圧を少し下げたとき『いま気圧が変化していて、だいたいこれくらいの値なんだな』というのは、十分この時計の気圧計の数字でも追いかけることができました。当然ながら船内には気圧計があり、それほどの精度は腕時計では出ないのですが、こういった小さなものでもある程度気圧を知ることができるかには興味がありました。

提供:JAXA/GCTC

というのは、宇宙船では火災、減圧、衝突の3つが最も怖いことなのですが、そのひとつの減圧に関して、もちろん気圧は機内のコンピューターでしっかり管理されてはいるのですが、こういった機器で個人でもモニターできるといいなと思ったんです。後のふたつ、衝突は個人の力で対応するのは難しいですが、火災を検知する機能は時計など個人が身につけるものに付いているといいかもしれません」

――宇宙での生活の中でもこれが使えたら便利だろうな、というデジタル機器は何かありますか。

野口「いまの日本では、携帯電話だけ持っていれば生活ができるというくらい、あらゆる情報家電の機能が携帯電話に搭載されるようになっていますよね。そういった機器は宇宙ステーションにはなくて、メールを送るときはパソコンの前に行き、写真を撮るときは大きなデジタル一眼レフカメラを、音楽を聴くときは音楽プレイヤーを使っていました。もちろんそれぞれは高性能なんですけど、首からさげた小さなマシンだけでいろいろながことができたら便利だと思いますね」

――SFの世界では、宇宙船のクルー全員が何でもできる万能端末を持っている、という設定がよくありますね。

野口「その意味では、いまの日本はちょっと前のSFの世界そのものなんですよ。こんな小さなもので、自動販売機でジュースが買えるし、電車にも乗れるし、音楽も聴けて写真も撮れる、そしてもちろん電話もできる。そういったものが日本の社会ではもう実現していると考えると、宇宙の世界も頑張ってそれに追いつかないといけないなと思いますね」……続きを読む