ローマ教皇フランシスコやバラク・オバマ元アメリカ合衆国大統領も愛用していたといわれる「チプカシ」という腕時計をご存じでしょうか? 今回は、世界の著名人を魅了したカシオの名機に迫ります。
チプカシは人類のインフラ!?
「チプカシ」とは「チープカシオ」のことです。比較的安価に購入できる腕時計コレクション「カシオ コレクション」を指します。チプカシは解説本が出版されるほどの人気で、世界中にファンやコレクターがいます。
カシオのホームページを確認すると、カシオ コレクションには148種類もの腕時計がラインアップされていて、そのほとんどが2,000~4,000円くらい(高いものでも1万5,000円ほど)で購入できます。
そんなチプカシの中でも代表的なモデルが、1989年に登場した「F-91W」です。カシオが安価で薄く軽量なデジタル腕時計を量産するため、技術開発を進めたことで誕生したモデルです。安価な腕時計の代名詞的存在ともいえます。
チプカシは、多くの著名人が愛用していることでも知られています。アメリカの元大統領バラク・オバマ氏は、若い頃にF-91Wを身に着けていたそうで、そのときの写真が確認されています。また、2025年4月に亡くなった第266代ローマ教皇フランシスコも、チプカシ(MQ-24-7BLLJH)を身に着けていたといわれています。ほかにも、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏やタレントの木村拓哉氏などが愛用していたそうです。
愛用者が多いのは、単に生産本数が多く安価であるだけでなく、腕時計として必要な機能が十分に備わっていることも理由だと思います。
著名な時計ジャーナリストの中には、チプカシを「人類のインフラ」「今までに億は売れている」などと評する人もいます。そうしたこともあってか、とくに中東地域で暗躍している一部の人たちは、時限爆弾のタイマーとしてこのF-91Wを使っていたという公的機関の報告もあるほど。それほどさまざまな人たちに浸透しているのです。
真贋をチェックできる機能を搭載
F-91Wに限っていえば、日常生活防水(低価格帯の腕時計だと非防水なことも多い)が備わっているのは嬉しいところです。さらに、暗闇でも視認しやすいLEDライト、12/24時間表示切り替え、ストップウォッチ、アラーム、オートカレンダーを備えるなど機能は多彩です。また、右下のボタンを長押しすると、液晶に「CASIO」という表記が現れる隠しコマンドも搭載しています。CASIOの表記が現れれば、本物のカシオ製品(カシオ製モジュール)であることを確認できます。いわゆる真贋チェック機能なんですね。人気のチプカシだけに、ニセモノ対策として搭載している機能なのだと思われます。
ケース厚は8.5mmと薄く、重量は実測で20.2g。着けていることを忘れてしまいそうになります。ここまで機能が満載で、電池寿命は約7年。しかも、アラームやストップウォッチを毎日使って7年も持つというので驚異的です。それが定価2,200円(実売は1,400円ほど)で買えてしまうのですから、コレクションしたくなってしまう気持ちもわかります。
なおチプカシは、電気店やホームセンターでも気軽に買えます。チプカシ沼は街の至る所に潜んでいるのです。
筆者の身近にも愛用している人は多く、何人かに話を聞きてみると、「間違って洗濯してしまっても問題なく使えるという逸話は有名なので、試しに海水浴で海に入ってみたけど、いまだに問題なく使えている(実際には日常生活防水で海水浴は非推奨ですが)」といった武勇伝(?)を聞くことができました。
世の中のあらゆる製品の中で、ひとつ千円ちょっとで買えるものから数十億円出さないと買えないものまで出回っているのは、おそらく腕時計くらいしかないと思います。千円でも10億円でも時間を知るという機能は同じはずですが、腕時計の価値には、値段では計り知れない何かがあるのかもしれませんね。