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2 「シチズン アテッサ」ができるまで。

企画者の挑戦:アイデアを少しずつ形にしていく企画の力

JUL. 17, 2025 16:17
Text : 諸山泰三
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日本が誇る世界有数の腕時計メーカー、シチズン時計を取材。人気ブランド「シチズン アテッサ」のルナプログラム/ムーンフェイズ搭載モデルを例に、腕時計の新製品がどのようなプロセスを経て誕生するのかをお届けします。

1本の腕時計が誕生するまでには、さまざまな役割を持つ担当者が関わり、少しずつ完成に近づけていきます。出発点ともいえる商品企画部門がどのように商品の誕生に関わっていくのか、シチズン時計で商品企画を担当する宮原太郎氏に聞きました。

  • 商品企画担当の宮原太郎氏

■ルナプログラム
時計が受信した電波に含まれる日付情報をもとに、ムーブメント内部で月齢を計算してダイヤル上のムーンフェイズで表示する機能。ムーンフェイズ部分では、月の満ち欠けの方向を「北半球からの見え方」と「南半球からの見え方」に切り替えることも可能。

新しい時計を生み出す企画の中心には商品企画がいる

―― 腕時計の新しいモデルを作るとき、最初にどのような仕事が発生するのでしょうか。

宮原氏:腕時計の各モデルの開発がどこからスタートするかというと、商品企画部門が発案するケースが多いのですが、そういう決まりになっているわけではありません。

私たち商品企画部門が商品のラインナップを考慮して、どんなモデルが必要かという判断で始めることもあれば、技術部門が新しいキャリバー(ムーブメント)を提案して始まることもあります。また、社内のデザインコンペがきっかけで始まることもあります。例えば、アテッサのルナプログラムは原口が技術部門にいたときに提案した技術ありきのモデルです。

ただどのようなきっかけであれ、商品企画部門が、材料を調達する部門や量産する工場の現場などとも情報をすり合わせて、このくらいの価格帯でこんなイメージでといった企画書を作ります。最初の企画書は言葉だけで、デザイナーが描いたスケッチは付きません。それを上司のいる企画会議で審査してもらって許可がおりれば先へ進みます。

1本の腕時計が完成するまでには段階を踏んで数回の企画会議をパスする必要があります。そのたびに各部門との情報交換や意見調整を行います。企画の初期段階から大きく変わることはありませんが、技術部門やデザイン部門の提案を加えて軌道修正することはあります。

  • ルナプログラム発案者の原口大輔氏

―― 審査をパスした企画が途中でダメになるケースもあるのでしょうか?

宮原氏:ありますが、多くはありません。企画会議をパスできなくても、多くはパスできるまで改善するからです。これはもう無理だと断念するのは、例えば過程を踏んでいる間に市況が急変するようなケースです。コロナ禍のときは訪日外国人から人気の高いモデルのアップデートは見直さざるを得ませんでした。

現在と過去の市場データをインプット、未来に向けてラインナップを作る

―― 流行を追いながらも、流行だけでは読み切れない要素もあるわけですね。流行はどのように追っているのでしょうか。

宮原氏:商品企画部門では市場の動向や腕時計のトレンドなどの情報を常に頭に入れています。どういうモデルの人気が伸びてきていて、逆にどういうモデルが落ち着いてきているのか。シチズンの製品だけでなく他社製品も含めて、過去から膨大なデータを蓄積しています。流行を時代的な流れとして把握することで、現在だけでなく何年も先のトレンドを予測しているのです。

例えば当社では、「シチズン」という大きなブランドの下に、アテッサ、プロマスター、クロスシーなどのサブブランドがあります。時計は企画が持ち上がってすぐに商品になるわけではありませんから、将来のトレンドを予想して各ブランドのラインナップを強化するためにモデルを追加したり、入れ替えたりするモデルをいくつも検討し、複数の企画を同時並行で開発しています。

  • 「シチズン」ブランドの時計には11のサブブランドがあります。シチズン時計のWebサイトは検索機能が充実しており、さまざまな条件を設定して時計を探せます

企画書を作って、社内審査をクリア

―― 企画書を作るときには、どんなことに気を付けていますか?

宮原氏:毎年2月と9月に時計店さんやバイヤーさん向けの商談会があり、そこに向けて営業用のダミーを完成させるスケジュールで動きます。ダミーといっても量産していないだけで、仕様は量産品と同じ実質的な完成品です。

商談会は、販売してくださる方々がどのモデルをどんな価格でどれだけ仕入れるかを決める場でもあるため、社内では商品の発売日と同じくらい大事なイベントです。企画書はこの商談会から逆算して準備していきます。

企画書はどうしてその商品を開発するべきと考えるのか、自分の中のロジックを第三者に伝えられるようにすることが重要です。市場動向やターゲットなどを整理することはもちろんですが、どういう切り口の商品があればラインナップを強化できるかを考えます。

以前は便利さを重視する視点でのアイデア出しが多かったのですが、最近はスマートウォッチの台頭もあって、どうやったらユーザーが魅力的な時計だと感じてくれるか――という視点でアイデアを出すことが増えました。

先述のとおり、商品の完成までには何度も企画会議の審査をパスする必要があります。既存のモデルをアップグレードするような商品は割と早くパスできますが、チャレンジ要素が強い新モデルなどは議論が多くなり、パスするまでに時間がかかります。

アップグレードの場合もチャレンジの場合も、審査は1回目よりも2回目以降のほうが厳しくなります。特に新しいムーブメントを採用するときは、ムーブメントの開発には時間とお金がかかるものなので、上長も甘い判断はできません。

  • ニューモデルだけを一覧表示することも

ルナプログラムはどうやって企画会議を通ったのか

―― 具体例として、ルナプログラムの場合はどうだったのかを聞かせてください。

宮原氏:ムーンフェイズを実現するルナプログラムがどうやって発案されたのかは、このあと原口に語ってもらいましょう。彼が商品企画部門にアイデアを持ってきたあと、私たちはこのアイデアを受け取って検討し、アテッサがふさわしいと判断しました。

アテッサはビジネスマンが愛用しているモデルの中では一番人気のシリーズで、そこに遊び心のあるムーンフェイズを掛け合わせたほうが、より注目してもらえるのではないかと考えたのです。スポーティとエレガントを調和したデザインで多くの方々にご愛用いただいているアテッサであれば、この特徴的なムーンフェイズも受け入れてもらえるのではないか、と考えました。

  • ムーンフェイズ搭載のアテッサは多機能でありながらシンプルでエレガントなデザイン。左が「BY1001-66E」(14万8,500円)、右がブラックチタンシリーズにも属する「BY1006-62E」(18万7,000円)

宮原氏:社内ではムーンフェイズの電波時計(腕時計)にどのくらいニーズがあるのかという声もありましたが、売れ行きだけで考えず、ロマンのあるモデルをラインナップしたい。そのコンセプトが企画会議で承認されました。

結果的にこの判断は想像以上に良い結果でした。ルナプログラムを採用したアテッサのムーンフェイズモデルは、私たちの予想を大きく超えて好調な売れ行きを見せています。

―――――

商品企画部門はラインナップ全体を見て、市場性や将来の流行なども考慮してバランスを取りながら製品づくりの舵取りをしていることが分かりました。次回は技術部門が腕時計の誕生に関わる役目を見ていきます。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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